世界同時不況の影響で、地域のITシステム構築を担うITベンダーにも嵐が吹き荒れている。しかし、それだけがショック要因ではない。以前から首都圏などに比べて経済格差が生じていただけに、「次のビジネスモデル」を検討し始めており、地域ベンダーの「構造改革」は予想以上に進展しているようだ。全体的には「売り切り型」から「ストック型」への移行、そして「得意分野」への事業集約化が鮮明になっている。
ストック型への移行、鮮明に
ハードウェアやソフトウェアを主に販売する地場で活躍するITベンダーは、製品のコモディティ(日用品)化や低価格化の波を受け、早くから「売り切り型」で収益を上げるモデルの見直しに着手している。さらに「クラウド/SaaS」型のサービスが台頭してきたことが、改革に拍車をかけているようだ。
帝国データバンクによると、今年6月の地域別景気DI(景気動向)は、南関東、九州、四国以外の地域は全国平均を下回った。ただ、全体の推移をみると、地方圏を中心に内需が堅調に推移し始め、景気は底を打ったようだ。
地域の企業では、オフコンなどレガシーシステムの置き換え時期が到来している。とはいえ、好景気時と異なり、「IT機器やソフトウェアなどの性能がよくなったから乗り換えましょう」というような単純な提案には、ユーザーは食指を動かさなくなっている。「将来的なコスト削減」「初期投資の抑制」「費用対効果がみえる開発」といった要求が、ベンダーにぶつけられているのだ。「クラウド/SaaS」などを横目に見ながら、地場のITベンダーにはいままでと違う提案力が求められている。最新のIT技術や地場で培ったノウハウを棚卸ししつつ、次の世代に向けたソリューションと収益モデルを描き始めた。
北海道・東北地区
自社開発ソフトで地道な開拓
ノウハウの「横展開」増加
北海道・東北地区では、不況前からユーザー企業のIT投資意欲が低下し、昨年秋からの世界同時不況で一段と厳しい局面を迎えている。この不振を打開するため、地場ITベンダーでは、次の景気回復時に備え、粗利益の高い自社製品の開発強化が目立つ。地場のユーザー企業に根ざした独自のソフトウェアやアドオン策などで、地元案件で首都圏大手ITベンダーが入り込む余地を残すまいとしている。
宮城県仙台市の開発系SIerであるサイエンティアは、自社開発ソフトなどを武器に「複数領域でビジネスを手がける」(荒井秀和社長)と、事業領域の拡大を匂わす。同社は大学向けの人事・給与システムの提供を得意とするが、ここにきて地方自治体や一般企業を対象にした製品・サービスの提供に目を向け始めた。「2009年中は、一つの業界に集中して案件獲得を狙うことには危険が伴う。コンペティション(競合)で価格の叩き合いになった場合は、すぐに手を引く“術”をもたなければならない」(同)と気を引き締める。領域拡大策として、提案先の顧客を増やし、そこから少しでも多くのシステム案件を受注に繋げようとしているのだ。「顧客に適したソフトを提供する開発力は他社に負けない」と自負しており、低価格路線に走らず、着実に利益を確保する方向へ歩を進める。
岩手県内のトップSIerであるアイシーエスは、システム再構築の需要が高まっていることを受け、自社開発の財務会計システムを大幅にバージョンアップする計画だ。「今は多くの案件が転がっている時期ではない。景気が回復した際、いつでも攻められるように準備する」(邨野善義社長)と、スタートダッシュに備える開発を急ぐ。また、「積極的に既存顧客とコミュニケーションを活発にし、つき合いの継続につなげる」(同)と、地道な準備作業に余念がない。頭打ちの受託ソフト開発に関しては「内製化を徹底し、可能な限り外注費を減らす」と、原価低減も進める。
北海道のSIer、ノーザンシステムは、業務ソフトの汎用製品や自社開発製品の導入と、これに付随するカスタマイズを得意とする。保険代理店業や建設業など、大手が使うソフトで賄えない部分を「低価格の汎用ソフト+カスタマイズ」で競合と相対してきた。同社の大野真澄常務取締役は「的確なシステム提案・構築を積み重ねて、『ノーザンシステムなら安心』という信頼を得てきた」と語る。顧客数が増えていることから、これまでの導入実績で蓄えた技術力を道内外へ“横展開”する動きを本格化させる。
実際、道外の電力会社や道内大手の建設関連会社から、高額案件が舞い込んでいる。現在、道外の売上高は全体の約3割。これらの案件をテコにして、道外進出を狙う。一方で道内では、得意とする中小企業向け会計システム導入を増やすため、公認会計事務所との連携を開始。この顧問先を対象として新規案件の獲得を目指す。
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