ユーザー企業のIT投資抑制に、製品単価の下落。そして、「所有から利用へ」の大波……。ハードの販売事業で利益を捻出するのは、以前にも増して厳しくなった。ITベンダーのなかでも、ハードの販売ビジネスの割合が多いSIer(販売系SIer)は、その状況に危機感を覚え、新たな領域にビジネスの軸足を移そうとしている。
「ハード売り」の厳しい現実
ソリューション時代の今、ハードウェアはそれを構成する一つの部品に過ぎない。とくにサーバーはオープン化の流れと標準技術の採用で、製品はどのメーカーでも似たり寄ったりになり、差異化要素は薄れた。それゆえに起きるべくして起きた価格勝負での単価下落。「コンピュータ」を売れば儲かる時代は終わった――。ハード事業からの脱却、他領域での差異化は今、SIerにとって急務なのだ。
調査会社は大幅なマイナス予測
市場規模は08年比4分の3に!? ハード事業を取り巻く環境がかなり厳しいことを、各IT調査会社は共通して浮き彫りにしている。
図1では、調査会社IDC Japanが2009年11月に公表した、国内IT市場の分野別成長率予測数値を示した。「ハード」「パッケージソフトウェア」「ITサービス」の3種類にIT産業を大別してみると、ハードの成長率が最も低いことが分かる。ハードの08年から13年の年間平均成長率(CAGR)はマイナス5.5%。13年の市場規模は需要が旺盛だった08年に比べると、実に25%も縮小する(4分の3になる)というのだ。ちなみに、IDC Japanが示したハードには、PCや各種サーバー、ストレージ、ネットワーク機器が含まれる。
別の調査会社で、サーバーの主役ともいえるx86サーバーの調査に強いノークリサーチでは、09年度(09年4月~10年3月)上期出荷台数を前年同期比15.8%減の22万5671台とし、通期では同10.9%減の47万7371台と予測した(09年12月8日時点)。
同社の伊嶋謙二社長はその後の12月下旬に、「メーカーのサーバー担当者の表情はかなり厳しい。上期実績に悲観しているだけではなく、回復時期がみえていない印象がある」と話したうえで、「(x86サーバーは)09年度通期で出荷台数45万台を下回る可能性もある」と深刻な表情で説明した。45万台しか出荷されない状況になれば、5年前の04年度に出荷台数が逆戻りすることになる(図2参照)。
オープン化による単価下落が要因
売った後の保守事業にも悪影響 大幅なマイナス成長を各調査会社が予測する最大の理由は、景気後退にある。では、ユーザー企業・団体のIT投資意欲が回復すれば、ハード販売事業は上向くかといえば、そうでもない。不況が始まる前からもハード販売事業、とくにサーバーは厳しかった。理由は単価の下落にある。
オープン化の進展とサーバーの処理能力が向上したことで、ユーザー企業・団体はUNIXやメインフレームに代表される高額サーバーからx86サーバーなどの安価なサーバーで情報システムを構成し始めた。それゆえに、ここ数年一貫してサーバー市場全体の出荷金額規模は右肩下がり。ITベンダーが得られる利幅も当然狭まっている。たとえ台数が伸びたとしても、従来の利益が得られる市場環境ではなくなっているのだ。母数が減るうえに、売って得られる利益も少ないとなれば、ハード販売事業で儲けてきたITベンダーにとって大打撃になる。
ハードの価格が下がり、売れなくなる状況は、保守・運用サービスにも悪影響を及ぼす。保守サービスの単価は、一般的に「ハード価格×○%」というように価格と連動する。ハードの単価が下落すれば、保守サービス料金も減る構図で、売った後のストックビジネスも縮まってしまうのだ。
そして2~3年前から始まったSaaS型サービス、クラウド・コンピューティングの大波が追い打ちをかけた。現時点では、SaaS型サービスやクラウドが主流になってはいないが、ユーザー企業は今後確実に「所有から利用へ」と動く。そうなれば、ユーザー企業にサーバーを販売する機会は確実に縮小し、母数はますます小さくなってしまう。
ハードの販売事業を取り巻く環境は、これら複数のマイナス要因が重なり、かつてないほどの苦境に立たされているのだ。ただ、この流れは今に始まったことではない。2000年前半から顕在化し始めた傾向だ。その流れを察知して、ハード販売事業が多いSIerは、ハード事業からの脱却を模索。新たなビジネスに乗り出している。次項からは、有力SIerごとにハード事業が厳しい実情と、改革を進める姿を紹介する。
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