2009年、ワールドワイドのネットワーク関連機器市場では、メーカーの統合や合従連衡などが盛んに繰り広げられた。業界再編が加速しながら進むなか、国内ネットワーク系SIerは、主力に据える製品の「選択と集中」を迫られ、新しいサービスの創造、事業領域の拡大など、さまざまな角度からビジネスモデルを大きく変えようとしている。生き残るための策とは何か。今回の特集では、分岐点に立たされているネットワーク関連業界の09年に起こった主なトピックを振り返りながら、「商流の今」を探る。
合従連衡で主導権握る 世界規模でネットワーク関連機器メーカーの再編や合従連衡が進んでいる背景には、クラウド時代を見据え、ネットワークインフラをベースにサーバーやストレージなどコンピュータシステム、アプリケーションまでを網羅しようとする動きがある。ユーザー対象は、通信事業者などサービスプロバイダ(SP)、各業界の大手企業など。メーカーは、次世代データセンター(DC)を構築したいと考えるユーザーのニーズを吸い上げ、案件を一手に引き受けることを狙っている。
メーカー編
王者シスコがサーバー領域に参入
“連合軍”で確固たる地位を築く 09年4月、シスコシステムズは「ユニファイドコンピューティング」をコンセプトに、CPUやストレージ、仮想化などのメーカー、インテグレータなどとのアライアンスを強化する新しい方針を打ち出した。製品面では、サーバーとネットワーク、ストレージ、仮想化を一つのプラットフォームに統合。業界では以前から、王者として君臨するシスコがサーバーを発売することに話題が集まっていた。しかも、それが“連合軍”の形で登場したのは、相当の衝撃を与えることとなった。
シスコのパートナーとして名乗りを挙げたのは、さまざまな分野のトップレベルベンダーばかりだ。例えば、CPUメーカーのインテル、ストレージ専業メーカーのEMCジャパン、仮想化ではヴイエムウェアやマイクロソフトといった具合だ。販社では、伊藤忠テクノソリューションズやネットワンシステムズ、日本ユニシスなどが名を連ねた。
「他社のサーバーは、アーキテクチャがまったく変わっていない。(当社は)ネットワークサイドからサーバーはインフラの一部として提供していく」。これは、シスコのエザード・オーバービーク社長兼CEOの言葉だ。ネットワーク機器業界のトップベンダーがサーバー領域に参入したのは、これまでのシステムではサーバーとネットワークに一貫性がないと判断したからだ。「サーバーはアーキテクチャの一つに過ぎない。ベンダーは、それを考えたソリューションを提供しなければならない」(オーバービーク社長兼CEO)。つまり、サーバー業界を牽制したわけだ。
最近では、クラウド時代を見据えてPaaSやSaaSなどサービス型モデルを提供するために自社のDCを増強する動きが出ている。シスコは、まずユーザーニーズに対応したインフラ構築ビジネスを、販社を通じて手がけていく。ビジネスを軌道に乗せるため、米国では「Virtual Computing Environment」という仮想コンピューティング環境の新しい連合組織を設立している。この2社は、「ユニファイドコンピューティング」のメンバーでもある。シスコは、1社で製品領域を広げながら、自社でカバーできない領域では他社とのアライアンスを強固にして主導権を握る。
サーバーメーカーと協業する
ジュニパーがIBMにOEM提供 シスコがサーバーまでを自社製品で網羅しながら複数のメーカーアライアンスを進める一方で、通信事業者向けネットワーク関連機器の提供で定評のあるジュニパーネットワークスは、サーバーメーカーとのアライアンスを重視している。昨年、米ジュニパーが米IBMとOEM(相手ブランドでの製品供給)契約を締結した。近く、ジュニパーのネットワークOS「JUNOS」を搭載したネットワーク機器をIBMが自社ブランドで市場投入することになる。
米ジュニパーがワールドワイドで米IBMとOEMで提携したのは、次世代DC向けビジネスを早期に拡大させることを狙いとしている。IBM製のサーバーとストレージ、ジュニパーのOSが搭載されたスイッチなどを組み合わせることで、DCに対して統合インフラを提供。「市場でリーダー的な存在である当社とIBMの協業で、データセンターのシステムリプレースで信頼性や拡張性、簡素化などでユーザー企業に価値を付加していく」(米ジュニパーのデビッド・イェン上級副社長兼データセンター・ビジネスグループ統括マネージャー)というのがジュニパーのクラウド・コンピューティング戦略である。
日本市場で日本IBMからネットワーク関連機器が提供されるようになったとき、問題になるのが販社体制の整備だ。日本IBMにとっては、サーバーやストレージを担ぐ販社がスイッチも組み合わせて売ることになる。ジュニパーの有力販社にとっては、同じ技術を搭載した製品同士でIBMの販社と競合する可能性があるというわけだ。ジュニパーは、「まず、IBM製品と当社製品の両方を販売しているパートナーが提供することになるだろう」(マーケティング関係者)との考えを示しているが、ユーザー企業であるDCへの提供拡大の観点から販社支援を強化する必要性が出てきそうだ。ただ、その策が成功すれば「JUNOS」が広く浸透する可能性は高い。
一方、IBMはジュニパーだけでなく、ファウンドリーネットワークを買収したブロケードコミュニケーションズとも協業しており、ネットワーク関連を含めたビジネスの本格化を図ろうとしている。ネットワーク業界で激戦が繰り広げられる様相を呈している。

シスコシステムズは、「ユニファイドコンピューティング」をコンセプトに、ストレージメーカーや仮想化メーカーなどを巻き込んだ連合軍を形成した
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