「SFA」切り口で売れない状況
全体の経営改善で提案へ  |
NIコンサルティング 長尾一洋社長 |
早くから日報型SFAツール「顧客創造日報シリーズ」を提供しているNIコンサルティングの長尾一洋社長は、「SFA/CRMというキーワードが、IT業界のキーワードとして基幹業務の次くらいに優先順位として位置づけられていたので、それなりに市場が大きくなった。これまでは市場が限られていたので、不況時にも伸びていたが、08年秋のリーマン・ショック以降は少し市場が縮小した」と状況を語る。
不況下にあって、営業力の底上げを図るのに効果を発揮する重要なツールだが、予算の一律カットによって門前払いされるケースも少なからずあったという。ユーザーに対して直接アプローチできないとなると、周辺から認知を高める必要がある。そこで、セミナーや本の出版などを通じて訴求している。「今は放っておいてもSFAの引き合いが来るような時代ではなくなっている」と長尾社長はいう。
NIコンサルティングでも、SFAをパッケージ、SaaS/ASPの2形態で展開。SaaS/ASPでは、自社のデータセンターを使った提供のほか、経済産業省のJ-SaaSを利用していて、現状の売上構成比は新規でSaaS/ASPを導入する企業が6割、パッケージが4割。SaaS/ASPで提供することについて、「中小企業でシステム担当者がいない会社では、運用管理が不要のSaaS/ASPが有効だと考える。パッケージを利用する企業が4割を占めるのは、基本的にSaaS/ASPを利用したところで、ある一定規模の会社でなければ、コスト削減効果が得られず、パッケージを導入したほうが安く済む場合が多いからだ」と長尾社長は話す。一方、「焼畑農業」的になるのではないかという懸念については「SaaS/ASPはわれわれの存在を認識してもらううえで、一つの鍵になる。最初のハードルは低いので、それにうまく乗っていきたい」とも。
前述のとおり、大手企業の導入については一巡していると、ベンダーは口を揃える。次の商機としては中小企業への拡販が有望視される。中小規模になればなるほど、「クラウド」というITキーワードで飛びつく会社が少なくなってくるため、経営戦略上の提案をきちんと行っていく必要がある。そこで、NIコンサルティングは経営改善のための一連のツールを「可視化経営システム(Visibility Management System)」として体系化している。SFA/CMSの枠にとらわれない、人事情報、見積管理ツールなどが統合的に連動する。加えて本業コンサルティングサービスも含め、SFAは経営全般の高度化を図るなかの中核ツールとして位置づけられている。
SFAとERPとの連携導入も進む
中小市場にスターターパック展開 日本オラクルは、1993年に登場したSiebelを国内で販売している。SFAについては「登場当初は、導入すればすぐに効果がでると考えていた企業もあったようだが、以前に比べると、そうした過剰な期待感は抱かなくなってきた。ベルカーブに照らし合わせると、S字の直線あたりに位置しているとみている」(日本オラクルのアプリケーション事業統括本部 CRM本部 CRM推進部 磯田義雄部長)という。
グループウェアをSFAとして使っていた企業やExcelで管理している企業もあるほか、効果的なSFAを求めてBtoBのビジネスを展開する企業中心に、シーベルの採用が進んでいるという。とくに、製造業のなかでも部品メーカー、銀行のホールセールス、投資銀行などで積極的に取り組まれている。
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日本オラクル 松瀬圭介本部長 |
また「顧客対応の前段階として、商品在庫の確認、見積りを営業担当者自らが作成できるよう、より効率的にするためにバックエンドシステムのERPとフロントのSFAを連携した導入も進んでいる」(同本部 松瀬圭介本部長)という。オラクルではERPとSFAの連携における工数を削減するための独自アーキテクチャーのAIA(アプリケーション・インテグレーション・アーキテクチャー)により、簡単に連携することが可能だ。
08年の後半以降、不況の影響で企業はIT投資予算を削減し、内部統制など法令規制上やむなく投資せざるを得ない部分に絞って資金を投じているのが実情だ。そんな状況下にあっても、景気が好転した際に営業組織改革して生産性を高めるための準備として、案件はいくつか浮上してきているようだ。
SFAは、営業担当者の側に立てば、システムに入力する手間がかかる。そのため、本当に必要なものなのかといった観点から機能を限定し、簡易に導入できるSaaSモデルを選択する顧客も多いという。日本オラクルでは中小企業向けのライセンス体系を用意している。顧客のなかには自社で管理したいと考える企業があれば、資産のオフバランス化目的や自社での運用が難しい企業もある。そこで日本オラクルでは、予算や状況に応じて、オンプレミスのパッケージもしくは「Oracle Siebel CRM On Demend」を選択できるなど、メニューをパック化した「スターターパック」を、パートナーを通じて今春から販売するとしている。「これにより、これまでSiebelを高いと感じていた中小企業でも容易に導入することができるようになる」と松瀬本部長は話す。
クラウドで一歩先の情報共有へ
コラボレーション基盤提供で
より効率的な情報共有を提供  |
セールスフォース・ドットコム 内田仁史氏 |
国内で多くの導入実績をもっているセールスフォース・ドットコムのシニアプリンシパルアーキテクト セキュリティ&インフラストラクチャースペシャリストの内田仁史氏は、「SFAはすでに完成されたものとして、国内では大企業から中小企業まで着実に顧客を増やしている」と話す。直近の実績としては日本通運、キヤノンマーケティングジャパン、日立ビルシステムなどに導入され、小規模の案件では料亭が顧客の嗜好などをきちんと把握するためのツールとして利用されている。セールスフォースは、個々の営業担当者が入力して情報を共有するという作業から、SNSのようなコンシューマウェブの技術を使ってより効率的な情報共有ができるサービスを展開する計画だ。「SFAはトップセールス以外の営業の生産性を向上させるためのツールだが、なかには報告してこない営業マンがいて、何をしているか分からないということも起こり得る。一方、コンシューマの世界をみると、自然に情報が共有できている。コンシューマ系の優れた技術を企業に取り込むことで、社内外にある情報を収集し、より効率的に情報共有が可能になる」(内田氏)という。セールスフォースは新しいコラボレーション基盤(企業向けSNS)「Salesforce Chatter(チャッター)」のパイロット版をSaaS型CRM「Spring'10」で提供する。Chatterでは、グーグル、Twitter、Facebookといったコンシューマウェブと連携できるほか、SAP、オラクルといった企業システムと連携してシステムからのイベントをTwitterと同じ要領で特定の情報を共有することが可能。プレゼン資料やコンテンツ、在庫の情報、売ろうとする自社商品の世間一般の評価、競合製品の評価といった情報を、自分の興味のままに“フォロー”することで収集できるという。
セールスフォースの導入メリットは自由度の高い導入・運用ができるところにある。既成のパッケージのように製品で定められた営業プロセスに固まる必要はなく、稼働させながらつくり込んでいくことが可能だという。セールスフォースは、99年からカスタマイズを強化してきた。ハードウェアもソフトウェアも売れないなか、クラウドへの注目度はさらに高まっている。セールスフォースのSFAを導入することで、その開発プラットフォームも漏れなくついてくることから、SIerは基幹システム連携の開発などをビジネスにすることが可能になるなど、SFAはさまざま技術と組み合わせることで大きな進化を遂げている。

社内で情報を共有できる「Salesforce Chatter」の画面ショット
SFAの市場、
今後もじわじわと成長
SFAは1990年代後半以降、ウェブ、モバイル対応、SaaS/ASPなど、外での活動が中心となる営業のスタイルに適したインフラも整備されてきたことから普及が進み、堅調に伸びてきた。しかし、08年秋以降、リーマン・ショックの煽りを受け、SFAの市場は若干縮小したとみられるが、「営業という仕事はずっと続いていく」ため、市場がゼロになることはない。
大手企業では導入が一巡し、中小企業ではまだ時期尚早との見方も確かにある。だが、中小企業のゾーンはまだ「空白地帯」であるため、今後の伸びが期待できそうだ。その市場開拓の一手としてSaaS/ASPが有効だ。ただし、単にSFAを導入するだけでは効果が期待できないケースもある。そこで、周辺サービスを含めた全体の経営改革を提案することによって、顧客企業が望む「営業力アップ」を実現していくというベンダーの戦略は、的を射ているといえよう。