ネットワーク関連機器業界では、大手メーカーがワールドワイドでM&A(企業の合併/買収)を積極的に行っており、再編劇が進行中である。市場の環境に目を転じると、SaaSに代表されるサービス型モデルの広がりをバックグラウンドとして、ITベンダーやユーザー企業はクラウド時代を見据えたITシステムの整備を進めており、ネットワークインフラを強化しなければならない状況になっている。そうした状況下、国内ネットワーク系販社はビジネスモデルの変革や新サービスの創造など、各社さまざまな方法で事業拡大を図ろうと懸命だ。ネットワーク系販社にとって、生き残るための策とは何か。成長に向けた取り組みについて検証する。
メーカー編
<全体動向>
M&A進行で主導権争い激化
世界市場は混沌とした状況に  |
| 3Comの買収によりワールドワイドでの主導権掌握に自信をみせる米HPのジェイ・メルマン・シニアディレクター |
ワールドワイドのネットワーク関連業界はM&Aが一段と進み、ますます混沌としている。また、メーカーによるリセラーやSIerなど販社との協調関係を深める取り組みも現れている。
M&Aに関する最近の大きな話題といえば、米ヒューレット・パッカード(米HP)が米3Comの買収を完了したことだ。HPは、3Com製のスイッチやルータなどネットワークやセキュリティに関連した製品・サービス、HP製ネットワーク関連ブランド「ProCurve」との統合を図り、サーバーとストレージ、ネットワーク、サービス、管理、設備などを総合的に提供する「Converged Infrastructure」戦略の促進を狙う。
今回の買収で、とくに注目すべき点は、3Comの子会社であるH3Cを通じて中国市場での存在感を増す可能性があることだ。これによって、業界の巨人である米シスコシステムズと真っ向から勝負する素地を固めたことになる。
米HPでネットワーキング部門を担当するジェイ・メルマン・シニアディレクターは、「われわれは、ユーザーニーズの変化など、ネットワークに関するルールが進化しているという新しい時代に貢献していく」と訴えるが、「3Comの買収によって中国市場のシェアを拡大していく」と、業界の主導権を握ることを匂わせている。このメルマン・シニアディレクターは、シスコに在籍していた人物。ライバル企業の内情を知り尽くしている点では、優位性があるといえる。
ブランド戦略について、同氏はこのようにコメントしている。「中国本土は知名度が高いH3Cブランド、それ以外のワールドワイドではProCurveブランドで提供していく」と。したがって、日本ではProCurveブランドで展開することになる。アジア地域と日本を担当するアモール・ミトラ・マーケティングディレクターは、「まだ模索段階だが、日本法人(H3Cテクノロジージャパン)とHP日本法人のネットワーク部門との統合を検討している」ことを明らかにしている。
一方、シスコは高速光ネットワーク向けデジタル信号処理(DSP)関連ベンダーである米CoreOpticsを買収する意向を発表。この買収で、シスコは通信事業者などサービスプロバイダ(SP)に対して、100Gbpsの高度な伝送技術で動画やモバイル、クラウドサービスなどIPトラフィックの急速な需要拡大に対応できるネットワーク提供を視野に入れている。法人市場に加え、SP市場でも確固たる地位を築くことが狙いだ。
SP市場に強い米ジュニパーネットワークスは、販社とのパートナーシップ深耕を狙い、「エコシステム」と称してジュニパーと販社、協業メーカーなどがさまざまな場面でアライアンスを組んで需要を掘り起こしていく戦略を立てている。日本法人も、「シスコとは一線を画して“マルチベンダー化”でシェアを拡大していく」(細井洋一社長)方針を示す。
<注目商材>
クラウド時代で売れる商材は?
WAN高速化製品に注目が集まる ワールドワイドでは買収劇が繰り広げられているが、日本市場では買収による効果や影響が出てくるのはこれから先の話だ。ただ、ネットワーク系販社は世界的な変動を踏まえながら足下のビジネスを手がけていかなければならない情況にある。そのような前提のもとに、クラウド時代が到来しつつあるなかで注目を集める商材を挙げてみる。その代表格がWAN高速化機器だ。関連製品を提供するメーカーが販売促進策を講じている。
リバーベッドテクノロジーは、企業の拠点のIT統合を進める「Riverbed Service Platform(RSP)」というプラットフォームを提供。このプラットフォームをベースに、サーバー統合や仮想化環境の構築を促すほか、ソフトウェアメーカーなどとのパートナーシップを深めている。「RSP」は、同社のOS「RiOS」上で仮想化技術を使ってWAN高速化機能と別のソフトウェア機能を提供できるのが特徴。「仮想エッジサービス」と称して提供し、ユーザー企業に対して「ブランチオフィスのIT統合」(伊藤信・マーケティングマネージャー)に力を注いでいる。
F5ネットワークスジャパンは、「F5ダイナミックインフラストラクチャビジョン」を提唱。仮想化環境を構築したデータセンター(DC)間の、高セキュリティで高速化した接続を追求している。DC間のトラフィック最適化製品「BIG-IP WOM」を提供。WAN高速化機器として、これまで「WANJet」シリーズを提供してきたが、アプリケーション・デリバリ・コントローラ(ADC)に位置づけられる「BIG-IP」シリーズに統合した。同社では、製品の互換性を強化したことをアピールしているほか、「販売面では、BIG-IPのパートナーが売ることになった」(伊藤利昭・マーケティングディレクター)としている。
ITベンダーによるクラウド・サービスの提供に向けたDCのインフラ増強、ユーザー企業によるシステムの統合化が進むなか、拠点間やDC間のWAN高速化ニーズが出ている。案件を獲得するため、WAN高速化機器が一翼を担う可能性がありそうだ。


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