主要SIerが業績のV字回復に向けて本格的に動き始めた。SaaS/クラウド型サービスの拡充、業界やグループ企業の再編、グローバル展開など、情報サービス産業の新しいビジネスモデルの構築に果敢に挑戦している。
SIビジネスの暗黒期
ダメ事業に見切り暗黒の2年間だった──。
2008年夏以降、経済が変調し始めてから相次いだシステム開発案件の規模縮小や延期、凍結の様子について、
あるSIer幹部は“SIビジネスの暗黒期”と表現する。
リーマン・ショックに端を発し、ユーザー企業のIT投資の削減・凍結へ。
この2年間でITシステムのあり方そのものまで大きく変化することとなった。
SIerの従来型のビジネスの柱に亀裂が入り、
すでに収益の柱として機能しなくなったビジネスも少なからずある。
週刊BCNが有力SIer上位50社の直近の通期決算をまとめたところ、前年度比で減収営業減益(または営業赤字)に陥ったSIerは、全体の76%に相当する38社に達するなどの厳しい状況。売り上げが前年度比で増加したというSIerは、わずか6社しかなかった(詳細は13面を参照)。主な減収要因は「ハードウェア販売」「受託ソフト開発」「多重下請け構造の下層に位置する」の不振3パターンが目につく。
しかし、ハード販売、ソフト開発、多重下請け構造の三つは、実はSIビジネスにおいて、むしろまだメジャーな存在。ここが大きな打撃を受け、かつ抜本的な改善が見出せないのだ。ユーザー企業は、IT投資に優先順位をつけ、順位の低い順から予算を削っていった。その結果が“ダメ事業トリオ”に集約された印象を強く受ける。景気が回復基調にあるからといって、いったん優先順位の下のほうに追いやられた項目に、再び潤沢な予算がつくとは考えにくい。
そうした事情を勘案し、主要SIerは業績のV字回復に向けて、顧客の優先順位の高い領域を重点的に伸ばす戦略を打ち出しているわけだ。本特集では、暗黒期を経たSIerが、今どのように従来型のビジネスモデルへの依存から脱却し、顧客のIT投資を最大限に引き出す戦略を展開しようとしているのかを検証した。
ソフト開発の抜本改革
事業の立て直しを急ぐ
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富士ソフト 白石晴久社長 |
SIerにとってソフトウェア開発の立て直しは、喫緊の課題である。情報システムの設計→開発→運用のライフサイクルのなかで、最も雇用吸収力があるのが開発フェーズであり、情報サービス産業約85万人の従業者の約6割が、開発に関わることの多いSEやプログラマで占められている。ソフト開発比率が多いSIerは、まずここから立て直しを図る必要に迫られている。
情報サービス産業協会(JISA)集計の「経済産業省・特定サービス産業動態統計」によれば、情報サービス業の4月の売上高は、前年同月比1.3%減と11か月連続で減少した。落ち込み幅は減少しており、SIer幹部からは「これでほぼ底打ち、今後は回復に向かう」との楽観論も聞こえてくる。製造業不振で大打撃を受けた組み込みソフト開発最大手の富士ソフトも、ソフトウェア開発全体で見ると回復傾向にある。昨年度(2010年3月期)末の連結ソフト開発受注残は、前年同期比9%増と回復。受注残ベースでみると、昨年度第2四半期(09年7~9月期)を底に急速に持ち直しつつある。
だが、見えてきた風景は、経済危機前とはずいぶん異なるものだ。組み込みソフトの主要分野だった携帯電話は、国内メーカーの主戦場だった「ガラケー(ガラパゴスケータイ)」が、海外勢が強い「スマートフォン」に侵食されつつあり、国内携帯電話の基地局建設もほぼ頭打ち。富士ソフトでは、情報家電やロボット分野で、独自の組み込みソフトモジュールを開発。顔認識や動体検知、音声認識など高度な知能化エンジンを備えたロボットを今年3月に販売をスタートした。知能化エンジンもソフト製品として拡販する。
情報家電分野では、地上デジタル放送に対応したテレビやカーナビ、モバイル機器向けの組み込みソフトプロダクトが大ヒットした。組み込みプロダクト全体の売り上げを押し上げており、同プロダクトの売上高は08年3月期にわずか1億円余りだったが、10年3月期には15億円余りに急増。今後は知能化エンジンなどロボット系が加わることになる。
「プロダクト化を柱とする」(富士ソフトの白石晴久社長)戦略で臨み、昨年度連結売上高ベースで3割近くダウンした組み込みソフト開発事業の立て直しを急ぐ。


業界、グループの再編
「規模」と「多様性」がカギ
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ITホールディングス 岡本晋社長 |
ソフト開発の地盤沈下は、情報サービス業界やグループ企業の再編に拍車をかけている。ソフト開発のパイ縮小で受注競争が激化。より有利に受注を果たすには、「規模」と「多様性」の二つが欠かせない。M&A(企業の買収と合併)やグループ再編によって、規模を拡大し、多様性を増そうとする動きが加速している。
10年4月に有力SIerのソランをグループに迎え入れたITホールディングス(ITHD)は、M&Aとグループの多様性の両方を追求する。TISやインテック、ユーフィットなど有力SIerが規模の力を求めて結集したITHDの設立から今年で3年目。個々の事業会社がもっていた顧客の情報をグループ全体で共有し、それぞれの得意とする商材を顧客に売り込むクロスセル(相互販売)の効果が本格的に拡大している。
設立初年度の09年3月期のクロスセル件数は29件、金額で24億円だったのが、10年3月期は121件、54億円と金額ではほぼ倍増。件数ベースでは4倍余りに増えた。今年度はソランが参画したことによって、「組み合わせがさらに拡大する」(ITHDの岡本晋社長)と、手応えを感じている。経済逼迫からくる危機感が後押しする形で、結束力がより強まる“副次効果”も追い風になっている。
JFEシステムズは、兄弟会社のエクサからJFEスチールグループ向けのSI事業を継承すると発表。両社はJFEスチールを大株主として抱えながらも、旧日本鋼管と旧川崎製鉄の情報システム子会社だった経緯などから、これまで統合には至らなかった。だが今回、グループ向けのSI事業を11年4月にもJFEシステムズに統合することで、懸案事項を一つ解決する。鉄鋼系では、新日鉄ソリューションズに売上規模で大きく水をあけられており、事業再編によって少しでも差を縮める。
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キヤノンMJ-ITHD 浅田和則社長 |
また、キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)は、ITソリューション事業を束ねる中間持ち株会社キヤノンMJアイティグループホールディングス(キヤノンMJ・ITHD)を今年4月に設立。同社SI事業の中核を担うキヤノンITソリューションズなどを傘下に収めたのに続き、7月にはキヤノンソフトウェアなども中間持ち株の下に配置する。
旧住友金属システムソリューションズや旧アルゴ21など有力SIerを次々とグループ化し、SI事業を伸ばしてきたが、ここでグループの再統合を図ることによって、「ITソリューション事業のより一段の強化」(キヤノンMJ・ITHDの浅田和則社長)を進める。
ITHD、JFEシステムズ、キヤノンMJと、それぞれアプローチは異なるものの、経営リソースを集約。厳しい受注環境に耐えうる体制整備を推し進め、来たるべきビジネス拡大のチャンスを虎視眈々とうかがう。
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