日立製作所
苦手のサービス+海外を強化へ
日立製作所グループは、SI(システム構築)ビジネスの再編を急ピッチで進めている。日立プロダクトの「直系販社」的位置づけだった日立エイチ・ビー・エムが2009年10月、日立電子サービスと合併したのを手始めに、上場SIerだった日立ソフトウェアエンジニアリング、日立システムアンドサービス、日立情報システムズの3社が、2010年に入って相次いで完全子会社化された。日立本体と、より一体的なビジネス展開を指向する体制へと再編したのだ。また、日立ソフトと日立システムは、今年10月に合併し、「日立ソリューションズ」になることも決まっている。
大規模な再編を断行したうえで日立が打ち出した目標は、サービス事業の拡大とグローバル化だ。日本国内の情報サービス市場の飽和感が強まるなか、サービス事業を軸とした海外進出を強化することで、2015年度(16年3月期)に情報・通信システム事業の連結売上高を2兆3000億円へ拡大させるという。このうちサービス売上の構成比は65%、海外売上構成比を35%に高める方針だ。
09年度の同売上高は1兆7055億円。このうち、サービス構成比が58%、海外構成比が22%だったことを考えると、ハードウェアやパッケージソフトウェアなど非サービス系が900億円ほどしか伸びないのに対し、サービス売上高は15年度までにおよそ5000億円上乗せする計算になる。海外売上高の構成比も、約13ポイント増加し、実数で換算すると4000億円余り増やす高い目標を掲げているのだ。
しかし「サービス+海外」は、実は日立グループのSIビジネスにとって、弱点だった部分でもある。旧上場3社の日立ソフト、日立システム、日立情報ともにドメスティック(国内)なビジネス展開が目立ち、現状の海外売上高の多くは、日立グループのストレージやATM(現金自動預け払い機)などのハードウェア機器が比率の大半を占める。海外ビジネスにおいて「機器販売にソフト・サービスが追いついていない」(日立ソリューションズ副社長に就任予定の諸島伸治・日立ソフト社長)状態なのだ。
今回の日立グループの再編や事業戦略は、こうした弱点を克服することで、次の成長に結びつける狙いがある。サービス事業のキーワードは「クラウドコンピューティング」。今年6月には、日立製作所情報通信システム社と旧上場3社、日立電サのクラウド事業推進部門の主要メンバー約300人で構成した「クラウド事業統括本部」を新設するなど、事業レベルでの再編も急ピッチで進む。
日立製作所グループは、クラウド関連の売上高を、2015年度までに5000億円に拡大させる目標を立てている。09年度が同約500億円だから、ざっと10倍の高い目標であるとともに、海外でのサービスビジネスの拡大にも密接に関連する。グループ各社とサービス関連事業を一体的に運営することで、「海外ビジネスを拡大させる」(日立製作所の中島純三・情報・通信システム社社長)と、グループ一丸となってグローバル化を推進する考えだ。リーマン・ショック以降、厳しい状況にあるなかでも、情報・通信システム事業は、黒字を堅持。その底力を発揮してきた。それだけに、今回の組織大再編は、日立グループ全体の命運をも握っている。
日本IBM
VAD両社は、「商流」を大幅見直し
日本ビジネスコンピューター(JBCC)が、純粋持株会社のJBCCホールディングスを設立し、ホールディング体制に移行して4年強が経過した。企業買収とグループ事業の統合を重ね、国内外合わせて14社体制になった。(1)情報ソリューション(2)ディストリビューション(3)製品開発・製造(4)シェアードサービスの4事業でグループを区分けし、事業を展開する。
情報ソリューション事業では、09年4月1日に大企業向けビジネスをJBエンタープライズソリューション(JBES)に、またSMBビジネスはJBCCに人員・機能を集約。一方で、サービス事業は、JBサービスが中心になる新体制で動いている。
そのなかで特筆すべきは、ディストリビューション事業のイグアスだ。もともとJBCCホールディングスは、ハードウェア・ソフトウェアを問わず、日本IBM系の製品を活用したSI事業が得意な会社。今でも日本IBM製品の販売には強いが、ディストリビューション事業のイグアスにとっては、マルチベンダー対応するSIerから信頼を得るためには、豊富な品揃えが必要だ。
日本IBM製品のディストリビューションに強みをもちながら、どこまで他社製品の卸販売スキルを増強できるかが注目点だ。
JBCC同様、日本IBMの付加価値ディストリビュータ(VAD)の1社である日本情報通信(NI+C)は、基幹系に強いことを生かして、情報システムをクラウド化するSI(システム構築)案件の獲得に力を注ぐ。
同社の野村雅行社長は、今年1月の本紙インタビューに、「IBMのハードとソフト製品を最も広範に扱える。IBMのすべてのサーバー製品に対応可能な高いシステム基盤技術を備えている」と答え、クラウド構築に必要なネットワーク機器や環境などのソリューションをパッケージ化し、全国約200社のビジネスパートナーの販売チャネルへ売り込む考えだ。従来の「箱売り・卸」から脱却し、「クラウドをチャネル販売する」体制づくりを固めようとしているのだ。
デル
「直販のデル」は過去の顔
直販モデルで成長したデルも、実はチャネルビジネス(間接販売)を着々と強化している。とくに従業員数500人以下の中堅・中小企業(SMB)マーケットを攻略する手段としてチャネル開拓に余念がない。実はこれ以前、日本市場では日本ヒューレット・パッカードとチャネル争いを演じてきていた。公には「直販モデルだけ」を示していたが、すでにある程度のチャネルは構築できていたのだ。
そんななか、米デルは、09年2月にグローバルで組織を(1)コンシューマ(2)SMB(3)LE(ラージエンタープライズ=大企業)(4)パブリック(公共部門)の4区分にした。
日本法人もその方針に従い、初めて公にチャネル部隊を含めた四つに組織を設けている。そのSMB向け事業を担う部門にチャネルセールスの専門部隊を組織した。日本のSMB市場をともに開拓するパートナーを探して、パートナー契約を結び、デル製品を活用したSI(システム構築)ビジネスを展開してもらおうとしているのだ。他社でチャネルビジネスを展開していた有力者を招き入れ、パートナー網の構築を水面下で進めている。
木口弘代・SMBマーケティング本部シニアマネージャーエンタープライズクラウドは、具体的なパートナー名や数についての明言は避けるが、「スキルの高い数社のITベンダーとパートナー契約を結べている」と手応えを得ている様子だ。
チャネルビジネスでは競合他社に比べて“後発”のデル。ITベンダーを経由した販売は弱い。しかしながら、裏を返せば、それだけ伸びしろが大きいはずだ。競合メーカーは、「直販モデルのデル」というイメージはもう捨て去ったほうがよさそうだ。
Epilogue
大手ITメーカー各社が繰り広げる再編劇は、国内IT業界が大きな時代の節目にあることを意味する。ここへきて、各社の再編はおおむねみえてきた。いまは、再編により「商流」の変革を迫られる「旧オフコンディーラー」と呼ばれる系列SIerのくすぶりをどう抑え、納得させる方針を打ち出し、次世代へ向かう戦略を打ち出せるかだ。
また、今後は、ここにダイワボウ情報システムや丸紅インフォテック、ソフトバンクBBなどの総合ディストリビュータや、ネットワーク系のディストリビューターというプレーヤーを含め、IT流通をどう組み直すことができるかが課題となる。「所有から利用へ」の流れは鮮明で、クラウドの利用率は高まる一方だ。この潮流に応じたチャネル再編は容易ではない。しかも、市場全体がシュリンクする国内IT市場。新たな市場として海外展開を見据えた国内体制の整備も必要になる。