発展の条件
新目標を掲げて再スタートを切った「J-SaaS」。今年3月末時点の目標とその実績に大きなギャップがあったことに対し、富士通が示したのは「まずは年度内に有償利用企業5000社」という数字。過去の実績からみれば決して楽な道のりではない。果たして、その達成の見通しは。そして、中期的な発展は──。
富士通によると、同社にバトンが渡される直前の5月末時点での「J-SaaS」の会員は4769人、有償版の利用ライセンスは351、そして契約企業数は184社。これに対して富士通が立てた目標は、今年度(11年3月期)内に会員数は1万人、有償版の利用ライセンスは設定なし、契約企業数は5000社。9月から数えれば、7か月で会員数は約2倍、契約企業数は約27倍に増加させる計画だ。この数字を、前ページに示した拡販プランで達成する目算だ。
「J-SaaS」が普及しなかった最大の理由である知名度不足は、富士通のPR施策によって一定の成果は上げるだろう。また、アプリケーション拡充は「今でも十数社のISVから参加したいという要望がある」(中村徳仁・クラウドビジネス企画本部パートナーアライアンス統括部統括部長)という状況だ。「国がつくった基盤なので、魅力は感じている」(「J-SaaS」に参加する大塚商会の広報部)という声もある。確かに、10年8月18日時点で48種類揃っている。これは、スタート時に比べて約2倍で、民間企業が手がける類似サービスよりも多い。
ただ、参加ISVからは、これまでの実績に照らして否定的な意見が聞かれる。「(お客のいない)空っぽのデパートのようだ」と批判するISVもいる。デパートを建てても、テナントが入らなければ意味がない。すでに参加しているISVが撤退しないための支援と、新規のISV獲得は重要だ。そのためには、「10人弱」(中村統括部長)の「J-SaaS運営事務局」の増強は欠かせないはずだ。
また、大企業向けビジネスを得意とする富士通が、従業員20人以下のビジネスにどこまで食い込めるか、本気でやるかもカギになる。SMB(中堅・中小企業)に強い子会社との連携は必須であり、富士通のパートナーとの密な協業も絶対条件だ。富士通本体だけでなく、どれだけ中小企業に強い仲間を増やせるかが焦点になる。
今年度内の目標を保守的とみるか、現実的とみるか。いずれにしても、短期的な目標だけでなく、本気度を示すために、中期的な挑戦的目標を公言することも必要だろう。
「J-SaaS」の新たなキーマン
富士通の中村徳仁統括部長が語る
今後の展望
富士通が運用を担当することが決まったことに伴い、4月1日から「J-SaaS」に携わっている。正直にいえば、あっという間に時間が過ぎてしまった印象だ。目まぐるしかった。過去の実績はともかく、国が中小企業のIT化のためにつくった基盤だけに、何とか発展させたい。中長期的な目標数値は、決意を示す意味では大事だが、根拠のない目標を示すことはできない。まだ動き出して間もないので、市場調査や具体的な施策の成果を検証したうえで、しかるべきタイミングで公に発表したい。
富士通はあくまで黒子役で、主役はISVだと思っている。「J-SaaS」と、その上で稼動するISVのサービスを多くの方に知ってもらうことがわれわれの仕事だ。そのためにウェブやイベントでのPRや、全国の主要都市でセミナーを開催して普及・啓発に努める。ISVの方々にぜひ協力してもらいたいと思っている。
富士通は「J-SaaS」とは別に、複数のISVからアプリケーションの供給を受け、同様のSaaSサービスを展開している。「棲み分けをどうするか?」という質問があるかもしれないが、「J-SaaS」はこれまで同様、中小企業向けに特化したSaaSサービスを謳っていくつもりだ。その方針は、運用が富士通に代わった今でも変わらない。
将来的には、SaaSサービスの提供だけでなく、経営支援や人材紹介など、中小企業の経営者が必要なサービスを網羅する「中小企業支援サイト(サービス)」に生まれ変わらせたいと思っている。
富士通は、確かに中堅から大企業のユーザーが多い。従業員20人以下のビジネスを熟知しているかといわれれば、そうではない部分も確かにある。それを認めざるを得ないが、中小企業市場に詳しい企業や人材と密に連携を取り、打開する。いずれにしても、大きなチャレンジとして力を尽くしていきたい。(談)

中村徳仁・クラウドビジネス企画本部パートナーアライアンス統括部統括部長