法人市場で、モバイル関連製品の導入ニーズが拡大している。ノートPCのリプレース需要が徐々に回復しつつあることに加え、とくにユーザー企業はスマートフォンが業務に活用できることを認識し始めており、「iPad」など「スレート」と呼ばれる新端末でビジネススタイルの変革を模索しているようだ。ITベンダーにとっては、モバイル機器をベースに関連事業の拡大を図る機運が高まっていることになる。そこで、各社ともチャンスを掴むための策を打ち出してきた。
市場の動向を探る
モバイル関連市場は成長軌道へ
リプレースや新規導入が相次ぐ
調査会社の見解や業界団体の統計数値によれば、モバイル関連市場は今、成長軌道に乗っている。ノートPCが買い替え期に入ったことや、スマートフォンの新規導入が相次いでいることが要因だ。ユーザー企業の業務用途でのモバイル端末の積極的な活用状況が現れてきていることを物語っている。
PCの出荷台数は
2ケタ成長 調査会社のIDC Japanは、国内クライアントPC市場の出荷台数が、2010年4月~6月で前年同期比13.5%増の366万台になったと発表した。1~3月も2ケタ成長を遂げ、しかもコンシューマ市場と法人市場ともに伸びていることから、同社ではPC市場が回復傾向にあると捉えている。
法人市場は、前年同期比13.4%増の170万台となったという。スクール・ニューディールの特需は幕を引いたが、出荷台数が順調な伸びを示していることから、IDC Japanはビジネス市場全体で買い替え期に入ったとみている。しかも、SMB(中堅・中小企業)の買い替え需要が好調であったほか、4~6月は大企業のリプレースが活発化したという。IDC Japanで、PCをはじめ携帯端末やクライアントソリューション分野のグループマネジャーを務める片山雅弘氏は、「4~6月の実績をみてみると、ビジネス市場ではPCの買い替えが本格化し、回復傾向にある」とコメントする。メーカー別でみると、富士通が17.6%のシェアでNECを抜いてトップに躍り出た。
電子情報技術産業協会(JEITA)の国内PC出荷実績では、ノートPCが堅調なペースではあるものの伸びていることが分かる。4~6月のノートPC出荷実績は、前年同期比で21.3%増の171万5000台という結果だ。直近の7月は、前年同月比9.1%増の47万2000台だった。
コンシューマと法人の両市場でコモディティ(日用品)化したPCだが、IDC Japanの見解を踏まえると、提案次第で法人需要を掘り起こすことができる可能性があるということになる。しかも、ワイヤレス・ブロードバンド環境が整備されていることから、外出先での利用を前提としたモバイル関連の製品・サービスを提案していけば、PCを切り口にシステム案件を獲得できる可能性が大きいといえそうだ。
スマートフォンは
13年に571万台 矢野経済研究所が調査した「スマートフォン市場に関する調査結果2010」によれば、国内スマートフォン市場が順調に成長し、今後は大幅な伸びをみせるという。
09年のスマートフォンの出荷実績は、前年比43.0%増の194万5000台。10年については、通信事業者が積極的にラインアップの拡充を図っていることから、前年比46.0%増の284万台と見込んでいる。また、13年には10年の2倍以上にあたる571万台まで市場が拡大すると予測している。
このような見解は、国内モバイルインターネットサービスが質と量、価格のバランスが取れてきていることを根拠として打ち出されている。そのなかで、インターネット接続を主体とするスマートフォンを利用するケースが出てきたということになる。しかも、法人市場ではSaaSに代表されるクラウド・サービスが徐々に浸透していることなども、スマートフォンの導入を促している要因になっているようだ。
矢野経済研究所は、これまでスマートフォンはガジェット(電子機器)好きなユーザーなど、一部の層に支持されてきたが、外出時のインターネットやソーシャルサービスの利用ニーズの拡大を受けて、都市部を中心に若年層や女性などの幅広いユーザーに浸透し始めていることから、市場はさらに成長すると捉えている。
また、3G携帯電話の通信速度向上やエリア拡大、定額料金導入などでワイヤレス・ブロードバンドの環境整備が進んだことも大きな要因としている。
一方で、通信事業者がスマートフォンの普及に向けた取り組みを強化。具体的には、Androidなど新しいプラットフォームに対応した製品の導入をはじめ、端末のスペックと使い勝手の追求、アプリケーションの充実、日本市場のニーズに合わせたカスタマイズ、流通構造の改革などを進めている。
ただ、現時点で主流となっている携帯電話については、国内市場で前年割れの状況に陥っている。音声通話端末の需要を法人市場で掘り起こすのであれば、通信事業者が力を入れており、なおかつSaaSなどサービスを含めた提案を行うことができるスマートフォンこそが、システム案件を獲得するための武器になるとみられる。
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