中堅・中小企業市場
際立つ動きをみせる 間接販売が主流のSMB市場で、ピー・シー・エー(PCA)が他社に先行してクラウド事業を開始したのは2008年。「PCA for SaaS」のユーザー企業は520社を超え、スタンドアロン版からの移行が多い。ユーザーの半数以上は他社からの乗り換え組だ。
SaaS契約形態の推移をみると、2009年3月末時点の累計データでは「買い取りプラン」が全体の94.1%を占めていたが、2010年9月末時点では「イニシャル“0”プラン」が62.0%にまで大幅に伸びた。一方で「買い取りプラン」は、28.0%にまで縮小している。「プリペイドプラン」は10.0%で徐々に増加傾向にある。
同社の試算によると、「PCA会計」を3拠点で5年間利用する場合、「PCA for SaaS」を利用するよりもサーバーコストやサーバー・ソフト保守コストなどがかさみ、総額419万5260円のコスト負担増になるという。
ERP「PCA Dream21」は、月額でプライベートクラウド型での提供を検討している。最近の取り組みとして、ヴイエムウェアの仮想化、サーバー統合ソリューションの「VMware vSphere4」に対応させて、「PCA仮想化構築ソリューション」を提供。富士通の「Platform Solution Center」で、PCサーバー「PRIMERGY」環境を利用した高負荷な処理やシステム間の連携など、継続する拡張に対応するためのベンチマークテストを実施している。
2011年2月には、「PCA9V.2R7シリーズ」の後継製品である「PCA Xシリーズ」を発売する。SaaS版の「PCA Xシリーズ」は2011年8月以降にサービスインする予定で、現在7タイトルのクラウドサービスを9タイトルまで拡張する。「PCA Xシリーズ」の発売後、クラウド・パッケージの新規導入と既存ユーザーのバージョンアップで年間2万システムの販売・導入を目指している。
パッケージはまだ売れる OBCは、とくに年商50億円未満の中小企業に強く、「奉行シリーズ」は業務システム市場で企業から高い支持を得ている。年商500億円未満の企業を対象としたノークリサーチの調査によると、人事管理や販売管理、会計などの導入シェアでトップシェアを誇る。
2009年9月に発売した「奉行iシリーズ」を主力商材に据え、リプレース市場で新規開拓を狙っている。サポートセンターの問い合わせ受付の終了を控えているVer.3以前の「奉行21シリーズ」のユーザー企業に対しては、「奉行iシリーズ」への移行を促す施策を打っていく方針だ。
一方で2011年1月には、「奉行V ERP」のセカンドアプローチとして、IFRS(国際財務報告基準)対応の「奉行V Group Management・Edition」を発売。IFRS導入を検討しているグループ企業で大きな課題となっているグループ内の会計統一に向けて、決算早期化や連結決算、内部統制、コスト削減などを可能にする。IFRS需要を取り込んでいく構えだ。
応研は、対象企業層を中堅企業にまで広げて「大臣シリーズ」の拡販に努めてきた。中小企業の新規ユーザーが減った一方で、100クライアント以上での導入が増えている。
とくに「業種別テンプレートを充実させている『顧客大臣』が売れている」(原田明治社長)。このほか「人事大臣」は2009年8月に発売後、1か月で100法人が導入。30~40クライアントでの新規導入が多い。過半数は社会福祉法人のユーザーで、もともと人事管理システムを導入していなかった法人が少なくないという。
2011年は「法改正に対応する社会福祉法人の特需を見込んでいる」(原田社長)という状況だ。
OSKは、製品ラインアップの拡充と営業・開発体制の刷新に着手。「SMILEシリーズ」に次ぐ、ベストセラー製品の育成に力を注いでいる。ERP(統合基幹業務システム)「SMILEシリーズ」は販売が好調で、宇佐美愼治社長は「受託開発は減少しているが、『SMILE』が成長をけん引する」と話し、2011年度は5~10%の成長を見込んでいる。
SMBは大企業に追随する  |
ガートナージャパン リサーチ部門エンタープライズ・アプリケーションリサーチディレクター 本好宏次氏 |
「大企業は、人事系システムのSaaS利用の動きが非常に活発だ。とくに業績評価などのタレントマネジメントの領域が伸びている。人事系システムもそうだが、財務会計システムは子会社、海外展開でSaaSが有力な選択肢となってきている。
このほか、海外拠点の在庫の可視化やグローバルサプライチェーンの最適化を狙って、倉庫管理システムをSaaS利用することが前提となってきている。
生産管理システムはSaaSに向かないと思われがちだが、米国ではかなり注目されている。中小企業やベンチャー企業、大企業の子会社などで利用が進む可能性がある。日本でも潜在的ニーズはある。
SMBが、大企業の動向を見て追随する動きがみられるのではないか」
ノークリサーチ シニアアナリスト 岩上由高氏に聞く
SMBのクラウド活用はこう進む 年商5億円未満の場合は?
「データの安全な置き場所を確保したいというニーズがある。これに対しては、データロボティクスのストレージボックス『Drobo』などを活用することが考えられる。一方で、モバイルデバイスの普及に伴い、外出先でも業務をする場合が増えてくると、クラウドが選択肢の一つとなってくる」
「とはいっても、ユーザーはすべてをクラウドに移行することに不安がある。できるだけデータを手元に置きつつも、容量が無制限で外出先からアクセスできることを望んでいる。これからは、データが一杯になったり普段使わないデータがあったりする場合は、クラウドのディスクに保存するなど、ハイブリッドなサービスが登場するだろう」
「クライアントPCについても同じことがいえる。DaaS(デスクトップの仮想化)をOBCの『奉行』や日立情報システムズの『Dougubako』のようなアプリケーションと合わせて提供するような取り組みが重要となってくる」
年商5億~50億円未満の場合は?
「小規模企業と異なり、年商5億~50億円未満の企業規模となると、ある程度のITシステムを導入している。そのため、アンチウイルス対策やクライアントPC資産管理・運用管理、サーバ運用管理を外注ししたいというニーズが存在する。これに対しては、セキュリティ系や運用管理系、データ保存系のサービスであるGUI(Graphical User Interface)のないSaaSが有効な提案となってくる」
「業務アプリケーションについては、一部の企業で『MCFrame online』のようなBI機能のSaaS利用が進む」
年商50億~300億円未満の場合は?
「年商5億~50億円未満の企業よりも、GUIのないSaaSやBI機能のSaaS利用が進む。また、電通国際情報サービスの月額利用料型ホスティングサービス『BusinessACXEL for SAP ERP』など、IaaS視点でのクラウド利用が徐々に増えてくる」
「技術的な観点ではなく、業種別に特化したサービスの訴求が重要となってくる。富士通の『GLOVIA smart ホテル SaaSサービス』がその例だ。今後は、オンプレミスとクラウドを合わせた利用が増えていくだろう」
年商300億円以上の場合は?
「プライベートクラウド型でのクラウド利用が活発化する。既存の基幹システムをクラウド環境に移行する事例が出てくる」

【記者の眼】
クラウドに商機はある 調査会社アイ・ティ・アールによれば、クラウドはまだ投資戦略に大きな変化を及ぼすには至っていないが、人事管理・給与計算システムや生産管理システムのSaaS利用、海外展開にあたっての会計システムの多基準対応などがクラウドビジネスの商機として期待できるだろう。
人事管理・給与計算は、他の基幹業務に比べて独立性が高く、比較的クラウドに移行しやすい。SaaS専業メーカーのラクラスは、人事管理・給与計算のSaaS+BPOビジネスを展開して、急成長している。大企業から中堅企業に徐々にすそ野が広がっていきそうだ。
また、ネットスイートは、海外展開の動きに応じて、大企業の海外の現地法人やグループ企業から引き合いが多い。
ノークリサーチの調査によれば、海外展開を実施済みの企業は、年商5億円以上50億円未満で9.5%、年商50億円以上100億円未満で28.5%、年商100億円以上300億円未満で26.0%、年商300億円以上500億円未満で44.0%に達する。今後はSMBの企業規模でも海外展開をきっかけとするSaaSの利用が増えていく可能性がある。