絶望を味わった2009年度、回復の兆しをみせた2010年度、そしてもうすぐ2011年度がやってくる。x86サーバーメーカーは自社製品を販社に担いでもらおうと製品ラインアップを増強し、各社各様、あの手この手で販売支援策を練っている。押せ押せムードではないものの、ユーザーのサーバーに対する投資は確実に戻ってきた。今こそサーバーを売る時だ。
x86サーバー市場の今と将来
クラウド時代もサーバーは伸びる x86サーバーの出荷台数がプラスに転じる可能性が大きい2010年度(10年4月~11年3月)。出荷台数は、昨年度に比べて10%弱積み増し、リーマン・ショックが起きた08年度の水準を超えそうだ。ユーザー企業が、延命を図っていた情報システムの更新を始めたことが最大の理由とみられる。サーバー統合の波は、x86サーバー業界にとってはもろ刃の剣ともいわれる。クラウド時代が到来しても、サーバー需要は伸びるのか。x86サーバー市場の今と将来像をみる。
2010年度は完全復活
54万台に回復か 2010年度のx86サーバーの出荷台数は、54万2244台になる見込みだ(ノークリサーチ調べ)。昨年度と比較すると3万7938台の増加で、7.5ポイント伸びることになる。プラス成長は実に3年ぶりで、久々の明るい材料だ。08年秋に米国で起きたリーマン・ショックの悪影響が国内のIT産業に本格的に及んできたのは、09年の初頭。09年度(09年4月~10年3月)通期で、ユーザー企業はIT投資を絞りに絞った。09年度のx86サーバーの出荷台数は大幅にダウン、08年度比5.8%減の50万4306台まで落ち込んでいた。
今年度に入って、ようやくその状況が好転、完全に回復期に入ったといっていい。「延期や凍結してきた情報システムの更新、新規開発案件を復活させた」と、x86サーバーのトップシェアをもつNECの吉泉康雄・プラットフォーム販売本部長をはじめ、サーバーメーカーの幹部は口を揃えるとともに、安堵の表情を浮かべている。
今回、x86サーバーメーカーの台数シェア上位5社のキーパーソンを取材した。各社の声を総合すると、まず伸びたのはラック型モデル。これは比較的大規模なユーザー企業のプライベートクラウド構築用と、ITベンダーが運用するデータセンター向けで伸びた。
ソリューションとしては、仮想化技術を活用したサーバー統合案件が多い。大企業だけでなく、中堅・中小企業(SMB)でも仮想化を取り入れる傾向が出始めていることが大きい。「パートナー経由でのブレードサーバーの販売が順調だ。SMBの仮想システム構築に活用してもらっていることの現れ」(NECの本永実・プラットフォームマーケティング戦略本部グループマネージャー)。NECがいうように、中規模型のブレードサーバーが伸びたのも10年度の傾向だ。各社が値頃感のあるブレードサーバーを揃え、それを活用した仮想化の提案をパック化したソリューションの“ひな形”を用意し、パートナーがブレードを売りやすくなっていることが理由だ。
伸びた業種・業界に偏りはないが、強いて挙げれば、「製造業の研究開発向けハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)分野が好調」(日本ヒューレット・パッカードの橘一徳・エンタープライズストレージ・サーバ事業統括ISSビジネス本部本部長)、「ネットサービスを提供する振興企業は需要が旺盛」(デルの木口弘代・SMBマーケティング本部シニアマネージャー)だった。
来年度移行も成長
過去最高へ では、11年度はどうなるか?「仮想化技術を活用したサーバー統合の波は、来年度以降も続く」(富士通の芝本隆政・プラットフォームビジネス推進本部PRIMERGYビジネス推進統括部プロジェクト部長)。これは芝本部長だけでなく、各社共通した見解だ。
クラウドコンピューティングによる「システムをもたずに所有する」という動きは、場合によってはサーバーの出荷台数が減るのではないかという懸念をはらんでいる。しかし、現実的にはクラウドを活用するシステムは限定的で、オンプレミス型システムとクラウドシステムが共存する利用方法は数年は続くという見方で各社は一致する。データ量は増加の一途をたどるし、サーバー統合や仮想化するにしても新規のサーバーが必要となるので、爆発的な伸びは期待できなくても、減ることはないだろう。
x86サーバーの市場調査を得意とするノークリサーチの伊嶋謙二社長は、11年度の予測について、「10年度比で台数ベースで4%増とみている。引き続き情報システムの更新需要が見込める。2011年度は56万台に到達するのではないか」と予測する。もし56万台に到達すれば、過去最高の出荷台数となる。また、金額規模については、「高機能化、タワー型からラック型、ブレード型への移行が進むはずで、単価が上がるとみている。販売金額の伸び率は台数以上に高い」と説明している。
伊嶋社長は、2012年度、13年度も対前年度比で2~3%増と、伸び率は鈍化するもののプラス成長を見込む。「サーバー統合は台数を押し下げるマイナス要因になる可能性はあるが、モバイル関連ソリューションなどの新たなシステム需要による台数増加、小規模企業への導入は期待できる」と説明している。急成長こそ見込めないものの、まだまだサーバーは売れるのだ。
では、メーカー各社は今どのような取り組みを進めているのか。販売パートナー向け支援策を中心に、その戦略を紹介する。
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