大手SIerやホスティングベンダーがデータセンター(DC)を活用したクラウドビジネスへの投資を積極化している。関連する売り上げは年率2ケタの勢いで伸びており、情報サービス市場の伸びを大きく上回る。主要ベンダーによる総力戦を追った。
クラウド新商材が目白押し
激しい攻防の様相を呈す
クラウドコンピューティングを巡って、激しい攻防戦が繰り広げられている。主なプレーヤーはホスティングベンダーや大手SIerなどで、データセンター(DC)を活用したサービス開発にしのぎを削る。DC設備の増強やクラウド新商材開発に向けた投資に意欲的で、市場が活気づいている。
クラウドサービス百花繚乱 伸び悩む国内情報サービス市場にあって、数少ない有望市場となっているのがクラウドコンピューティングを活用したビジネスである。有力ホスティングベンダーのGMOホスティング&セキュリティでは、調査会社IDC Japanの調査をベースに、国内クラウド関連市場は2014年まで年率30%余りの勢いで増えるとみている。他のホスティングベンダーもクラウドを有望視しており、DC設備の増強やクラウド基盤の開発に総力を挙げて取り組んでいる。
クラウドは、仮想化技術によってITリソースを柔軟に増減できることが最大の特徴である。主要ベンダーは、VMwareやXenServer、KVMなどの仮想化ソフトを駆使し、エラスティック(可変性)なITリソース群を構築。顧客が必要なときに、必要なだけのITリソースを安く提供する仕組みづくりを推し進める。
最近の例を挙げると、ニフティが2010年1月に「ニフティクラウド」をスタートしたのに続き、NTTPCコミュニケーションズが10年10月に「WebARENA CLOUD9(ウェブアリーナ クラウドナイン)」、ビットアイルが10年12月に「サーバオンデマンドNEXT」、GMOホスティング&セキュリティは2011年2月から「GMOクラウド」を開始。さらに、リンクとエーティーワークスは11年春をめどに「at+linkクラウド(仮称)」を立ち上げる方針を示すなど、クラウドサービスはまさに百花繚乱の様相だ。
エラスティック型を追求へ プロバイダやホスティングベンダーがクラウドサービスの開発に力を入れる背景には、顧客ニーズの増大がある。
ホスティングの主要ユーザーは、ウェブサービスやゲームなどのコンテンツ、ネット販売といったネット系が多くを占めている。ネット系は競争が激しいうえに、エンドユーザーからのアクセスの増減の差が大きい。サーバーなどIT機器の構成をアクセスの最大値に合わせていたのでは、コスト競争に負けてしまう。ネットゲームに至っては、ヒットするかどうかで必要なITリソースに雲泥の差が出る。ユーザーはエラスティック型のITシステムであるクラウドに解決策を求めているというわけだ。
もともとクラウドはインターネットとの相性がよく、AmazonやSalesforce、Googleといったネット界の大手が率先して技術開発に努めた。国内の少なからぬホスティングベンダーは、Amazon EC2などの海外の主要なパブリッククラウドサービスを自らのベンチマークしている。海外大手と国内ベンダーとでは規模の差があるため、コスト競争で打ち勝つにはハードルが高く、「Amazon EC2に比べてここがすぐれている、あそこがすぐれている」というような差異化策が不可欠。ここが明確でなければ、顧客は海外大手に流れることになりかねない。
既存サービスで単価下落も  |
GMO-HS 青山満社長 |
クラウドに人気が集まる一方、従来のホスティングサービスは成熟期を迎えつつある。大手ホスティングベンダーの一角を占めるGMOホスティング&セキュリティ(GMO-HS)の2010年12月期のホスティングサービス事業の連結売上高は前年度比0.3%増と、主力事業がほぼ横ばいで推移。契約件数は増えているものの、「競争激化で単価が下落した」(GMO-HSの青山満社長)ことがマイナス要因となった。
ただし、今期(11年12月期)については、今年2月のクラウド新商材「GMOクラウド」の投入や連結子会社拡大などでホスティング事業の売上高は同16.7%増の72億円を見込む。増加分の約11億円の内訳は、連結子会社拡大分が約7億円、「GMOクラウド」が3億・4億円で、従来のホスティングサービスは微増と固く見積もる。単価下落が続く危険性があるからだ。
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リンク 眞神克二取締役 |
同業大手で、この春にクラウド新商材「at+linkクラウド(仮称)」を始める予定のリンクも、「既存サービスの伸びは鈍る」(リンクの眞神克二取締役)とみる一方で、クラウドをベースとした新商材への引き合いは強く、来年度(2011年5月期)の単体売上高は今年度比約10%増の45億円を見込んでいる。
売れ筋商材が大きく変わる節目に差しかかっており、主要ホスティングベンダーは次の成長を見越してクラウド関連の新商材の投入を急ぐ。
IDC Japanの調査では、2014年には国内クラウド市場が09年の約1300億円から5000億円余りへと成長する見込み。仮に単純計算で10%のシェアを獲れば500億円企業へと成長できる目算だ。
次ページからは、ホスティングベンダーのビジネスモデルを追うとともに、大手SIerのクラウド事業に迫る。
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