ITベンダー、新商売の形を固める
「ソーシャル」を切り口とするソリューションに注力 セールスフォース・ドットコム
「ソーシャルエンタープライズ」を実現
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榎隆司 執行役員 |
大手CRM(顧客管理)ベンダーのセールスフォース・ドットコムは、ソーシャルメディアの分析・活用機能をソリューションに取り入れることを、「競合との差異化要因」(プロダクトマーケティングの榎隆司執行役員)と捉えている。その一環として、ソーシャルメディアの情報を分析して社内で共有し、製品開発やマーケティングに生かすことができる「ソーシャルエンタープライズ」に力を入れている。
同社がアピールする「ソーシャルエンタープライズ」とは、クラウド型プラットフォーム「force.com」を基盤として、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアのモニタリング機能を備えたカスタマーサービス支援ツール「Service Cloud」や、社内コラボレーション支援ツール「chatter」のアプリケーションを活用して、顧客と企業、企業内の社員同士、企業とパートナーが情報をシェアすることができるというものだ。
導入はステップを区切って 「ソーシャルエンタープライズ」を実現する事例として、セールスフォース・ドットコムとトヨタ自動車の提携がある。今年5月、セールスフォース・ドットコムは「chatter」をベースにした自動車向けソーシャルネットワーク「トヨタフレンド」を構築すると発表した。同社はトヨタとの提携を機に、「『ソーシャルエンタープライズ』のソリューションについての問い合わせが大幅に増えた」(榎執行役員)としている。製造業にとどまらず、流通や金融といった業界で、ソーシャルメディアの情報分析・活用ができる同社のソリューションが注目を浴びるようになったという。
トヨタ自動車など大手企業では早くも「ソーシャルエンタープライズ」の手ごたえを感じる一方で、セールスフォース・ドットコムは、中小企業からは、「ソーシャルメディアの分析・活用は、うちではまだムリ」と拒絶反応を受けているそうだ。そこで、SMBに向けて、ステップを区切って「ソーシャルエンタープライズ」のソリューションを導入することを提案していくという。榎執行役員は、「現時点で、社内での風通しをよくすることを目指して、『chatter』から入るユーザー企業が多い。これからは、『chatter』の導入が、『Service Cloud』などのソーシャルメディア分析・活用ツールの導入に必然的につながってくる」とみている。
「Radian6」を日本語に対応 セールスフォース・ドットコムの米国本社は、同社ソリューションのソーシャルメディア分析・活用機能をさらに強めるべく、このほど、ソーシャルメディア・モニタリングプラットフォーム「Radian6」を提供しているRadian6社の買収を完了し、ソリューションに「Radian6」を統合することに取り組んでいる。
同社の日本法人は、今後、「Radian6」の日本語対応を実現すると同時に、「Radian6」の日本での営業とサポートに携わる専用部隊を急ピッチで編成していく。榎執行役員は、「すでにRadian6に興味を示しているお客様が多いので、なるべく早く対応していきたい」と意気込みを示している。
日本アバイア
需要の高まりをパートナーに訴求
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阿部誠 マネージャー |
今年5月に、TwitterとFacebookでの顧客対応ができるコンタクトセンター(CC)向けソリューション「Social Media Manager」を発売した日本アバイアは、セールスフォース・ドットコムと同様に、ソーシャルメディア分析・活用を、「差異化するための、一つの追加機能として捉えている」(アバイア アジア・パシフィック CCソリューションの阿部誠マネージャー)という。
既存のCC顧客を中心に提案する「Social Media Manager」は、同社のコミュニケーションプラットフォームとCC向けソフトに、キーワードのモニタリング用ソフトと、顧客対応を振り分けるロジックを定義するためのソフトを追加した。ソーシャルメディア上の顧客の声を自動的にモニタリングし、ユーザー企業が設定したキーワードに応じて、コンタクトセンターの最適なオペレータに顧客対応を振り分けることができる。
阿部マネージャーは、「ソーシャルメディアを分析するプロダクトはこれまでもいくつか存在していたが、今後は、『Social Media Manager』のように、収集・分析した情報を、より業務に生かすソリューションが有効な商材となる」という見方だ。
今後はUC分野に拡大 チャネル販売に100%依存している日本アバイアは、「Social Media Manager」を発売してからのおよそ2か月で、「販売パートナーからたくさんの引き合いをいただいている」という。ソーシャルメディアの認知度が急速に上がっているなかで、新商材が売り手の興味を引いているようだ。阿部部長は、「熱が冷めないうちに、『Social Media Manager』を、ユーザー企業で需要の高いツールとしてパートナーに訴求し、当社ソリューションの展開に拍車をかけていきたい」と方針を語る。
日本アバイアは、ソーシャルメディアの分析・活用機能をコンタクトセンター事業の商材に取り入れていることに加え、今後、同社が拡大を目指しているユニファイドコミュニケーション(UC)の事業においても、ソーシャルメディアの分析・活用をアピールポイントにしていく。タッチ操作対応のタブレット型端末をベースにしたUCソリューション「Flare」には、すでにTwitterとFacebookのアプリケーションを採用しており、これからは、他のソリューションにも取り入れていく考えだ。
日本IBM
震災後、風評把握のニーズが急拡大
テキストマイニングによって情報を収集・分類・分析するソフト「IBM Content Analytics(ICA)」を提供する日本IBMは、東日本大震災の後、企業がソーシャルメディアの情報を分析する動きが活発になっており、ICAに関連する問い合わせが増大したとしている。ソフトウェア事業の米持幸寿クラウド・エバンジェリストは、「震災前と比べてどのくらい増えたかといえば、4~5倍どころではない」と、問い合わせの殺到に驚きを隠さない。
金融業や製造業で導入が活発  |
米持幸寿 クラウド・エバンジェリスト |
米持クラウド・エバンジェリストは、震災の影響を受けて、企業がソーシャルメディアの情報を分析する重要性についての認識を新たにした結果としてICAの需要が高まっているのには、大きく二つの要因があるとみている。一つは、旅行会社などが、震災後から激減した外国人観光客がなぜ日本に来なくなったかについて、海外のソーシャルメディアに掲載されたコメントを分析し、対策を練るというニーズが増えたこと。もう一つは、震災後に、ソーシャルメディアで企業について流される風評やデマが急増し、企業は風評による被害を避けようとして、ソーシャルメディア内の自社に関する情報を迅速に把握する必要が高まっているということだ。
米持クラウド・エバンジェリストは、「当社のお客様にも、震災後にソーシャルメディアで風評を流され、ユーザーの間で評判が落ちたことによって、被害を受けた企業があった」と例を挙げ、「ここ数か月、真剣にソーシャルメディアの情報分析に取り組む企業が多くなっている」との実感を語る。日本IBMは、ソフトウェアのICAにあわせて、「ソーシャルメディアで風評が流されたら、こう対応すべき」についてのコンサルティングをセットで提供しており、このほど、銀行や証券会社などの金融業のほか、製造業や通信キャリアでICAの採用が活発化しているという。
コンサルを技術で ICAのテキストマイニング機能は、キーワードを設定して、特定の言葉を検索することができる。通常の名詞や動詞に加え、「ヤバイ」や「orz」の若者言葉をはじめ、「たのしかた」のような「っ抜き言葉」など、ソーシャルメディアに多い特殊な言葉にも対応して、ソーシャルメディア内の情報を徹底的に収集することができる。米持クラウド・エバンジェリストは、「分析対応言語は、日本語だけでなく、英語や中国語、アラビア語、ポルトガル語などと多数であり、グローバルで情報の収集・分析ができる」とアピールする。
日本IBMは、ICAの需要拡大に対応するために、機能の改善・強化を図って、研究開発を急いでいる。「今はコンサルティングでカバーしている部分を、近々、技術によって実現する新機能を追加して、提供したい」(米持クラウド・エバンジェリスト)という。
EMCジャパン
「ビッグデータ」の処理を商売に
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山野修 社長 |
ストレージ製品などを事業とするEMCジャパンは、ソーシャルメディア内のテキストデータの急増に引っ張られるかたちで、2020年には、企業の抱えるデータ量が2010年のおよそ50倍にまで増加すると予測している。同社は、7月上旬に、そのような「ビッグデータ」の処理や活用をどうビジネス化するかについての取り組みを明らかにした。
EMCの米国本社は「ビッグデータ」関連事業の基盤づくりとして、過去8年間で約140億ドルをM&Aに投資しており、2010年7月にDWH(データウェアハウス)用データベースエンジン「Greenplum Database」のGreenplum社を、2011年4月にはストレージを提供するIsilon社を買収して、各社の製品をEMCのソリューションに統合してきた。EMCジャパンが描く「ビッグデータ」のソリューションアーキテクチャは、Isilonなどのストレージ製品を使って大量データを保存し、それを踏まえて、Greenplumのデータベースによって情報を分析して、コンテンツ管理ツール「EMC Documentum」などでビジネスへの活用を図る。
SMB市場で存在感を強める EMCジャパンは、もともと大手企業向けの事業展開に強いが、このほど、SMBの市場開拓に力を入れている。ソーシャルメディア内の情報をはじめとする「ビッグデータ」を処理・分析・活用するソリューション展開を通じて、SMB市場で存在感を強めていくことを狙いの一つとしている。山野修社長は、「『ビッグデータ』関連ソリューションは大手企業だけではなく、簡単に短時間でデータマイニングができることを訴求して、中堅・中小企業にも積極的に販売していく」方針だ。
記者の眼
人気が急速に高まるソーシャルメディア関連の新商売が形になりつつある。ITベンダーは、ソーシャルメディア内のデータを賢く活用してビジネスの改善・拡大を図るという切り口で、ソーシャルメディアの分析・活用機能を取り入れたソリューションを訴求している。今後は、ソーシャルメディアがさらに多様化する見込みで、情報収集が複雑になる──。ITベンダーは、これから、ユーザー企業にいかにソーシャルメディア分析・活用の重要性を伝えることができるかが、新商売を成功に導くポイントとなりそうだ。