ERP(統合基幹業務システム)業界は、ベンダーの棲み分けが薄れてきた結果、競争が激しさを増している。SMB市場には、多くのベンダーが参戦して混戦模様。変化のスピードも増している。値下げ合戦やグローバル化の波に呑まれるベンダーが現れてもおかしくない。こうした状況下、ベンダー各社の動きを取材し、将来像を予測した。(取材・文/信澤健太)
データでみる国内ERP市場の動向
生き残りを賭けた
熾烈な戦い 2010年の国内ERP市場規模は、前年比で微増だった(図1参照)。2011年は、東日本大震災の影響が懸念されているが、2012年以降は本格的に市場が回復すると予想されている。ただし、競争は激化する傾向にあり、システムインテグレータ(SIer)や独立系ソフトウェアベンダー(ISV)に求められる能力も変わりつつある。
SMB市場で競争が激化 2011年、ERPを導入済みの企業が51%を超えた(図2参照)。大手企業はやや頭打ちの感があるが、中堅・中小企業(SMB)はERPを導入を検討している割合が高い状況にある。国内では、導入の余地が大きい売上高300億~1000億円の市場でベンダーが激しい戦いを迫られている。
もともと大企業市場に強いのは、SAPジャパンや日本オラクル、富士通、ワークスアプリケーションズ、オービックなど。SMB市場では、主に国内ベンダーがしのぎを削ってきた。しかし、近年はベンダーの市場開拓が進んだ結果、市場規模別にメインプレーヤーを区分することができなくなりつつある。
リーマン・ショック以降は、従来に比べてランクを一つ落としたERPを選択する企業が目立っている。IT投資の抑制による導入規模の縮小やIFRSをはじめとする法改正を背景に、ノンカスタマイズや自社導入といったニーズが強まったためだ。この傾向は、一部の大企業(年商500億円以上)や中堅上位企業(年商300億円以上500億円未満)で顕著にみられる。SMB市場で競争がさらに激しくなることは必至である。
激動の時代に突入 日本マイクロソフトの川崎嘉久・Dynamicsビジネス本部ERPソリューション推進部部長は、SMB市場について「プレーヤーが多すぎる」という。TISのある幹部は、「企業にERPの導入が始まった当時は、コンサルタントの質・量ともに不足し、導入方法が不明だったりテンプレートもなかったりという状況だったが、近年それがこなれてきた。この結果、業種やソリューションでの棲み分けが進んでいると感じている。実績のない業種やソリューションでの受注は難しくなるという傾向もあるだろう。プレーヤーが多いソリューションでは、価格競争が激化している」との見解を示す。
今後、クラウドサービスの盛り上がりが既存のオンプレミスビジネスを脅かす可能性も否定できない。企業のグローバル進出の動きも無視できないだろう。国内市場に閉じこもるベンダーは商機を失う可能性がある。電通国際情報サービス(ISID)は、「IFRSを契機に拠点間の会計システムを統一する動きが企業にみられる」としている。
ベンダーにとって、生き残るために重要性を増すと考えられるのが、パートナービジネスを推し進めた「エコシステム・モデル」だ。(1)グローバル展開力(販売・サポート体制)の構築、(2)クラウドサービスに対応する事業モデルへの転換、(3)ERPと経営管理系(EPM、BI)との連携、(4)業界・業種テンプレートの拡充、(5)製品を補完し合う業務提携、などがより必要になるためだ。エコシステムをキーワードとして、国内ベンダー各社が向かう方向を紹介する。
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