国内勢、生き残りに向けた新機軸を
海外に飛び出す 「機能の優位性で勝負する時代は終わった」とみるのは、日立製作所の竹山雄一・エンタープライズパッケージソリューション本部GEMPLANETソリューション部部長だ。大手ベンダーは、クラウドビジネスやグローバルビジネスに照準を定めた。メーカー、そしてSIerとしての総合力を発揮しようとしている。
グローバルに軸足
アジアを中心に ERP「GLOVIAシリーズ」を開発・販売する富士通と富士通マーケティング(FJM)は、成長の源泉をSIとグローバル展開力に求める。
富士通グループは、1137人のGLOVIA専任のSE(システムエンジニア)部隊を抱えている。また、国内でSAP要員は430名、そのうちSAP認定コンサルタントは351資格を保有している。
富士通の村松勝・民需ビジネス推進本部ERPビジネスセンターセンター長代理は、「1000人規模のGLOVIA要員の多くは、SAP認定コンサルタント。SAPとGLOVIAを両方とも理解していることに強みがある」と話す。
東日本大震災を受けて商談件数は減ったが、準大手以上の企業で受注件数は落ちておらず、グローバルシステムの構築が進んでいるという。村松センター長代理は、「ERPを導入済みの企業は、各拠点のシステムがバラバラで統合できておらず、ガバナンスを効かせることができていない。現在は、システムを統合する次のステップにきている。ここに対応していく」と説明する。
NECは、自動車部品製造業向けERPの「EXPLANNER/Ja」を中国をはじめタイやベトナムで展開している。狙う先は日系企業の拠点だが、将来は地場企業への販売を目指している。他の機能モジュールの提供も視野に入れているという。すでにシリーズ全体で100社以上の海外での納入実績がある。
SMB向けにERP「GEMPLANET」ブランドをもつ日立製作所は、中国で現地グループ会社である日立信息系統を通じて、中堅製造業向けに最短1か月で導入できる簡易導入型生産管理パッケージ「GEMPLANET/WEBSKY-Light」を販売している。「WEBSKY-Light」は、「WEBSKY」の簡易導入型モジュール。中国に進出している日系企業を中心に販売し、現行製品の「WEBSKY」と合わせて、2015年までに800社以上への納入を目指している。
竹山部長は、GEMPLANET事業全体を成長させるための他社との差異化について次のように説明する。「コンサルティングから導入プロジェクトの進行、サポートサービスに至るまでのトータルサービスで勝負する。例えば、海外では、関連子会社の業務部門が現地ユーザー企業にアドバイスすることなどが可能となっている」。
三つの領域に注力
クラウド提供は限定的 中堅規模の製造業向けERPである「MCFrame」や多言語・多通貨・多基準に対応するERPの「A.S.I.A.」を開発・販売する東洋ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)。同社の石田壽典社長は、「SOA・BPM」「グローバル」「クイックスタート」の三つを注力領域と捉えている。
Java EEをベースにした「MCFrame XA」は、アプリケーションサーバー上に作成した業務ロジックをプログラム変更せずに、ウェブサービス化できるSOA対応機能をXA FrameManager Platformに標準実装している。
グローバル展開を推し進めることで、ユーザー企業である中堅製造業の新工場設立などに伴うシステム導入のニーズに応えている。2010年、中国・上海に現地法人を設立したB-EN-Gは、関連会社のDealeasyやティービーケー・システムズ(TBK)、有力販社であるインテックの中国拠点などを通じて「MCFrame」を拡販している。会計や販売、購買、在庫といった業務に対応する機能モジュールを実装する「A.S.I.A.」も、グローバルがキーワード。クラウド型でも提供している。
自社導入、短納期といった企業ニーズに応じるためにクイックスタートが求められるとみる。クラウド提供はこれに応える一つの手段であるが、「MCFrame」のクラウド提供は原価管理に限定しており、生産管理のクラウドサービス提供には慎重な姿勢をとっている。
限定的「2層ERP」が現実解
2層ERPとは、組織内の異なる階層でERPをそれぞれ導入するモデルを指す。全部門を通じて連携する会計、人事、販売などの業務処理が可能となるERPと、地域や部門別の組織で個別に導入して業務処理するERPを適用する。
マイクロソフトは「Microsoft Dynamics AX」を2層ERPと位置づけて、主としてグローバル展開する大手製造業の各拠点に適用するようにしている。ただし、次期バージョンでは、本社機能にも適用することを目指している。
国内では、外資系ERPベンダーのパートナー企業でもある国内ベンダーが「擬似的な2層ERP」モデルを導入する事例もみられる。例えば、本社にSAPやオラクルのERP、グループ企業には富士通や日立製作所、NECをはじめとする国内ベンダーのSMB向けERPを適用する形態をとる場合が少なくない。
国内ベンダーが自社開発のERPを海外拠点に適用する場合は、限定的な2層方式を採ることがある。日立製作所の竹山部長は、「ERPとしての『GEMPLANET』をグローバル展開するつもりはあまりない。これからSAPなどと張り合えるパッケージをつくろうとしても無理。ただし、日本のモノづくりは世界でデファクトとなっている。生産管理はグローバルで展開できる」と話す。現在、生産管理システムは日系企業が納入先となっており、「まずは日系企業から」という意見が大勢を占める。
迅速かつ安価に展開できるシステムとして、地域拠点/子会社にクラウドサービスを適用する事例もある。例えば、本社はオンプレミスで、子会社はクラウドといった形態がみられる。
グローバル展開するにあたっては、自社グループの商流を利用することがあれば、現地パートナーを獲得する場合もある。ERP研究推進フォーラムの田口佳孝常任理事は、「グローバル展開するときに抱える課題について、企業にアンケート調査を実施した結果、海外でのサポート能力に欠ける国内SIerに不満をもっていることがわかった。グローバル展開する企業のサポート体制の構築が喫緊の課題となっている」と指摘する。サポート体制の構築は、事業を成功に導くうえで重要な意味をもつ。
「丸ドメ」の進路 国内の中小企業から一定の支持を集めてきた「丸ドメ(丸っきりドメスティック=国内市場限定)」企業であるベンダー各社は、上位企業層の開拓を進めている。業績が好調なベンダーは少なくない。ただし、OSKのように危機感を表明するベンダーもあり、中長期的には新たな事業モデルの構築が求められる可能性が大きい。
「丸ドメ」で事業を推し進めてきたベンダー各社は、ERPを核に独自色を打ち出そうとしている。
ERPにとどまらない 「数年後には、市場は飽和状態になる。そのときにどうするかを考えている。『SMILE』と『eValue』『eラーニング』などを融合して販売する必要があるだろう」──OSKの笹原直樹営業本部マーケティング部部長はこう語る。足下の状況をみると、SMB向けERP「SMILEシリーズ」は、昨年に投じた施策が功を奏し、「月によっては売り上げベースで130%以上伸びている」(笹原部長)にもかかわらずだ。
今後は、他製品との組み合わせのほか、「SMILE」と連携するSMILEファミリー製品の拡充やモバイル対応など、ERPにとどまらないビジネスで事業の拡大をもくろむ。
クレオマーケティングが開発・販売するSMB向けERP「ZeeM」事業は、前年度比で売り上げが減少したが、「組織を変更したせいで、実質的には横ばい」と林森太郎社長はいう。その林社長は、ERP事業について、「儲からない商売。いずれ再編が起こる可能性がある」といってはばからない。
同社は、NTTデータイントラマートのintra-martポータルモジュールをベースにしたウェブ統合ポータルから「ZeeM」や運用系ソリューション「SmartStage」に至るまでのソリューションをトータルで提供できることに商機を見出そうとしている。
「SmartStage」シリーズの主力サービスは、クラウド型ビジネスプロセス管理プラットフォーム「SmartStage BizPlatform」と、IaaS型基盤サービス「SmartStage N-CLOUD」。このほか、24時間365日のヘルプデスク対応をはじめとした「SmartStageアウトソーシング」、インフラ構築・運用のための技術支援サービス「SmartStage ICTソリューション」を揃える。
「中堅にも強い」へ OBCは、「中小企業に強い」から「中堅企業にも強い」ベンダーに変身しようとしている。年商50億以上300億円未満の企業を得意とする「奉行V ERP」は、上位企業層のダウンサイジング案件を獲得。中小企業に強い「奉行i」は、リーマン・ショック以前に年商50億円超だった企業を取り込んでいる。
りそなホールディングスの3銀行は、会計システムとして「奉行V ERP」を採用した。西英伸・営業本部マーケティング推進室室長は、「従来は『えっ!? OBCがりそなに導入』というイメージだったのではないか。「奉行V ERP」がダウンサイジングの1ツールとして適合することが証明できた」と鼻を高くする。
ニッチプレーヤーの道 OBCやOSKをはじめとする競合がひしめく市場で、導入社数が150社強のクラウド型ERP「ZAC Enterprise」を展開する新興ベンダーのオロは、業種・業界特化に強みを見出している。
「ZAC」は「無形サービス産業・プロジェクト型ビジネスに最適化された業種特化システム」を謳い、広告コンテンツ制作やソフトウェアITサービス、コンサルティング専門サービスなどに導入実績がある。
もともとは従業員数100人前後の中小企業が主なユーザー企業だったが、このところは従業員1000人以上の企業の開拓を進めている。
国内市場でユーザー層を広げる SMB層をユーザーにもつOSKの場合、最有力販社である親会社の大塚商会が「丸ドメ」企業。「基本的には、海外のことはユーザー企業に任せている」(OSKの笹原部長)という状況で、グローバル展開については検討中だという。同じくSMB向けのERPを展開するOBCは、機能モジュールを日系企業のグローバル拠点に展開する意向をもっている。グローバル展開に温度差はあるが、国内市場でこれまで強みとしてきた中小企業に加え、上位企業層を開拓していくという点では両社は共通する。
内田洋行は、すでにベトナムで、国内市場では年商100億円前後の食品業に強い「スーパーカクテル」の販売に乗り出した。この製品は、オフショア開発先であるベトナム資本100%のFUJINETと協力し、ローカライズ版「Fuji‐Cocktail」を開発。2011年に8社の受注を目標に掲げている。
このほか、中国・香港に内田洋行グローバルリミテッドを設立し、14年度までに80億円の売り上げを目指しているが、「スーパーカクテル」の展開は未定としている。グローバル展開で実績をもつ内田洋行だが、成長の軸足を国内市場に置いているという点では2社と変わらない。2011年、直系販社を集約して拡販体制を整備した。中小企業市場を深耕する構えだ。
OSKは国内市場の飽和を見越して、ERPとしての「SMILE」の販売にとどまらない事業拡大も構想。クレオマーケティングも、ERP単体のビジネスからの転換を図っている。従来型のERPビジネスから転換しようと動きだしているようだ。
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