ゼネラルビジネス部門の全貌
総勢約2200人のスタッフを有する日本マイクロソフトは、株式非公開企業であり、手がける製品・サービスは多岐にわたる。組織も複雑で、その実態はなかなか把握しにくい。とくにITベンダーとの密な連携が欠かせないゼネラルビジネス部門は、ややわかりにくいところがある。
ゼネラルビジネス部門の今年度組織の特徴は、ユーザー企業の規模ごとにチームを分けてつくったことだ。主にユーザー企業が保有するPC台数でSMBマーケットを区切り、大まかに250台未満を「小規模」、250~1000台を「中規模」、1000台超を「大規模」とした。この3カテゴリごとに、パートナーを支援する部門を編成している。このユーザー企業の規模に合わせてパートナーを支援する3部門をつくったことが、今年度の新しい動きだ。
ユーザー企業の規模によって、求められるITニーズも投じられる金額も異なることを重視し、それに応じたパートナー支援体制をつくることを意識したのだ。具体的にいえば、PCの保有台数250台未満を担当するのが「SMB営業統括本部」、250~1000台が「パートナービジネス営業統括本部」、1000台超が「ゼネラルビジネス営業統括本部」といったかたちだ。
そのうえで、今度はユーザー企業の規模を問わず、事業を伸ばすために必要な3部門を配置した。一つ目が「ライセンスコンプライアンス推進本部」で、ソフトの不正利用を撲滅するための各種活動を行う。二つ目が「Dynamicsビジネス本部」。この組織は、ゼネラルビジネス部門で唯一の特定製品・サービスに特化している。ERPとCRMソリューション「Dynamics」の販売、他社との製品連携を強力に推進するためだ。そして三つ目が「パートナー戦略本部」。日本マイクロソフトが運用する全社的なパートナー支援制度を立案・推進する部門で、制度の拡充・見直し業務や、パートナー数の拡大がミッションだ。
「パートナーソリューション営業統括本部」という組織は、ISVやIHV、SIerといったITベンダーと協力して、共同開発したソリューションを数多くつくる役割を担う。商材づくりに専念し、それを前出の三つのユーザー企業規模別の営業部門に引き渡して、拡販を促す。とくにPC保有台数250~1000台のユーザー企業を担当する「パートナービジネス営業統括本部」との連携を強める体制を組んでいる。
これがゼネラルビジネス部門の組織構造で、全体を統括するのはローネー執行役常務だ。傘下の七つの事業部門のトップには、業務執行役員を配置している。ローネー執行役常務は、「組織がスムーズに動いていると感じている。今年度第1四半期(7~9月)の数字(業績)には非常に満足している」と笑顔で語り、新組織の成果を肌で感じているようだ。
SMB事業拡大のカギを握る二人の業務執行役員 KeyPerson マイケル・ダイクス氏(SMB営業統括本部)
PC台数250台以下の企業を担当 PC台数250台以下の中小企業向けビジネスの特徴は、膨大な数の販売先があることだ。私が統括する「SMB営業統括本部」の人員は約40人。このスタッフ数で、全国の中小企業をカバーするのは、事実上不可能だ。パートナーと強い協業体制を敷くことが、とても重要になる。キーワードは「全国」と「マルチ商材」。主要商圏だけでなく、各地方の事情に適合した個別の支援をパートナーに提供できるようにすること。そのために、東西に分けた「営業統括本部」を傘下に置いている。そして単一のプロダクト・サービスだけでなく、われわれの総合力を生かして、ライセンス、クラウド、デバイスといった複数の商品・サービスを知ってもらうことに力点を置く。とくに今年度は、クラウドとして「Windows Azure」はもちろん、「Office 365」の拡販に力を注ぐつもりだ。「Office 365」がオンラインで利用できるオフィスと、業務改善に寄与する複数のクラウドをセットにして低価格で販売する。規模が小さいユーザー企業にもメリットを感じてもらいやすい、有力なクラウドだと思っている。「Office 365」の前身といえる「BPOS」とは比べものにならないほどの競争力をもっているので、一気に普及させたい。(談)
KeyPerson 川原俊哉氏(パートナービジネス営業統括本部)
PC台数250~1000台の企業を担当 私が担当するユーザー企業のエリアに強いパートナーは、全国で約100社とみている。「SMB営業統括本部」と異なるのは、ユーザー企業数もパートナー数も限られていること。私が重視するのは、パートナー数を拡大するよりも、この100社と密な連携を取ることだ。日本マイクロソフト製品を使った新たなソリューションを紹介したり、当社製品ベースの製品開発を促進したりすることで、連携を深めたいと考えている。100社のなかでも、とくに当社製品の販売ボリュームが大きいパートナーを18社選定しており、これらパートナーには専任組織をつくって手厚くサポートする体制を敷いた。
さらに、「SMB営業統括本部」と同様に、地方マーケットを意識している。有力パートナーは全国展開しているケースが大半で、本社と各地域に支社・支店を数多く抱えている。必ずしも本社と地方の支社・支店が同じ支援内容を求めているとは限らない。なので、各地域の要望を取り入れた支援内容は個別に用意する必要があると思っており、「SMB営業統括本部」と同様に、地方支援を重視していく。(談)
パートナーの声
有力販社はどうみているか?
今年度、「パートナーとの協業のために」日本マイクロソフトがつくった「ゼネラルビジネス部門」。同社が考えた体制を、パートナーはどのように評価しているのか。有力販社の声を拾った。
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ネットワールド 森田晶一社長 |
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リコージャパン 窪田大介専務執行役員 |
国内4大ディストリビュータの一社であるネットワールド。同社の森田晶一社長は、米マイクロソフトが今年1月に打ち出し、世界の現地法人でスタートした「VAD(Value Added Distributor)」という新たな取引契約を結んだ。森田社長はクラウドが主流になった時のディストリビュータのかたちを探っており、単なるIT製品の販売だけでは生き残っていけないという危機感を抱いている。“付加価値ディストリビュータ”としての姿を求め、そのなかで、日本マイクロソフトの「VAD」に賭けた。VADでは、日本マイクロソフト製品を活用したソリューションをISVなどと協力してつくり、それを傘下にいるリセラーに販売してもらうスキームをつくろうとしている。「VAD」を契約した理由について、森田社長はこう話している。「数年前の日本マイクロソフトは、パートナーとの関係が硬直していたような気がする。だが、今は距離が縮まっている。私たちの要求も受け入れてくれるし、ともにビジネスを拡大しようという意気込みが感じられる。姿勢は、明らかに変わった」。
また、日本マイクロソフト製品を活用したソリューション販売を展開するダンクソフトの星野晃一郎社長も、日本マイクロソフトの支援を高く評価している。「Office 365」を活用したソリューションの拡販に力を入れているが、「BPOS(「Office 365」の前身サービス)の時に比べて、明らかに販売がしやすくなっている」と話しており、支援体制・内容が以前よりも充実していることを実感している。
一方、全国に約1万人の営業担当者を配置し、国内有数の日本マイクロソフト製品の販社であるリコージャパン。同社は、「Office 365」を特別な形態で販売できる3社のうちの1社に選ばれ、この夏から販売活動を開始している。しかし、窪田大介専務執行役員は、「『Office 365』で交わした契約内容を数年前から結びたい意向をもっていたのに、なかなかその話が通らなかった」と振り返る。「Office 365」というキラークラウドサービスを、特別な条件で販売できる権利を手にできたことに、日本マイクロソフトの関係が強化できたと感じてはいるものの、日本のパートナーの要望をもっと聞いてほしいという願望も、その一方でもっている。
当然ではあるが、パートナーの評価は賛否両論だ。だが、日本マイクロソフトが今年度につくった新組織は、これまでにない新たな挑戦であることは明白だ。マイクロソフトの他の海外法人に比べて、SMB向け事業が弱いといわれる日本マイクロソフトが、パートナーとの関係を強化して、それを打開しようと果敢に挑んでいることは間違いない。