日本マイクロソフト(樋口泰行社長)が、今年度(2012年6月期)から新たな体制で中堅・中小企業(SMB)向けの営業を開始した。新設した「SMB営業統括本部」にSMB向け営業を担当するスタッフを集約。傘下の組織を五つに分け、日本マイクロソフト製品を再販する地方のITベンダー(パートナー)と、SMBへの販売力が強い有力ITベンダーを、従来以上に手厚く支援する布陣を敷いた。この体制で、ソフトのライセンスとパッケージに加え、今年度からは本腰を入れてクラウドサービスも拡販する。統括本部の人員は総勢38人。マイケル・ダイクス業務執行役員SMB営業統括本部長が指揮を執る。(木村剛士)
SMBに強いITベンダーなどを手厚く支援
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| SMB営業統括本部のトップ、マイケル・ダイクス業務執行役員 |
SMB営業統括本部は、SMBへの製品流通を担うディストリビュータを支援する「SMBディストリビューション統括本部」を増強した組織だ。日本マイクロソフトの組織には、ほかにもSMB向けビジネスの営業を担当する事業部門がある。SMB営業統括本部では、保有するパソコン台数が数台~数十台の中小企業を主なターゲットとする。対象顧客は膨大で、この組織が同社のSMB事業のカギを握る。SMBに製品を販売するパートナーを支援する役割を果たす。傘下には五つの営業本部を組織した。昨年度の組織に比べて、SMB市場開拓のためのパートナー支援担当者を集約・増強したかたちだ。
具体的には、パートナー支援制度の推進などを手がける「SMBマーケティング本部」、ディストリビュータに製品を提案・訴求する「ディストリビューション営業本部」、有力IT企業5社向けの営業に特化する「SMBストラテジックパートナー営業本部」に加え、地方のパートナー向け販売支援を手がける「パートナービジネス営業本部」を東西に二つ設けた(図参照)。
東西の「パートナービジネス営業本部」は、全国7か所に設置する支店と連携し、各地方で寄せられるパートナーからの要望や不満に対して個別に応える仕組みを構築。「地方戦略はこれまで東京主導でやってきたので、地方のパートナーの声に応える体制が手薄だった」(ダイクス統括本部長)という課題を解決する。一方、SMBストラテジックパートナー営業本部で定めた5社は、NEC、大塚商会、デル、富士通、リコーだ。SMBマーケットに広くアプローチできる有力ITベンダーには、専門営業本部の人員が手厚いサポートを行う。
この体制で、ソフトのライセンスおよびパッケージの販売を促進するほか、今年度からはクラウドサービス、主に「Microsoft Office 365」の販売に本腰を入れて取り組む。ダイクス統括本部長は、「(『Office 365』の前身といえる)『BPOS』は従来から提案しているが、別の部門がメインで指揮し、われわれの部門は、どちらかというとサポート役としての色彩が濃かった。だが、今年度からSMB営業統括本部でも明確に『Office 365』を拡販する」と語っている。また、「クラウド、ソリューション、そしてデバイスと商品・サービスが増え、多様化してきた。現在の人員で、パートナーの要望に応えてさまざまな製品をいかに多く販売するかが求められている」とミッションを説明する。
日本マイクロソフトは、世界の現地法人に比べてパソコン向けOSと「Office」の販売ボリュームが大きく、SMB向けビジネスが弱い。OSと「Office」以外のソフト販売量増加と、SMB市場開拓は慢性的な課題だ。ダイクス業務執行役員も「日本のSMBのユーザーが保有するサーバー台数は、他の先進国に比べて半分しかない」と話している。従来の体制を再編・増強し、SMB市場の深耕を図る意気込みだ。

SMB営業統括本部の体制
表層深層
「日本マイクロソフトのパートナーに対する姿勢は、明らかに変わった」。有力ディストリビュータのネットワールドの森田晶一社長の言葉だ。森田社長は、日本マイクロソフトの支援が、以前よりも充実してきているという感触を得ている。
「数年前の日本マイクロソフトは、チャネル(パートナー)との関係が硬直していたような気がする。われわれが要望を出しても、通らないことが多かった……。だが、今は違う。聞く耳をもっている。私たちの要求も受け入れてくれ、ともにビジネスを拡大しようという意気込みが感じられる」。
ネットワールドは、米マイクロソフトが今年1月に打ち出し、世界の現地法人で始めた「VAD(Value Added Distributor)」という新たな取引契約を結んだ。今、このVADに位置づけられるディストリビュータは、日本ではネットワールドしかない。VADになれば、競合他社よりも手厚い支援を受けられる。だが、ネットワールドはそれに見合うだけの販売ボリュームを求められる。社内体制の整備も必要で、投資も欠かせない。それでも、森田社長は、日本マイクロソフトがパートナーに対しての姿勢が変わってきた面に信頼をおいて、「VAD」契約に踏み切った。
日本マイクロソフトのSMB事業部門では、これまで多くの同社幹部が成長させようとチャレンジしたものの、特筆すべき成果を納めた人物はいない。だが、森田社長のように、同社の変化に好感を抱く有力パートナーが増えれば、SMB事業発展の切り札を手に入れたことになる。(木村剛士)