『週刊BCN』編集部が実施したITベンダー、SIerおよそ80社のトップへのインタビューを踏まえ、2012年のIT業界のトレンドを探る。新年に有望となるIT商材は何か──。ハードウェア、ソフトウェア、ITサービス、ネットワーク、プリンタの分野を見通す。
ハードウェア編
5秒でわかる2012年のトレンド
・タブレットとスマートフォンの台頭、端末多様化時代の到来
・スマートフォンのOS争いは注目、マイクロソフトの逆襲なるか
・端末が主導するモバイルソリューションの成長
端末が主役になる2012年
新分野で後塵を拝するも侮れないマイクロソフト 急成長するタブレット端末
12年度に450万台超えの可能性 ハードウェアの領域では、2011年から急速に普及しているスマートフォンとタブレット端末が、引き続き主役を演じる年になるだろう。
タブレット端末は、アップルが2010年5月に「iPad」を発売して一気に話題をさらい、その後、グーグルのOS「Android」、マイクロソフトの「Windows」を載せたモデルが続々と登場し、11年に市場が確立した。富士通の山本正已社長は、12年のハードウェア事業について「唯一調子がいいのはスマートフォン」と語り、積極的に取り組む姿勢をみせている。調査会社の矢野経済研究所は11年8月に発表した資料で、11年度のタブレット端末の出荷台数を、10年度の約3倍となる291万5000台と予想。12年度は11年度比55.7%増の454万台に達する見通しとして、高い成長を見込む。この数字は個人向けと法人向けの合算値だが、矢野経済研究所は「今後、法人ユーザーの利用が進む」と説明し、ビジネス端末として普及する可能性を見越している。
タブレット端末の動向で2012年に見逃せないポイントが、マイクロソフトの次期クライアント端末向けOS(開発コードネーム:Windows 8)だ。タッチ操作を意識したユーザーインターフェースを取り入れることが決まっており、タブレット端末の需要を喚起するはず。マイクロソフトの米本社は、11年9月、開発者を対象に「Windows 8」の一部機能と開発ツールをイベントで公開。発売時期は未定だが、12年2月に開発者限定でβ版を提供することを公式に発表しており、詳細な情報が出てくる可能性は高い。
勢力図が変わるか
スマートフォンのOS争い スマートフォンの分野でも、注目は「Windows」になるだろう。マイクロソフトは、スマートフォン向けOSで完全に出遅れ、11年にようやくスマートフォンでの利用に適したOS「Windows Phone」を発売した。このOSを搭載するスマートフォンは、KDDIからしか提供されておらず、「Android」搭載スマートフォンと「iPhone」の後塵を拝している印象は否めない。
だが、既存のビジネス端末環境では「Windows」を活用している企業が大半で、アプリケーションやデータの連携・親和性を考えれば、「Windows Phone」の存在は侮れない。また、グーグルと異なり、マイクロソフトには、パソコンやサーバー環境をISVやSIerと長い時間をかけて構築してきた協業体制がある。「グーグルのプラットフォームに乗るよりも、関係が深く、ユーザー企業も慣れ親しんでいるマイクロソフトに乗るほうが事業を展開しやすい」という考えも働くはずだ。米ガートナーは11年4月、世界のスマートフォン向けOSのシェア予測を発表。そこで、10年はわずか4.2%だったマイクソフトのシェアが、12年には10.8%、15年には19.5%に拡大するという大胆な見通しを立てている。
「端末といえばパソコン」という時代が長く続いたが、これから先は利用用途・環境によって、パソコン、スマートフォン、そしてタブレット端末を使い分ける時代が到来しそうだ。ISVにとっては、各デバイスへの対応、そしてSIerにとっては、従来型携帯電話(フィーチャーフォン)ではユーザーのIT投資を喚起できなかったモバイルソリューションを拡販できる状況が整ってくることになる。スマートフォンやタブレット端末での利用に適したITソリューションとは何か、検討する価値がありそうだ。
ソフトウェア編
5秒でわかる2012年のトレンド
・クラウドの主導権争いが表面化
・成長の大きな要因となる「グローバル化への対応」
・業種・業界の特化で顧客ニーズに応える
新局面を迎えた基幹系システム
クラウド・海外・業種特化がキーワード 拡販期を迎えるクラウド
主導権争いが始まる ここでは、国内の基幹系システムベンダーに絞って動向をみる。中小企業向け基幹系システムのSaaSの提供で業界の先頭を走ってきたピー・シー・エー(PCA)。2008年にクラウド事業を開始し、2011年9月末時点で891社、2358CAL(Client Access License)の利用実績をもつ。2011年の段階では、中小企業向け基幹系システム市場で、これだけクラウド事業に注力するベンダーはほとんど見当たらなかった。
2012年に入り、こうした状況は変わる。富士通マーケティングが提供する「きらら」の動向が注目に値する。加えて、対象ユーザー層はやや異なるものの、小規模企業・SOHOに強い弥生は満を持して、「弥生オンライン」の提供を開始する。いまだに低い業務ソフトの利用率を引き上げるための起爆剤になる可能性がある。岡本浩一郎社長は、企業には「会計事務所への丸投げ」と「自計化」という二つの会計処理の選択肢があるとしながら、「『弥生オンライン』はそのどちらにも対応するハイブリッドで提供する」と話す。
中堅企業向け市場では、ミロク情報サービスがプライベートクラウド環境で提供する「Galileopt NX-I」の販売を2012年2月2日に開始する。提供元となるデータセンター事業者との提携を模索しているところだ。
すでに、主導権争いは始まっている。エス・エス・ジェイ(SSJ)は、「SuperStream-NX」の販売に力を入れており、「優位性を築くために、早期に納入事例をつくっていく」(大江由紀夫社長)。2015年までに、SaaSとオンプレミスを合わせて累計1万社への納入を目指す。SaaS/クラウドに対応したSOA・BPMを基盤とする「Biz∫」で開発したERPを販売するNTTデータビスインテグラルは、製品ラインアップが充実し、いよいよ拡販に向けて乗り出した。
ますます進むグローバル化
多言語・多通貨対応に焦点 国内企業の海外展開加速に伴い、国内ベンダー各社も対応を迫られている。SSJは、クラウドに加えて国際財務報告基準(IFRS)とグループ経営、グローバルをキーワードに差別化を図っており、多言語・多通貨対応を急ぐ。東洋ビジネスエンジニアリングの「A.S.I.A. GP」は、主なグローバル対応機能として多言語と多通貨、多基準管理をすでに備えている。16か国250社、2600ユーザーに納入実績をもつという。会計情報をリアルタイムに連携する販売管理、購買管理、在庫管理の各業務サブシステムを追加し、グローバル事業のアクセルを踏む。
クレオマーケティングは、海外事業の展開を模索している段階にとどまるが、「当社のパートナーであり、中国に拠点を構えるNTTデータ イントラマートと協力していく」(林森太郎社長)との意向を示す。
中堅規模以上の企業をユーザーとして抱えていながら海外事業を検討していない主要ベンダーは、ほとんど見当たらない。グローバル化への対応は、成長を占ううえでの試金石となる。
業種・業界特化に商機
専用ソフトを拡充 OSKは、2010年、大塚商会の連結子会社であるアルファシステムから、生産管理システム「遉(さすが)」の譲渡を受けた。また、タイヘイコンピューターからは、建設業向け支援システム「POWERシリーズ」を譲り受けた。2012年は、業種・業務別テンプレートを大幅に拡充し、「強みを生かす開発に力を入れていく」(宇佐美愼治社長)方針だ。
オービックビジネスコンサルタントや応研、PCAなどの販売店であるディーマネージの萱沼徹代表取締役によると、「既存のパッケージでは対応できないことが増えている。例えばロット管理や期限管理、在庫の引き当てなどは、中小企業にこうしたニーズが顕在化している。以前は、もっと大きな企業に存在したニーズだった」という。同社は、社内開発したシステムを汎用化して横展開しており、契約管理システムはビルメンテナンス業者やレンタルサーバー業者など、10社程度の納入実績をもつ。
かゆいところに手が届く特化型パッケージの提供が、中小企業向けには効果を発揮する。
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