ITサービス編
5秒でわかる2012年のトレンド
・クラウドの進展とグローバル化は、抗いがたい二大潮流
・共同利用型モデルで、業界プラットフォームを押さえる
・国際競争力の向上は、国内既存ユーザーの要求でもある クラウドとグローバル
二大潮流に乗って成長を目指す 有利にビジネスを進める
先行投資が増える局面も 情報サービス分野の二大潮流は、クラウドコンピューティングとグローバルだ。情報システムの共同利用モデルが拡大し、アジア成長国に活路を見出すユーザーがさらに増えるだろう。一方、ITベンダーは先行投資を求められたり、ボーダレスな会社組織をつくったりと、越えなければならないハードルは多いものの、これら課題を解決したベンダーがビジネスを有利に展開していくことになる。
共同利用モデルについては、野村総合研究所(NRI)の取り組みが理解しやすい事例である。NRIの主力商材の一つである総合証券バックオフィスシステムの共同利用型サービス「STAR・Ⅳ」は、国内証券会社の多くが利用している。このサービスを証券業界最大手の野村證券が利用することが決まり、2013年1月の稼働に向けて機能拡張や個社向けカスタマイズが本格的に始まっている。
ここでのポイントは二つ挙げられる。野村證券はNRIにとって重要顧客の一社であり、オリジナルで開発した基幹業務を担っている。共同利用化する部分の既存システムは廃止され、その分の開発業務はなくなる。もう一つのポイントは、「STAR・Ⅳ」はNRIのサービスなので、自らの責任において開発投資を負担しなければならないという点だ。
野村證券の要求を満たすために、NRIは自らの負担で「STAR・Ⅳ」の機能拡張を行うとともに、野村證券の固有機能に限って個別にカスタマイズするというやり方で対応している。今年度(2012年3月期)は、「STAR・Ⅳ」への投資が約70億円、個別カスタマイズが約100億円で、来年度(2013年3月期)も似たような比率になる見込みという。
“業界クラウド”でシェア
変革を受け入れて成長へ これまでのシステム構築(SI)では、個別カスタマイズや受託ソフト開発がほぼすべてを占めるため、SIerが持ち出しで投資をする部分はほとんどなかった。ただ一方で、NRIは野村證券を「STAR・Ⅳ」に引き入れることで、証券バックオフィスシステムの共同利用型サービスでは過半数のシェアを獲得することになる。事実上“業界クラウド”と呼ばれるプラットフォームを担うポジションとなり、中長期的に十分な利益が見込めると踏んでいる。
もう一つの潮流であるグローバルでは、国内の人口減少局面において、ユーザー企業が主にアジアの成長国に活路を見出していることが背景にある。情報サービス業トップのNTTデータは、アジア圏だけでなく、欧米でもM&A(企業の合併と買収)を積極的に展開。2010年は世界のITサービスベンダーランキングで、NECを追い抜いて8位にまで上り詰めた。国内市場だけで成長を持続させることは困難と判断し、早い段階でM&Aに将来の可能性を見出した。しかし、すべてのSIerがNTTデータのような巨額な投資を行えるわけではない。それぞれの体力に応じて海外進出先を選んだり、地場有力SIerとの提携や合弁で顧客のニーズを満たしていく必要がある。
クラウドによる共同利用モデルは、個別の受託ソフト開発のボリューム減少を招き、グローバル対応は会社組織のあり方や価値基準そのものの転換を意味する。情報サービスを担う多くのSIerにとって、必ずしもいいことばかりではないが、こうした変革を受け入れなければ成長できないこともまた事実である。
ネットワーク編
5秒でわかる2012年のトレンド
・DC需要の高まりで、ネットワーク機器のニーズが増大
・とくにDC向けのロードバランサが有望商材に
・サービスと海外事業の“具現化”が課題になる
新規事業に取り組む年
2011年の仕込みをかたちにする コア機器の販売は拡大
価格競争で単価は下落 BCP(事業継続計画)対策としてのデータセンター(DC)の需要拡大、新型端末の普及による通信キャリアのネットワークインフラの大幅強化、次世代ネットワーク(NGN)への移行──ネットワークを取り巻く環境には追い風が吹いている。2012年以降、スイッチやルータ、ロードバランサ(負荷分散措置)といったコアのネットワーク機器のインテグレーションを中心としたネットワークビジネスは、伸びをみせる可能性が十分にある。
システムインテグレータ(SIer)にシスコやブロケードなどのネットワーク機器を提供するネットワンパートナーズの齋藤普吾社長は、「スマートフォンの普及を大きな刺激剤として、ネットワークのインフラ構築事業は、今後、販売台数ベースで必ず拡大する」と断言する。ただし、「ベンダー間の競争の激化に伴って単価が下がり、金額ベースで伸びるかどうかは別の話だ」と条件をつけている。ICT(情報通信技術)ベンダーにとっては、他社との差異化を図ることで売り上げを確保することが、2012年の大きな課題の一つとなりそうだ。
IDC Japanの調査が、ネットワンパートナーズの齋藤社長の見解を裏づける。IDC Japanによると、イーサネットスイッチの国内市場は、2012年、出荷台数・売上金額ともに伸びを記録する。しかし、2013年以降、出荷台数はそれほど落ち込まないものの、売上金額は大きく下がる傾向に転じる。一方、とくにDCのニーズが高いロードバランサは、売り上げベースでの市場規模が、2011年の約200億円から、2015年には300億円に拡大する見通しだ。ロードバランサはイーサネットスイッチと異なり、売り上げへの貢献にも有望な商材となるわけだ。
大手ロードバランサメーカーである米F5ネットワークス製品の販売に強い東京エレクトロンデバイスの栗木康幸社長は、「日本法人のF5ネットワークスジャパンと緊密に連携して、2012年、ロードバランサをはじめとしたF5ビジネスを伸ばしたい」と方針を語る。
新規事業を強化・拡大
海外を一つの柱として ロードバランサなど、特定のデバイスが伸びることはあるものの、ICTベンダーは今、新しいかたちの事業を立ち上げ、縮小しつつある従来型の機器販売を補うことを喫緊の課題としている。2011年は、とくに商社系のICTベンダーが、サービス事業の拡大を目指して、新規事業の基盤をつくる動きに出てきた。DCの自社運用/DCサービス提供の開始(日商エレクトロニクス)をはじめ、データを分析・活用するビジネスアナリティクス(BA)事業への参入(兼松エレクトロニクス)、エネルギー管理ソリューションの展開(三井情報)など──。ICTベンダーの多くは、大胆に新規事業の立ち上げに取り組んできた。
2012年は、新規事業を拡大し、売り上げへの貢献度を引き上げることによって、新しい取り組みを実ビジネスにつなげるうえで、試金石の年となる。各ベンダーが、従来型ビジネスの維持と新規事業の強化に向けて動きを加速し、競争が激しさを増していくのは必至だ。三井情報の下牧拓社長は、「日本国内市場は、生き残るか退場するかの激戦区になりつつある」として、アジアを中心とした海外マーケットでの事業展開を注視している。
三井情報だけでなく、兼松エレクトロニクスや日商エレクトロニクス、日本ユニシスグループのネットマークスなど、アジア各国に海外拠点を抱えるICTベンダーのトップは、声を揃えて「2012年以降、海外事業の強化を経営方針の重要な柱としていく」と語る。各社の海外戦略はさまざまだ。兼松エレクトロニクスは的を中国に絞って、主に日系ベンダー向けのICTサービスを展開。一方、日商エレクトロニクスは、ベトナムに現地法人を立ち上げ、ベトナム地場の通信事業者を主要ターゲットに据えている。各社は海外事業の強化によって、国内の売上減少を補完しようとしている。
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