注目分野の進捗状況
海外とクラウドの進展はいかに
停滞感がある国内IT産業で、多くのIT企業が成長のために力を注ぐ領域がある。それが、製品・サービスでいえばクラウドであり、市場でいえば海外だ。新たな利用形態として普及期に入ったクラウドを一層推進する動きと、伸びしろが大きい海外市場に挑戦する姿勢は、多くのIT企業にみられる。12年はどのような方針でいくのか。各IT企業にたずねた。
予想以上に伸びたクラウド 各社の声をまとめると、クラウドは2012年もIT産業をけん引する役割を期待されている。11年は前年以上にクラウドを求めるユーザー企業・団体が増えた。運用コストの削減などを目的として、情報システムを自社で運用せずに専門企業(IT企業)に任せる動きが4~5年前から出てきた。11年はそれに加えて、東日本大震災が皮肉にもクラウドの需要を後押しした。大震災を経験したユーザー企業・団体は、事業の継続を可能にするためには、自社でシステムをもつよりも専門設備を備えるIT企業に任せたほうがいいと強く感じるようになったのだ。
国内16か所にデータセンター(DC)を構える富士通エフ・アイ・ピー(富士通FIP)の杉本信芳社長は、「東日本大震災がDC関連サービスのニーズを高めている要因になっている」と話す。同社は、10年12月に神奈川県横浜市に約4200のサーバーラックを収容できる大型DCの稼働を開始した。杉本社長によれば、当初の計画よりも1.5倍のスピードでラックが埋まっており、12年9月には「損益分岐点を超える」計画を示している。
各社に回答を求めた共通質問でも、11年はクラウド事業が順調に伸びていることがわかる。クラウド事業の進捗状況についての質問で、計画以上にビジネスが早く伸びていると回答したのは全体の15.8%、計画通りと回答したのは56.1%となった。10年末に同じ質問をほぼ同じ企業にたずねているが、この時点では「計画以上」は12.3%、「計画通り」は36.9%にとどまっていた。ともに前回を上回るポイントで、クラウド事業が加速していることがうかがえる。
前出の富士通FIPは、旺盛な需要を受け、12年3月に約4200のラックを格納できる新たなDCを同じく横浜市に設置する準備に入った。「強いニーズがある今こそが勝負の時」と積極果敢に攻める姿勢をみせる。
「所有から利用へ」といわれて久しくなったクラウドだが、2011年は間違いなくIT産業の主役だった。12年もその流れに変わりはなく、旺盛な需要に後押しされて、IT企業もクラウド関連事業を強化する姿勢はより一層鮮明になりそうだ。
海外進出の意欲は継続 クラウドとともに、ここ数年でIT企業の経営層が頻繁に口にするようになったのが、海外だ。国内IT産業の伸び率は1~3%である状況が長期的に続くという予想から、急成長するためには海外市場への進出が必要と判断したためだ。大企業だけでなく、年商100億~500億円の中堅クラスのIT企業でも海外市場にチャレンジする姿が目立っている。
例えば、中堅SIerの富士通ビー・エス・シー(富士通BSC)は、およそ20年前に中国に進出していたが、これまではオフショア開発拠点としての活用がメインだった。しかし、昨年からは中国をマーケットと捉え、本格的に営業活動を開始。BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスを提供するための専用施設を大連市に設置した。「中国現地でのビジネスを創出する時期に入っている」と、同社の室町義昭社長は意欲を示している。
また、同じく中堅クラスのソフト開発企業であるSRAホールディングスは、海外製品を調達して別の国・地域で売るというユニークな戦略を昨年から本格的に開始した。米国で実績のあるISVなどと資本・業務提携し、他国での販売権を獲得。中国やインドを中心に、今後成長が見込める国で販売する体制を築いている。11年10月には中国・上海市に現地法人を設立し、販売体制の増強に余念がない。SRAホールディングスも、中国やインドに10年以上前から進出していたが、それはオフショア開発先としてだった。富士通BSCやSRAホールディングスのように、開発拠点としてだけでなく、営業拠点として海外をみる中堅のIT企業の数は、一気に増えている。
では、その効果のほどはどうか。各社に共通してたずねた海外事業の進捗状況について、「計画以上の実績が出ている」と回答したのは、全体の10.5%。「計画通り」は30%に達した。また、興味深いのは、「実績はないが積極投資する」と回答したIT企業が26.4%もあることだ。リスクはあっても海外にチャレンジする姿勢をもっているIT企業が、4社に1社は存在するということだ。閉塞感が漂う国内にとどまらず、海外に挑戦しようとする動きは、12年も引き続き加速しそうだ。
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