中小企業の情報システム部門責任者(CIO)の仕事環境は、決して恵まれたものではない。IT人材が乏しく、一人で情報システムを運用せざるを得ない。しかもITシステムに回される予算は、大企業に比べて少ない。それにもかかわらず、ITの重要性は大企業と何ら変わらないので、責任は重い。孤軍奮闘するCIOの現実、リソースが乏しくても挑戦する姿、そしてITベンダーに求めることを取材した。中小企業のCIOの今を浮き彫りにする。(取材・文/木村剛士)
中小企業CIOの立場
「兼務で一人」の厳しい現実
「従業員数が100~150人の中小企業の場合、専任の情報システム担当者などいないケースが大半。他の仕事と兼務しながら、一人で情報システム全体の面倒をみている。(ユーザー企業の)経営者次第だが、多くの中小企業では、こうした状況が続くだろう」
中堅・中小企業(SMB)のIT利用実態に詳しい調査会社ノークリサーチの伊嶋謙二社長の言葉だ。CIOは、大企業では花形ポストかもしれない。だが、中小企業になると、多忙で孤独なポジションに変わる。伊嶋社長のコメントから、そのことを想像することができる。
日本の全企業(会社+個人事業所)数のうち、「中小企業基本法」で定める中小企業は全体の99.7%を占める。中小企業基本法での中小企業の定義は、業種によって異なり、製造業でいえば、従業員300人以下または資本金3億円以下の企業。小売業では、従業員100人以下または資本金1億円以下だ。この調査結果と伊嶋社長の言葉を掛け合わせれば、日本には、会社のITインフラを一人で支えている情報システム担当者が大部分を占めていることになる。
ノークリサーチは2012年2月から3月にかけて、年商500億円未満のユーザー企業1000社に対して、IT投資額と業績に関する調査を行った。その調査のなかで、IT投資予算額が前四半期と比べてどれだけ増減しているかをたずね、「増える」と「減る」の差を算出した「IT投資意欲指数(IT投資DI)」と、前回と今回調査時点を比較した場合の経常利益の増減を算出した「経常利益増減指数(経常利益DI)」を公表した。直近で1年間、二つのDIともにマイナスという結果が出ている(図1参照)。利益が減り、IT投資も減らしているというわけだ。
こんなデータもある。2012年1月に発表したSMBのIT投資額予測調査(有効回答数1000件、対象は年商5億円以上の企業)の結果では、年商5億円以上30億円未満の企業の2011年~2015年までの年平均成長率(CAGR)はマイナス0.9%、年商30億円以上50億円未満のCAGRは2.4%とした(図2参照)。大企業に比べてIT化が遅れているとはいえ、それを挽回するためのIT投資が急激に増えることはない。
多くの中小企業のCIOは、ヒトもカネも増えないなかで、たった一人でITインフラを支え続けなければならないのだ。
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