中小企業CIOの苦悩
社内に頼れる人がいない
平均労働時間は14~15時間  |
| 松永建設のCIOである須釜洋年課長。仕事を頼むITベンダーは会社としての実績と強みだけでなく「営業担当者のもっているスキルと人柄もみて決めている」 |
では、中小企業のCIOは、どんな仕事を毎日こなし、どんな悩みを抱えているのか。従業員が200人ほどの建設会社を例にみてみる。
埼玉県さいたま市に本社を置く1963年創業の建設会社、松永建設。グループ企業には、不動産事業の松永都市開発や、介護福祉サービスの安心リビング・サポートなどがあり、グループ総勢200人ほどの従業員で事業を展開する。
このグループ会社に、情報システム担当者はたった一人。須釜洋年課長だ。所属は総務部管理グループ。ISOなどの認証取得・更新業務を兼務しながら、情報システム全体の企画・運用責任を負っている。2011年3月末までは、購買業務も担当していたマルチプレイヤーだ。
松永建設のIT環境は、約200台ほどのパソコンと18台のサーバーで構成されている。サーバーは本社や子会社、営業所に点在し、全台数を自社運用している。これに十数台のMFP(デジタル複合機)とプリンタが加わる。サーバーはNEC、MFP・プリンタは富士ゼロックス製品が中心だ。主なシステムでは、勘定系でオービック・ビジネス・コンサルタント(OBC)のERPを活用。レンタル事業向けの販売管理に、システムハウス飛鳥が開発した「レン太郎」、原価管理にはアイキューブの「本家シリーズ」を使っている。パソコンには、「Office」とフリーウェアのCADソフト「Jw_cad」を全機種にインストールし、日本マイクロソフトの運用管理ソフト「Microsoft System Center」で管理している。これが松永建設のおおよそのシステム環境だ。須釜課長は、自社に適したIT製品・サービスを自ら調査し、それを導入するSIerも自分で調べて、コンタクトを取り、導入してきた。松永建設には、すべてを任せているITベンダーは存在しない。
須釜課長は、「木・金曜日は早く帰る」が、朝8時に出社し、夜の10時~11時に退社するのが普通。14~15時間労働だ。ほとんどの時間を「サポート・トラブル対応に費やしている」。「パソコンの調子がおかしい」「ソフトの操作がわからない」という従業員の声に応え、システムの不具合が起きた時に、メーカーや再販したITベンダーに問い合わせ、復旧を段取る。そんな日々を送っている。

松永建設の本社ビル。建設事業だけでなく、福祉や産業廃棄物の処理業も行う。歴史が古く、地元で有名な企業だ
売り込みはウェルカム 多忙な毎日を過ごしているなかでも、須釜課長は、建設現場で働く従業員の業務を効率化するために、また自分の仕事を楽にするためのITを、貪欲に求めている。松永建設は、毎年のIT予算をとくに決めていない。須釜課長は自社にとって有益なIT製品・サービスを日々調査しており、必要だと思ったら、そのつど稟議を上げている。
「IT製品・サービス関連の業者から、少なくとも一日1件は、売り込みの電話がある。飛び込みでいきなり来るIT営業担当者も結構多い」という。意外なことに、須釜氏は、その売り込みに可能な限り対応している。「一週間に1社の割合で営業担当者の話を聞く。今週は3社のITベンダーの営業担当者に会ったんじゃないかな。電話で売り込みがあると、ウェブサイトでその会社をあたって信用できるかどうかを調べるが、よほど怪しいと判断しない限り、営業マンに会って話を聞く」そうだ。
須釜課長は続けてこう話す。「一人でやっているのだから、社内に頼れる人材はいない。となれば、外(ITベンダー)にサポートしてくれる人を求めるしかない。確かに時間は取られるが、ITベンダーの営業担当者は情報と、私の気づかないアイデアをもっている」。
建設会社で働く孤高のCIOは、自分の悩みを聞いたうえで、その解決方法を示唆してくれる上司であり同僚のような存在として、ITベンダーを捉えている。
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