2011年3月11日に発生した東日本大震災以降、BCP(事業継続計画)やDR(ディザスタリカバリ)を意識する企業がますます増えた。現在も引き続いてバックアップソフトの需要が旺盛で、とくにSMB(中堅・中小企業)の導入意欲が高い。ITベンダーにとってのビジネスチャンスが到来しているわけだが、これまでとは異なる提案を行うことが競争に打ち勝つポイントになる。サーバーとセットで提供していたバックアップソフト関連ビジネスは、どのように変化を遂げているのか。現状のビジネスと、次のステップを探る。(取材・文/佐相彰彦)
【市場動向】
ユーザー企業の災害対策に変化
メーカーは販売支援に力点
情報システムの災害対策については、対策内容と実際にかかるコストのギャップが大きい場合、従来、ユーザー企業は検討をするだけで終わることが多かった。だが、東日本大震災以降は、積極的に対策を施す動きが出てきている。データ保護の意識が高まり、ベンダーへの問い合わせが増えているようだ。バックアップソフトメーカー各社は、ビジネス拡大に向けてどのような取り組みを進めているのだろうか。
調査会社のIDC Japanによれば、国内ストレージソフトウェア市場は、昨年上半期が前年同期比4.0%増の338億8300万円。通年では、前年比3.8%増の686億3200万円と見込む。2010年から15年までの年平均成長率は4.0%で、15年の市場規模は802億8000万円に達するとのことだ。そこで、メーカー各社は一気に新規顧客を獲得しようと、販社への支援を柱に据えた新しい策を講じている。
日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は、昨年、バックアップソフト「Data Protector」をバージョンアップし、仮想化対応などの機能を強化するとともに、ライセンス体系の見直しを行った。春木菊則・インフォメーション・マネージメント事業部長東アジア担当は、「バックアップ対象サーバーの数が何台でもライセンスを増額しない制度に切り替えた。クラウド環境で仮想サーバーがどれだけ増えても、ライセンスにかかるコストは同じ。つまり、新しい時代に合わせたサービスだ」と自信をみせる。余分なコストがかからないので、ユーザー企業にメリットをもたらす。また、販社にとってもユーザー企業を囲い込みやすくした。バックアップソフトを切り口に、ハードを含めてさまざまな製品を提供できるようになるわけだ。
製品自体の「低価格化」に焦点を当てているのはアクロニス・ジャパンだ。仮想化プラットフォーム「VMware vSphere」で仮想環境を構築し、小規模システムに対応したバックアップソフト「Acronis vmProtect 7」を発売した。価格は、1CPUあたり1ライセンスを6万円に設定。村上督代表取締役は、「気軽に導入してもらえる価格設定にした」と説明する。
日本CAは、新年度にあたる今年4月からパートナー支援部門の人員を増やした。昨年度比で1.5倍である。江黒研太郎・ストレージ・ソリューション事業部長は、「昨年度は、ストレージ関連ビジネスの売り上げが約3倍に伸びた。今年度も3倍の成長を狙っており、人員を増やした」という。
シマンテックは、SMB向けバックアップソフト「Backup Exec 2012」を発売。2年ぶりのバージョンアップということもあって、「とくに今年はSMBを開拓する年と位置づけている」(石崎健一郎・執行役員マーケティング本部長)という。販社の経営者やマネジャークラス向けのセミナーを開いているほか、ディストリビュータの内勤者向けの問い合わせ対応を中心としたレクチャーや、ディストリビュータがリセラー向けに説明会を開いて拡販体制を整えている。
日本クエスト・ソフトウェアは、バックボーン・ソフトウエアの買収によって製品のラインアップを拡充した。藤田和史・営業部ディレクターパートナーセールスは、「販売パートナーに製品群の販売戦略を浸透させていくとともに、各製品の特性にあった新規パートナーを開拓していく」との方針を示す。
各メーカーとも、懸命にSMBを開拓している状況がうかがえる。では、どのような切り口でユーザー企業に対して提案しているのか。以下、注目を集めているテーマを取り上げる。
【Theme 1】仮想環境
バックアップ関連のビジネスが拡大すると期待されているのが、仮想環境への対応だ。仮想環境を構築したものの、どのようにバックアップすればいいかわからないユーザー企業は多い。「コストを抑える目的で仮想環境を構築したので、バックアップにはコストをかけられない」という声も聞こえてくる。このような課題を解決する製品が、最近、メーカーから相次いで発売されている。 ●見過ごしている仮想環境に対応
SMBが購入できる製品の発売も相次ぐ 破格のソフトを投入  |
アクロニス・ジャパン 村上督代表取締役 |
さまざまなOS環境のシステムを統合管理することや、運用コストを低く抑えられることなどで、ユーザー企業による仮想環境を構築するケースが多くなっている。とくにSMBでニーズが高まっており、今年はSMB市場で仮想環境が一気に普及する可能性が高い。
しかし、一方で問題になっているのが仮想環境下のデータをバックアップする作業だ。「既存の製品でバックアップできないのであれば、どうすればいいのか」「どれくらいのコストがかかるのか」など、ユーザー企業の不安要因はさまざま。これはSMBに限ったことではなく、大企業の一部門が仮想環境を構築したケースでも課題として浮上している。
ITベンダーは、こうした課題を解決することを求められるわけだが、コスト面でユーザー企業がどうしても首を縦に振らないケースが多い。仮想環境にした理由はコストを低く抑える点にあるわけで、高額なバックアップソフトを購入するのは本末転倒と考えるユーザー企業が多い。
そこで、アクロニス・ジャパンは仮想環境に対応した低価格のバックアップソフトとして「Acronis vmProtect 7」を発売したのだ。
これまで仮想環境のバックアップソフトは、30万円クラスの高価なものが多かった。村上代表取締役は、「ユーザー企業は、システム規模の大小にかかわらず、物理環境と仮想環境のデータを保護したいと考えている。なかでも、仮想環境は無防備になっているケースが多いので、今回の製品を発売することになった」と説明する。
「Acronis vmProtect 7」で手軽に仮想環境に対応したバックアップソフトに馴染んでもらい、仮想環境だけでなく物理環境も統合的に管理する「Backup & Recovery 11」への販売につなげるというのがアクロニスの戦略だ。
物理と仮想を一元管理 価格に加えて、仮想環境のデータをバックアップするためのもう一つの壁が「操作の難しさ」だ。ユーザー企業のシステムは仮想環境だけでないことが多い。物理環境と仮想環境を一括してバックアップすることを困難だと感じているのだ。
この問題を解消するために、シマンテックは「Backup Exec 2012」を発売した。石崎マーケティング本部長は、「SMBには、システム管理者がいない企業が少なくない。だからこそ、直観的に使えるインターフェースで誰でも簡単に操作できることを重視しながら、SMBでニーズの高まる仮想環境に対応した」と、新製品を発売した狙いを語る。
ヴイエムウェアでは、「SMBへの普及がビジネス拡大のカギ」(森田徹治・テクノロジーアライアンス部長)と位置づけている。仮想化ソフトのトップレベルメーカーであるヴイエムウェアがSMBの新規開拓に着手していることから、バックアップ関連メーカーは、ユーザー企業の間に新しい環境のデータをバックアップしなければならないという動きが必ず出てくると判断して、「仮想環境」をキーワードに力を入れているのだ。
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