【Theme 2】クラウド
物理環境と仮想環境のバックアップを行ったユーザー企業で、次のニーズとして出てくるのがクラウド上でのバックアップだ。重要データの管理はもとより、社内で管理しきれないデータをクラウド上に保存しておき、元データは削除する。こうした使い方では、必要な時にそのデータをリカバリするバックアップが活発になるだろう。クラウドに対応した製品を提供するメーカーが増えており、複数のファイルを一つにまとめる「アーカイブ」にも似たバックアップで、サーバーのディスク使用量削減を訴求している。 ●どんな環境でもバックアップ
管理不要なデータはクラウドに 「システムを丸ごと」がカギ  |
日本CA 江黒研太郎事業部長 |
日本CAは、物理・仮想環境を問わずにバックアップできるソフトとして、「CA ARCserve D2D r16」を提供している。この製品は、システム全体をバックアップして、丸ごとリカバリすることができ、「専門的な知識や特別な設定は一切不要」(江黒事業部長)という。しかも、バックアップするデータのファイルコピー先として「Amazon S3」「Windows Azure」などクラウドストレージサービスに対応している。
価格は、サーバー用製品の「Standard Edition」がライセンスプログラムの1年メンテナンスで8万円、3年メンテナンスで10万9000円。「コストパフォーマンスが高いことでユーザー企業から評価を得ている」と自信をみせている。大企業の一部門やシステム管理者がいない中小企業が導入しており、「実は、ユーザー企業の多くはバックアップソフトを導入すると劇的な業務効率化につながることを意識していないケースが多い。ただ、データの重要性は理解されているので、製品が売れる環境は整っている」とみる。
データ保護だけではない試み クラウドストレージサービスをグローバルで提供しているオートノミーは、「Backup for PC」を主要な商材としている。ノートPCだけでなくiPadなどのタブレット端末やスマートフォンにも対応しており、どのデバイスからもデータにアクセスして、自動的にバックアップして同期を取る製品だ。ユーザー企業は、さまざまなデバイスに格納している数多くのデータを保護することができる。また、クラウドに対応したマネージドサービス「Autonomy LiveVault」でストレージとオンラインテクノロジーを組み合わせることでデータモニタリングを徹底し、ファイル、データベース、アプリケーション、Exchange Serverを含む企業の全サーバーの保護を劇的に簡素化している。オートノミーとの経営統合を果たした日本HPでは、「日々増大する端末やシステムのデータを、さまざまな環境で自動的に管理できる点で、両製品とも従来のバックアップの概念を覆した」(春木統括本部長)とアピールする。
日本クエスト・ソフトウェアは、レベニューシェア(利益分配型)を含めた柔軟なライセンス形態でクラウドサービスを提供。クラウドサービス提供事業者とのアライアンスの強化や、製品ラインアップの拡充も含めて販社が売りやすい体制を整えている。
クラウドを切り口に、メーカー各社はバックアップ関連ビジネスを次のステージへと進めているのだ。
【Theme 3】ディザスタリカバリ(DR)
●一か所だけでは不安
SMBでDRの動きが進む  |
シマンテック 石崎健一郎執行役員 |
大企業でディザスタリカバリ(DR)に取り組む動きは以前からあったが、オンプレミス型とクラウドを組み合わせたバックアップが進みつつあるなかで、SMBでもDRを意識する動きが現れている。クラウドでバックアップすることに加え、テープなどのメディアで遠隔地に移送するサービスを活用するケースも多くなってきた。また、メーカー各社は、バックアップソフトを導入すれば自動的にDRできることも訴求している。
シマンテックでは、「Backup Exec 2012」で簡単操作や仮想環境への対応をアピールし、「災害に際しての確実なバックアップ」を訴えている。テープなどを使って安全な遠隔地に移送する方法だ。ただ、人的リソースなどコストがかかるほか、管理方法が適切でない場合、同じテープを使い続けて磁気テープの劣化によるバックアップの失敗や、災害復旧時に正しいバックアップテープを即座に見つけることができずに復旧が遅れるなどの事態も起こり得る。そのため、「Backup Exec 2012」では、バックアップテープを効率よく管理・保管・運用する機能も搭載している。
日本CAでは、「CA ARCserve D2D」と「CA ARCserve Replication」の連係で遠隔地への効率的なレプリケーションを提案している。「CA ARCserve D2D」を使って継続的に増分バックアップし、わずかなデータ量だけを「CA ARCserve Replication」でレプリケーションするので、帯域幅が限られた環境でも利用できる。また、外付けHDDにレプリケーションすることも提案。10万円程度の予算で実施でき、サーバーが壊れた際に外付けHDDからデータが吸い出せるので人気を博しているようだ。
大企業によるDRは以前からもビジネスとして成立していた。しかし、拠点が少ないことから提案しても響かなかったSMBが、ここにきてDRの重要性を認め始めている。DRの新しいビジネスチャンスが到来している。
記者の目
バックアップは、それ自体が企業の利益に直接貢献するものではない。しかも、ユーザー企業にとってはサーバー1台を導入するごとにコストがかかるので、頭を悩ませている問題でもある。しかし、データを守ることの重要性をユーザー企業が認識し、今年に入ってからもバックアップのニーズは相変わらず旺盛だ。以前は、サーバーを提供する際に必要最低限の機能を搭載しただけのバックアップを提供するビジネスだったといえるが、今は単にバックアップソフトを提供するだけでなく、さまざまサービスや機能を生かして要望に応えることが案件につながるといえそうだ。
ベンダーにとっては、独自のサービスの創造やハードとソフトの組み合わせによるシステム提供、新しい提案などでバックアップ関連ビジネスが大きく変貌する可能性は高い。