世界規模で進む倍速開発  |
NTTデータ 山下徹社長 |
主要SIerの中期戦略の多くは、受託ソフト開発の見直しとクラウド型サービス事業、グローバル展開の三つの要素に包含される。
SIerにとって、受託ソフト開発を今すぐゼロにするのは現実的でない。かつての大規模ウォーターフォール型ソフト開発は格段に減っているが、中小規模で即応型のアジャイル方式による開発需要はむしろ増えている。情報サービス産業協会(JISA)の浜口友一会長は、要件定義と仕様ありきのウォーターフォール型ソフト開発の弊害を念頭に、「本来、SEの仕事はキングファイル50冊分にものぼる仕様書を書くことではなく、先進的な情報サービスを開発することにある」と、顧客の仕様に振り回される受託開発のあり方を見直し、世界水準に見合った先進的な開発を行うというSEやプログラマの本来業務の遂行に専念できる体制づくりを訴える。
NTTデータは、ソフト開発を迅速化し、コストを削減する「倍速開発」を重点施策の一つに挙げる。開発環境をクラウド化したり、世界中の拠点を活用したりして24時間体制で効率よく共同作業を行い、ソースコードを自動生成するなどの取り組みを強化。これまでの手づくりによる「ソフト開発にかかる時間の半減を目指す」(NTTデータの山下徹社長)というものだ。
実際、NTTデータでは、BPO(ビジネス・プロセスアウトソーシング)人員を含む開発人員を中国で約4000人、インドでは9000人余りに増やしている。欧州は南欧や中東地域、米州は中南米での開発拠点を増強している。現段階では欧米からのオフショア開発を積極的に受注するインドを除けば、アジアや欧米州の域内で開発するニアショアに近いものがあるが、世界で最も適した場所へソフト開発を移したり、先に挙げた24時間開発を適用していく方針だ。
ライバルはグローバル大手 ただでさえ大規模開発案件が減少しているなかで、コストや納期を半減させれば、結果的に売り上げボリュームも減りかねない。受託ソフト開発の受注量を積極的に増やしていくのが狙いではなく、むしろこの分野の売り上げを下げてでも競争力を高めていくことが、世界での勝ち残りにつながると捉えている。受託ソフト開発をやめるのではなく、市場の変化に合わせて最適化していくことで勝ち残る考えだ。
NTTデータが今年度(2013年3月期)から2016年3月期までの4か年中期経営計画で狙っているのは、IBM、Hewlett-Packard(HP)、富士通、Accentureに続く世界上位5位にランクインすること。目標とする世界トップベンダーはNTTデータがいうところの倍速開発の取り組みは、むしろ先行している。とりわけ世界最適開発の手法は、IBMとAccentureがリードしてきたといっても過言ではない。こうした強者を前にして、SIerにとって決して儲かりはしないものの、なくなることはない受託ソフト開発分野で競り合っていくには、抜本的なコスト削減と納期の短縮以外、勝つ方法はないとみられる。
とはいえ、これを突き詰めていくと「受託ソフト開発は単純にコストと納期だけの争いになる」(野村総合研究所の藤沼彰久会長)のは、目に見えている。そこで出てくるのがクラウドを軸としたサービス事業とグローバル対応である。
ITホールディングス(ITHD)の今期から2015年3月期までの3か年中期経営計画では、受託ソフト開発を含む既存事業の足場を固めながら、一方で業界標準ビジネスプラットフォームや海外事業の基盤拡充へと事業ドメインを急ピッチで広めていく。いわば、既存事業をしっかりと「守り」、同時に有望事業ドメインを意欲的に拡大する「攻め」を明確にする戦略だ。また、目指すべき事業像として、受託でカスタムアプリケーションを開発する旧来のSIer像ではなく、ユーザー企業の経営やIT戦略に深くコミットしていくビジネスパートナーとしての存在感を増していく方向性を明確に打ち出す。
ITHDは、伸ばすべき事業ドメイン、あるべき事業像に会社を近づけて、成長していくために中期経営期間中に200億円の投資枠を設定。「as One Company」をキーワードにグループ内の二大事業会社であるインテックとTISを軸としたグループ再編も視野に入れつつ、「積極果敢に取り組んでいく」(ITHDの岡本晋社長)構えだ。
守りと攻めを明確化  |
JBグループの石黒和義 シニアアドバイザー |
「守り」と「攻め」を明確化するのは、日本IBMのトップソリューションプロバイダであるJBCCホールディングス(JBグループ)も同じだ。既存ビジネスの効率化や生産性向上に取り組みつつ、同時にクラウドを軸としたサービスビジネスやグローバル対応を「攻め」の領域として位置づけている。
JBグループの場合、IBMグループが打ち出している主に公共分野の事業コンセプトの「SmarterPlanet」やシステム戦略の「PureSystems」にも深くコミットしていることが特徴として挙げられる。医療や官公庁、金融分野の業種ノウハウや情報連携やERPといったJBグループ独自のITソリューションを付加していくことで、JBグループならではの価値を生み出していく方針である。
日本IBM自身、世界各国のIBMグループとの一体化を進めており、JBグループはこれにリードするかたちで3年余り前から中国・ASEAN地域を中心としたグローバル進出に力を入れてきた。この9月には中国大連での地場有力SIerと組むかたちで、中国におけるクラウドサービスを立ち上げる。中国・ASEAN地域でのグローバル展開に際して重視するポイントが「IBMグループや地場有力SIerをはじめとするビジネスパートナーとの連携」(JBグループの石黒和義シニアアドバイザー)であり、このパートナーシップをベースとして、2014年3月期までの3か年中期経営計画中に、海外ビジネスを投資フェーズから収益回収フェーズへと転換していく考えを示している。
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