サービス事業で競争力を高める
ビジネスモデルの優位性が顕著に
有力SIerがこぞって力を入れるサービス事業は、ビジネスモデルの優位性が如実に現れる分野である。単純な業務請負では競争優位性は発揮しづらく、ユーザー企業の指示に唯々諾々と従う旧来型のビジネススタイルでは立ちいかない。では、有力SIerはどのようにサービス分野で競争力を高めようとしているのか。具体的な取り組みを追った。
より一段の差異化を図る  |
新日鉄ソリューションズ 宮辺裕常務取締役 |
今年5月、東京都内に最新鋭クラウドネイティブ対応の第3世代DC「第5DC」を竣工した新日鉄ソリューションズ(NSSOL)は、このDCを活用してユーザー企業の基幹業務システム運用に耐え得る信頼性の高いアウトソーシングサービスの提供で優位性を高めている。24時間、絶対に止まることが許されない製鉄所の大規模基幹業務システムの運用で培ってきたノウハウをベースに、長年にわたって多くのユーザー企業の基幹業務システムを預かってきた同社ならではのサービスで、これだけでも十分に差異化点にはなる。だが、価格やシステムの柔軟性との関係では、限界があった。
そこで打ち出したのが、基幹業務を主に担うプライベートクラウドと、Amazon Web Services(AWS)のような気軽に使えるパブリッククラウドの中間に位置する「メンバーシップ型クラウド」の活用である。すでに「absonne」の名称でメンバーシップクラウドのサービスは始めているが、第5DCでは、さらに踏み込んで、アウトソーシングサービスと「absonne」とのより密な連携を実現していく。この「次世代absonne」は、早ければ今夏にも順次スタートする予定で、「価格や柔軟性、信頼性のすべてをバランスさせる本邦初のチャレンジになる」(宮辺裕常務取締役)とアピールしながら、大型包括アウトソーシングサービスに耐え得るメンバーシップクラウドに仕上げると話す。
第3世代DCというだけならば、富士通グループやITホールディングスグループTISなど大手ベンダーが竣工しており、今年10月にはキヤノンMJアイティグループホールディングス(キヤノンMJ-ITHD)、11月には野村総合研究所(NRI)も第3世代DCを全面開業する。NSSOLはメンバーシップクラウドサービスの「absonne」を強化することで、より大規模な基幹業務システムの運用に耐えられるようにするとともに、既存システムとの連携を強化することで「より一段の差異化を図る」(宮辺常務)という考えを示す。
自社ならではの特色を出す  |
インフォコム 竹原教博社長 |
有力SIerのインフォコムは、主要事業ポートフォリオの「ネットビジネス」と「ITサービス」の両分野でサービス化を強力に推進していく。とくに同社のネットビジネスは電子書籍やアパレル商品のネット通販、ソーシャル関連などコンシューマを主要ターゲットとしているだけに、企業向け情報システムよりも迅速にサービス化に対応しなければ、ユーザーの動きに追いつけない。
例えばインフォコムがシェア第2位まで上り詰めてきた従来型携帯電話(ガラケー)向け電子書籍では、今、急速にスマートフォンへの移行が進んでいる。電子書籍に絡む新しいプラットフォームや規格も乱立し、出版社をはじめとする権利者の思惑も複雑に絡み合う。こうしたなか、スマートフォンをはじめとするスマートデバイス向け電子書籍市場は、2011年におよそ74億円だったのに対し、2015年には1600億円へと急拡大する見込みだとインフォコムではみている。ガラケー向け電子書籍の2011年の市場規模約572億円の3倍近く成長する計算になる。
インフォコムの竹原教博社長自身、数年前は30億円ほどしかなった同社のガラケー向け電子書籍サービスを100億円規模にまで拡大させてきた中心人物であり、「スマートデバイス向け電子書籍サービスではトップシェアを狙う」と鼻息を荒くしている。2017年3月期までの中期経営計画で、昨年度(2012年3月期)連結売上高の364億円から550億円への拡大を目指しており、将来はM&Aも含めて年商1000億円プレーヤーを目指す。成長の原動力にあるのは、インフォコムならではの特色あるサービス事業であることはいうまでもない。
市況が回復基調にあるとはいえ、伸びる中身は従来のものとはまるで異なる。思い切った戦略の転換や、新規事業ポートフォリオの果敢な開拓が求められている。
SIer50社の業績、回復基調に
電力不足が続けば懸念強まる
SIer主要50社の直近の業績をみると、全般的に回復基調にあることが読み取れる。とりわけ大手SIerの業績が着実に好転しており、2011年3月の東日本大震災や原発事故の発生、今も続く電力事情の悪化の影響は、少なくとも情報サービス業においては軽微だったといえる。だが、首都圏の電気料金値上げによるコスト増や、今後、長期的に電力供給力不足が続くことになれば、経済が停滞し、間接的に情報サービス業に悪影響を及ぼす恐れがある。
直近の通期決算でマイナス成長した大手をみると、まずはキヤノンマーケティングジャパンの2011年12月期の通期売上高が前年度比6.2%減と大きく落ち込んだ。SI部門が依然として厳しい状態であることに加え、昨年7月から3か月間続いたタイの洪水でサプライチェーンが乱れ、商戦期にプリンタなどの主力商材を十分に供給できなかったことが響いた。
富士ソフトは、電機業界の不振で主力の組み込みソフトが落ち込んだものの、単体ベースでは業務系システム開発などで踏ん張って増収を果たした。だが、主要グループ会社で一時的な売り上げ減があったために連結ベースでは減収に甘んじた。また、JBISホールディングスは今年3月、NTTデータの連結子会社となり上場廃止を予定していることから、今期業績見通しを行っていない。国内市場が成熟し、今後もこうした業界再編が続くものとみられる。