●参入障壁を段階的にクリア TISとチャイナ・キャッシュのケースは、オフショアソフト開発をベースとした他の多くのパートナーシップとは異なり、純粋にTISのITソリューション力とDC設備を評価したものだ。チャイナ・キャッシュの霍濤・副総裁は「当社のCDNとTISのSIerとしての総合力を組み合わせれば、双方のビジネスをさらに大きく伸ばせる」と、TISと組んだ理由を話す。同社は中国におけるCDN事業のシェア約53%を占める最大手で、中国中央電視台(CCTV)のネット映像配信など政府系メディアの配信実績があるだけでなく、中国を代表するミニブログやネット通販、ソーシャルメディアなど多くの有力顧客を抱えている。
日本ではあまりピンとこないかもしれないが、DC設備やメディア、通信は中国では規制がかなり厳しい。TISは、こうした参入障壁を地場のビジネスパートナーと密接に連携することで、一つひとつクリアしてきた。DCインフラとクラウド基盤の「飛翔雲」、大容量のコンテンツをほぼ遅延なしに送り届けるCDNへの接続を果たしたことで、中国のユーザー企業に大きく近づいたことになる。天津DCの顧客の多くは地場ユーザー企業が占め、今のペースで受注が進めば、ほぼ計画通り開業から5年で完売する見込みだ。すでに次のDCインフラやクラウド基盤について検討を始めるタイミングが近づいており、TISの中国ビジネスは次のステージへとシフトしようとしている。
中国は国内ベンダーの育成を非常に重視している。市場はオープンにしているものの、日系SIerをはじめとする外資が参入する場合、単独ではなく合弁や協業、提携にもとづくものであることが望まれている。幸い、中国には従来からのオフショアパートナーが数多くあり、大連のように日系BPOに適した地域もある。あるいは、チャイナ・キャッシュのように日本のSIerの技術力やソリューション力そのものを評価して提携に踏み出すベンダーも少なくない。日系SIerはこうしたパートナーと中国での特色あるビジネスモデルをいかにして構築、拡大していくかが求められている。

写真左からTISの宮下昌平・副本部長、藍汛網絡科技の霍濤・副総裁、TISの丸井崇・海外事業企画室長
中国との関係はより深く
市場と人材の両方を手に

大連軟件行業協会
李遠明会長 日本の情報サービスのアウトソーシング先は、これからも中国がメインであり続ける──。日本向けオフショアソフト開発やBPOを手がけるSIerの多くは確かな手応えを感じている。日系SIerが、例えばASEANや欧米市場で受注したSI案件は、もしかしたらインドに発注するケースが増えるかもしれないが、日本で発生する仕事は、日系SIerと同じ開発フレームワークやテスト工程を共有する中国SIerが圧倒的に受注に有利なポジションにあるとみるからだ。同じ漢字文化圏であるだけでなく、今後、もしコストが合わなくなったとしても、中国の内陸部など大都市圏から少し離れたところでもすぐれた人材を確保できると踏んでおり、彼らは実際、多拠点化を進めている。
品質面についても、中国の豊富な人材は強みになる。大連でBPO事業を手がけるNRI大連の高木重史総経理は、「一般的にシステムのテスト工程に時間と人手をかければかけるほど品質は高まる。今の日本では開発やテストのまとまった規模の人員を確保しにくく、それができる中国は実質的に最適だ」と話す。日本のオフショアやBPO発注先の中核拠点となっている大連地元業界団体の大連軟件行業協会の李遠明会長(大連百易軟件総裁)も「大連だけをみても、今後、発注量が減るとは考えにくい」と話す。
中国への発注量が増えれば、一方で日本の国内雇用を維持できなくなる危険性も孕む。しかし、中国で構築したDCや高度BPO、開発拠点は中国国内向けのビジネスにも応用が可能であり、地場のビジネスパートナーと密に協業しながら、中国でのビジネスを大きく伸ばしていけば、結果的に国内情報サービス業も縮小均衡に陥らずに済むといえるはずだ。