中国市場に進出している日系ITベンダーのビジネスが、新たなフェーズに入った。これまでの日系企業相手のビジネスから、いかに現地企業から案件を獲得するかという段階を迎えている。今年に入ってからは、とくに中堅SIerに成果が出始めている。

　電通国際情報サービスの子会社である上海電通信息服務有限公司（泉浩之中国区総裁）は、開発が進むショッピングセンターなど複合商業施設に着目し、中国の建設会社や自治体に対して、AR（拡張現実）をベースにしたシステムやサービスを提案している。これは、スマートフォンなどモバイル端末を使って、施設内に設置したアクセスポイントで来店者に情報や特典を提供するシステムだ。OSSベースのシステムとコンテンツをクラウドで提供することがキーポイントで、これによってコストを安く抑えている。泉中国区総裁は、「導入事例はまだないが、感触はいい」と自信をみせている。また、昨年から提供しているリース会社向け基幹システム「LAMP」でも現地企業の顧客開拓を進め、中国のリース協会とパートナーシップを深めている。その結果、「日を追うごとに案件が増えている」という。

　DTSの子会社である逓天斯（上海）軟件技術有限公司（高田政和総経理）では、購買と販売、在庫を統合管理するASPサービス「RIC'S」で、中国企業からの問い合わせが増えているという。迅速に導入できる点と初期投資が抑えられる点が好評のようだ。日系企業向けのSI事業を柱としている同社は、「われわれから現地企業に積極的にアプローチをかけることはしていない。しかし、問い合わせがあれば対応する」（高田総経理）というスタンスだ。それでも、今年後半から来年にかけて販売代理店を獲得し、現地企業を顧客として開拓する体制を整える。

　日系SIerによる現地企業相手のビジネスが活発化している要因は、二つある。一つは、ややネガティブだが、日本の大手メーカーの業績が芳しくなく、これまで日系SIerが顧客としてきた中国の支社・支店、工場が、IT投資を抑えていること。日系企業からの案件獲得が難しくなったことで、日系SIerの目は現地企業に向いている。

　もう一つの理由は、現地企業のITに対する投資が右肩上がりで伸びているということだ。大手企業はもちろんだが、最近ではとくにSMB（中堅・中小企業）のなかで、IT化による業務効率化や社内データ分析へのニーズが高まっている。競争が激しくなる中国市場で勝ち残っていくために、現地企業もIT化を進めている。そこで選択されるのが、日系SIerの品質の高さと、クラウドをはじめとする低コストのシステム・サービスなのだ。いま、中国の日系SIerには、ビジネスチャンスが訪れている。（佐相彰彦）