SIerが中国ビジネスを展開するうえでの“勝ちパターン”の一端がみえてきた。データセンター(DC)やビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)などのサービスビジネスによって、中国での収益可能性を見出す日系大手SIerが増えている。サービスビジネスは、日本の有力SIerが長年注力してきた分野であり、「中国の現地SIerに比べてアドバンテージがある」(中国に進出している大手SIer幹部)と、サービスを軸にビジネスを伸ばそうとする動きが顕在化している。(安藤章司)
サービス切り口に提携戦略を展開
サービスを軸に中国市場でのビジネスモデルの構築に挑むのは、日立情報システムズやJBCCホールディングス(JBグループ)、ITホールディングス(ITHD)グループのTISなどのSIerであり、キーテクノロジーとしてDCとBPO、運用監視サービスを前面に押し出す。中国の情報サービス市場の規模は、2010年1~12月期で前年度比34%増の1兆3364億元(約16兆7000億円)と勢いよく伸びている。その一方で、急激な成長に“サービス”が十分に追いついていない現状が垣間見られ、日系SIerはこの間隙を突くかたちで、サービスビジネスの売り込みを積極的に展開しているのだ。
中国広東省に本社を構える地元有力SIerの広東華智科技とBPO事業で合弁会社をこの6月から本格的に立ち上げた日立情報システムズは、「サービス領域で競争優位性を打ち出せる」(手島吉紀・中国事業推進本部主管技師長)と判断した。ソフト開発やSI、アウトソーシング、ハード販売など、国内では全方位でビジネスを展開する日立情報システムズだが、中国ではBPOやDCを活用したクラウドコンピューティングを優先する。
広東華智科技との合弁会社では、2013年までにBPOやシステム運用サービスで100社、クラウドサービスで2000社のユーザー獲得を目指す。
クラウドでは、主力の基幹業務ソフト「TENSUITE」の在庫数管理モジュールや、電子データ交換(EDI)の「REDISuite」を投入している。情報サービス市場の急成長で、中国各地に最新鋭のDC設備が次々に建設されているが、「BPOやシステム運用、クラウドサービスなどのサービス領域については、手が回り切れていない傾向がみられる」(手島技師長)と指摘する。同社は広東地区で同モデルを成功させた後は、上海や北京でも地場SIerと組んで同様のビジネスモデルを展開する準備を進めている。「早ければ今年度中にも横展開を実行したい」(同)と鼻息が荒い。
JBグループは、大連にシステム運用サービスを担うセンターを置き、北京と上海、広州の営業拠点をバックアップする体制を構築してきた。JBグループ上海拠点の森浩二・董事副総経理は、「中国に進出する日系ユーザーのなかには、基幹システムを中国にも置き、日中双方でシステムを稼働させたいというニーズが高まっている」と、中国地場のニーズだけでなく、日本からの引き合いも急増しているという。TISは天津に自前で約1200ラック規模のDCを開設しており、直近では中国の有力スパコンメーカーの曙光信息産業とクラウド分野で協業を進めるとともに、インテックなどITHDグループの総力を挙げてDCを活用したサービス販売に努めている。
サービスに注力する背景には、下請け的なスタイルのソフト開発やSIでは、中国の地場有力SIerに勝てない現実が横たわっている。自らサーバーなどを製造していないSIerは、もともと情報サービスが本分であり、なかでも競争優位性あるのが「DCまわりのビジネス」(日立情報システムズの手島技師長)と分析する。広東華智科技の梅傲寒総裁は、「日中のSIerが同質化してしまうのはよくない。DCを活用したサービスビジネスでは、日本は少なくとも10年は中国より進んでいる。この違いを生かしてビジネスを拡大すべき」と指摘。日中SIerが競合するのではなく、協業できる領域を見出し、双方ともに“勝ちパターン”を増やしていく必要に迫られている。

中国で地場SIerと協業したサービス網の展開イメージ
表層深層
中国市場でビジネスを伸ばそうとする日本と中国のSIerが協業するケースが急増している。これまでの取引は、日本からのオフショア開発が主流だった。ところが、リーマン・ショック以降、日本で内製化する比率が高まったことを受けて発注量が激減。一方で、中国の情報サービス市場は年率30%超の驚異的な成長を続けている。広東華智科技は、日本からの受注が売上高の約8割を占める典型的なオフショア開発会社だったが、「向こう2~3年で8割を中国地場で売り上げる」(梅傲寒総裁)と構成比の逆転を目指す。
実は、日本との取引が多い有力オフショア会社は、次々と中国地場ビジネスへと軸足を移そうとしているのだ。広東華智科技は日立情報システムズだけでなく、JBグループとも広東地区で協業して中国地場市場の開拓を急ぐ。JBグループは上海地区では聯迪恒星信息系統、大連地区では大連百易軟件とそれぞれ協業。ほかにも、杭州の有力SIerの杭州東忠科技は、富士ソフトグループのヴィンキュラムジャパンと流通分野協業し、第三者検証サービスなどでシーイーシーとも協業関係にある。
中国市場に詳しいSJIの李堅社長は、「オフショア開発会社の数は急速に減っている」と実情を語り、従来型の請負開発では経営が成り立たなくなっていると指摘する。それだけに、有力オフショア会社の危機感は強い。中国市場の開拓という共通の目標の下、日中双方のSIerが背水の陣で中国ビジネスの取り組むケースがさらに増える見込みだ。