地域全体で医療ITを活性化
ビッグデータ分析のニーズも
医療ITビジネスのキーワードは「地域医療ネットワーク」だ。ネットワークへの加入によって、医療事業者の経営が改善するなど具体的なインセンティブを示し、地域全体の医療・福祉の最適化を図っていくことが医療ITビジネスの活性化には欠かせない。ネットワークへの加入率が増えれば、結果的に電子カルテなど主要プロダクトの販売増にもつながり、ビッグデータ分析やスマートコミュニティビジネス創出の可能性も高まる。
●インセンティブを明確化 
JBCC
三星義明常務 医療ITビジネスで難しいのは、地域医療ネットワークなどで情報を共有して検査の重複を減らすことだけを目的とするなら、医療機関の収益減につながりかねないということだ。これでは、医療機関がITを導入するモチベーションを高めるのは難しい。収益を増やす方策を用意するか、あるいはレセコンのオンライン化のような法的な強制力が求められる。現時点では強制の可能性は薄いので、病院や診療所、介護施設などをネットワーク化することで収益が高まるBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)に訴えるのが近道とみられている。
JBCCはこうした現状を踏まえたうえで、医師会病院をはじめとする病院や診療所、介護施設などとの人的交流が大きい地域に着目した。先行して中四国地方の医師会病院を中心に営業活動を展開したところ、JBCCの電子カルテを中心とする地域医療ネットワークの商談が一気に活発化してきた。三星義明常務は、「地域の開業医の医師が医師会病院の医師を兼務しているケースが多いので、病院の電子カルテを自ら開業する診療所でも閲覧したいというニーズが高かった」と好調の背景を説明する。中国地方の病院と診療所を結んだ地域医療ネットワークシステムが今年10月にも本稼働する見込みで、「中四国地域を中心に、横展開に向けた商談が急ピッチで進んでいる」とほくほく顔だ。
診療所の開業医が交代で病院医師を務めるなどの人的交流が深ければ、自分が受け持つ患者の診療履歴や検査データ、レントゲン画像などのデータを共有したほうが、業務効率が高まる。JBCCでは、もう一歩踏み込んで、在宅医療や訪問・巡回医療で使うiPadなどのスマートデバイスへの対応も進めている。図3に示したように、医療は約8600の病院を中核として、これを支える約10万の診療所、関連施設として健診センターや介護施設がある。急性期は大病院が主に対応し、慢性期は療養型の中小病院や診療所が受け持つ構図があって、JBCCが着目する在宅医療も慢性期医療の一つである。
医療費抑制の観点からも、国は高価な設備の集合体である病院での入院日数を減らし、その分、地域の診療所や慢性期に対応した中小の医療施設、場合によっては介護施設、在宅療養などあらゆる可能性を探っている。患者が地域に分散することで、診療所の医師による訪問医療の機会が増え、こうした場合の有力な情報ツールがスマートデバイスというわけだ。JBCCでは自社の電子カルテをiPadなどでも閲覧できるよう準備を進めており、「電子カルテだけでなく、病院から地域の診療所に至るまでトータルでサポートしていく」(三星常務)と、地域全体を最適化するネットワークシステムの構築に意欲を示す。
●中立的ポジションを生かす 
NTTデータ
富田茂室長
三星義明常務 地域医療ネットワークに着目しているのは、SIer最大手のNTTデータも同様だ。同社は、電子カルテでこそコンピュータメーカーの富士通やNECに遅れをとったものの、地域医療ネットワークには業界に先駆けて取り組んできた。この一例が長崎地域医療連携ネットワークシステム「あじさいネットワーク」での成果である。医療情報の提供病院数16施設、診療所など情報閲覧可能施設151か所と大規模なものだ。通常は地域の中核病院が情報提供病院となり、同一地域の診療所が閲覧施設となる1対n型が多い。長崎地域では、複数の病院と複数の診療所が相互に接続するn対n型のもので、「地域医療連携システムの成功例」と評価されるまで進展してきた。
システムの構成は、富士通の地域医療連携システム「HumanBridge」とNECの地域医療連携システム「ID-Link」のそれぞれのユーザーを、NTTデータの地域医療連携システムでまとめ上げる構造になっている。NTTデータはメーカー色がなく、電子カルテで富士通やNECと競合するケースも少ないこともあって、マルチベンダーで相互に接続するサービスの提供者として、自らのニュートラルなポジションをうまく生かしたともいえる。地域医療ネットワークを予算面で支援する国の「地域医療再生基金」は2013年度までの5か年の予定で実施されていることもあって、「今期から来期にかけて商談に勢いがつく可能性もある」(富田茂・ヘルスケア事業部戦略企画室長)と、駆け込み需要に期待を寄せる。

キヤノンITS
メディカル
達脇正雄社長 キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)は、JBCCやNTTデータと同様、医療ITビジネスを“点”ではなく“面”で捉えるSIerである。グループ会社のキヤノンITSメディカルを中心に病院から診療所、健診センター、調剤薬局に至るまで幅広くシステム商材を販売してきた。昨年グループに迎え入れたエルクコーポレーションは、医療商材の販売力で定評がある。キヤノンMJは、今年11月1日付でエルクの社名を「キヤノンライフケアソリューションズ」に変更し、グループの相乗効果を一段と引き出しつつ、2015年には医療関連事業で600億円規模を売り上げる目標を掲げる。
キヤノンITSメディカルは、日本IBMや富士通など大手コンピュータメーカーの商材を扱いつつ「意識的に医療分野でのビジネスカバー範囲を広げてきた」(達脇正雄社長)という経緯がある。医療用途を含む光学機器に強いキヤノングループではあるものの、電子カルテなどでは大手コンピュータメーカーと互角に争える状況にはない。システムや関連機器の単品販売ではビジネスの優位性が打ち出しにくいことから、地域医療ネットワーク関連ビジネスも視野に入れながら、次のフェーズの医療ITビジネスを虎視眈々と狙う。今年10月には待望の自社大型データセンター(DC)も都内に竣工する予定で、ITインフラ面でも整備が進む見通しだ。
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