●スマートコミュニティをつくる 
富士通
佐藤秀暢SVP 電子カルテでトップシェアを獲得している富士通は、「次世代の医療ITビジネスで主眼に置くのはビッグデータの効果的な活用」(佐藤秀暢・ヘルスケア・文教システム事業本部SVP)だという。地域医療ネットワークは、本来、病院と診療所、介護施設のスムーズな連携によって、限られた医療費を有効に使い、同時に医療の質を高めていくことを目的としている。しかし、ここで蓄積した地域内の医療情報を、例えば行政の統計分析や医療・福祉政策、大学などの研究機関、新薬開発に取り組む製薬会社などが活用すれば、国の「日本再生戦略」で示された医療・福祉分野における新市場の創出に役立つ可能性が高い。こうした考えはスマートコミュニティづくりにも合致する。
ある地域で流行性感冒や特定物質によるアレルギーが流行ったとする。診療所や病院が情報システム的な面で分断されたかつての状態であれば、地域が一丸となってこうした脅威を押さえ込む体制を築くには相当の時間がかかった。もし、地域医療ネットワークに集まる診療データを活用できるようになれば、ほぼリアルタイムに事態の推移を把握することが可能になる。例えば、今後数十年にわたって警戒が必要な原発事故の健康への影響を、広域を網羅しながらリアルタイムで監視することも可能になる。

NEC
山田達也
事業部長代理 現時点では、地域医療ネットワークそのものの普及率について、ネットワーク構築で先端を行くNECの山田達也・医療ソリューション事業部長代理が「情報を公開する側となる中核病院全体の1割程度」とみているように、ビッグデータの解析まではまだ一定のギャップがあるといわざるを得ない。見方を変えれば、これからが市場の拡大期に入るとビジネスチャンスとも捉えられるものの、情報活用の面でプライバシーへの配慮をどうするのかとか、誰がどのような権限で、どこまで閲覧・分析できるのかなどのガイドラインの整備はまだこれからの課題である。
図4では医療IT市場の推移と今後の見通しを示した。市場は堅調に拡大する見込みで、医療・福祉関連の情報システムの売上高合算値は、2011年に5596億円であるのに対し、2013年には11年比で7.4%増の6012億円へ拡大する見通しだ。
順当にIT投資を引き出すには、地域医療ネットワークやスマートコミュニティへの取り組みが密接に関連する。情報サービス業界としても医療福祉機関や国への積極的な働きかけ、法整備やガイドラインなどの環境づくりを推進していく必要がありそうだ。
【epilogue】
変革期にある医療IT市場
勢力図塗り替える可能性
「電子カルテやレセコン市場は、すでにレッドオーシャン(競争の激しい既存市場)に近い」と、大手SIer幹部はみる。医療IT市場は底堅いものがあるものの、一方で従来のスタンドアロン的な売り方はもはや通用しないと捉えているのだ。この分野は、伝統的に富士通やNEC、日立、東芝といったメーカーが強く、新規参入のハードルは高い。しかし、例えば地域医療ネットワークがビッグデータやスマートコミュニティといった新しいビジネススタイルにつながるものと受け止めれば、限りなく未開拓のブルーオーシャンに近いものがある。NTTデータやJBCC、キヤノンMJグループなどのSIerは、こうした将来像を見据えたうえで、メーカーの牙城の切り崩しを狙う。変革期に差しかかる医療IT市場は、ベンダーの勢力図を塗り替える可能性がある。