クラウド型オンラインストレージサービスが充実してきており、個人を中心に利用者が増えている。その一方で、法人市場でのニーズは果たして高まっているのか。また、サーバーやストレージ機器などシステムを構築するオンプレミス型を導入する企業が多い状況にあって、台頭著しいクラウド型は従来のオンプレミス型に取って代わるものなのか。オンプレミス型とクラウド型、それぞれの役割を検証して、ITベンダーにとっての最適なビジネスを探った。(取材・文/佐相彰彦)
個人向けを上回って市場は急拡大
「保存」「共有」がキーワード
●2015年には1220億円の市場規模
原健二原健二主任研究員主任研究員 調査会社のシード・プランニングによれば、2010年のオンラインストレージ市場規模は370億円になったという。内訳は、法人向けが140億円で個人向けが230億円。これは、個人ユーザーが無料サービスを利用し始めてメリットを認識し、保存するデータ量を増やすことができる有料サービスを利用するようになったことが要因という。スマートフォンで撮影した画像データの保存先として利用するなど、気軽に利用できることからサービスが普及した。この流れは、スマートフォンの需要拡大とともに、今後も速度を増していくだろう。
加えて、昨年の東日本大震災をきっかけとして、法人の利用も増大した。シード・プランニングでは、2012年の市場規模を全体で900億円と予測する。内訳は、法人向けが510億円、個人向けが390億円と見込んでいる。原健二・リサーチ&コンサルティング部エレクトロニクス・ITチーム2Gリーダ主任研究員は、「東日本大震災で重要なデータを失った企業が少なくない。そこで多くの企業は、DR(ディザスタリカバリ)に直結する『保存』という観点でオンラインストレージを使うようになった」とみている。保存にはバックアップソフトを購入する方法もあるが、サーバーやストレージなどを購入して新たにシステムを構築する必要があって、時間とコストがかかる。その点、オンラインストレージであれば気軽に導入して、即座に利用することができる。
とくに法人の場合は、セキュリティ面で信頼性と安全性の高いサービスを利用したいというニーズがある。そのため、原主任研究員は「無料サービスではなく、有料サービスを利用するケースが多い」という。できるだけ安価なサービスというよりも、セキュリティ機能が充実したサービスを選択することから、法人向け市場の規模が拡大する、とシード・プランニングでは捉えている。
市場は、今年以降も年率20~30%増で拡大。シード・プランニングでは、2015年に全体で1800億円の規模に達すると予測している。そのうち法人向けは1220億円を見込んでいる。
●ビジネスモデルの確立はこれから 2015年には市場規模が1800億円に拡大すると予測するシード・プランニングだが、原主任研究員は、「クラウド上にデータを保存するのが安全だということを頭で理解していても、なかなか利用に踏み切れないでいる企業も多いのではないか」と分析している。そのため、市場が拡大するもう一つの要因として、データをやり取りして情報を共有するためにオンラインストレージを利用するという用途を挙げている。社内の組織間やプロジェクト単位、遠隔の拠点、取引先との共有などだ。この用途でも、新たにシステムを構築するのは時間や手間がかかることから、手軽なオンラインストレージを利用するケースが増えるとみる。とくに、「取引先とのデータのやり取りでは、セキュリティが強固でなければならないと考える企業が多く、料金が安いことよりも安全面を重視してサービスを選択する傾向がある」とみている。
また、スマートフォンやタブレット端末などのモバイルデバイスをビジネスで利用することが多くなったことも、法人向けオンラインストレージが伸びる要因という。オンラインストレージであれば、クラウド上に保存してあるデータを外出先で利用したり、モバイルデバイスからクラウド上にデータをアップして共有したりすることができる。原主任研究員は、「企業がモバイルデバイスを使う要素として、オンラインストレージとの組み合わせは用途に適している」とみる。
さらに、他の機器との連携もオンラインストレージ需要が増える要素になるという。原主任研究員は、「例えば、ビデオ会議システムとの連携で、会議や打ち合わせを行っている際にクラウド上からデータを引き出して共有したり更新したりすることは、ごく普通になるのではないか。また、コミュニケーションを業務に生かすという点で、会議の内容を音声やデータでクラウド上に保存できるようになれば、さらに需要は大きくなるだろう」という。
オンラインストレージの用途が多様化し、需要が増えることを考えれば、ITベンダーにとってビジネスチャンスの可能性があるということになる。とはいえ、主流のビジネスモデルについては、「現段階ではまだ定まっていないようだ。最適なビジネスモデルの確立はこれから」と、原主任研究員はみている。現状は、オンラインストレージをビジネスとして手がけるITベンダーが、さまざまな角度で需要を掘り起こしている段階にある。
次項からは、SIer、通信キャリア、ストレージ機器メーカーの、とくにSMB(中堅・中小企業)をユーザー企業として獲得する可能性が高い、オンラインストレージを絡めたビジネスモデルを紹介する。
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