ITコーディネータ(ITC)の活動が変わりつつある。中小企業のウェブ活用支援が注目を集めるとともに、サポートの形態も多様化してきた。直接支援だけでなく、講座やセミナーでウェブ活用をレクチャーするなどの動きが活発になっている。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
「ITコーディネータ(ITC)」とは
「IT」を「企業経営」にコーディネート(調整)するスキルをもっており、とくにITの活用ノウハウに乏しい中小企業を支援するエキスパートをいう。ITコーディネータ(ITC)を認定する資格制度がスタートしたのは2001年。当時の通商産業省によって設けられた。現在は、経済産業省が引き継いで推進している。ITCは、企業に在籍しながら活動する企業内ITCと、独立して外部アドバイザーとして企業を支援する専門家に大別される。
ITCをサポートする団体として、特定非営利活動法人「ITコーディネータ協会(ITCA)」がある。ITCAは、ITCの資質向上を目的として、人材育成や研究開発、啓発活動などを展開している。毎年、全国のITCが集まって情報交換を行う「ITC Conference」を東京で開催する。
ITCAによると、2012年3月時点で、資格を取得し、活動しているITCは全国で6337人。その大半(61.3%)は、東京を中心とする関東地区を地盤としている。2番目に多いのは近畿(12.9%)。一方、最も少ないのは北海道と四国となっている(いずれも1.9%)。詳細については、図1を参照。
ウェブを活用して企業を活性化
斬新な支援で存在感を高める
本紙は、
連載「IT経営の真髄」で、毎号、全国のITCの活動ぶりをレポートしている。今年に入って、ITCの活動に新たなトレンドが生まれてきていることが、取材を通じて明らかになった。「ウェブと美容院を紐づける」をはじめ「SEO対策でお客様を増やす」「データ活用を視野に入れる」──今年掲載した記事の見出しが語るように、ITCは、ユーザー企業の販売拡大をサポートするために、積極的にウェブを活用する動きがみられるようになっている。
●イノベーションを支援 
ITコーディネータ協会
播磨崇会長 これまでのITCによる企業支援といえば、Excelなどで顧客情報をデジタル化してシステム上で管理したり、オフィスの基幹システムや工場内の生産管理システムを刷新するというものが主流だった。つまり、ITを使って、業務の効率化やコスト削減を図るといった支援活動がメインだったのだ。しかし、ここ数年、ITの進化やグローバル化によって、中小企業を取り巻く環境は大きく変化している。中小企業は、業務の効率化だけではなく、自ら動いて新しい市場や販路を開拓することを迫られるようになってきた。そのための最適なツールがウェブである。
そうした時勢の変化を読み、ウェブ活用のスキルを磨いてきたITCのグループが現れている。「新時代ITC」たちだ。彼らは、企業のホームページ開設を支援するだけでなく、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアを生かすことによって、中小企業を活性化させる。年齢は30歳代前後と、若手が多い(もちろん、例外もあるが)。40~50歳代が約70%を占めている全ITCのなかでは少数派だが、企業支援で迅速に成果を上げて、存在感を高めている。
8月に開催された「ITC Conference 2012」のテーマは、「ITコーディネータ新時代」だった。クラウドやモバイル、ソーシャルメディアの普及が、この“新時代”というテーマにつながった。ITコーディネータ協会の播磨崇会長は、参加した数百人のITCに熱いメッセージを送った。「中小企業は、新しいITツールを活用してビジネスのイノベーションを実現することが求められている。そして、イノベーションの実現を支援するのは、ITCの役割だ」。新時代だからこそ、ITCの役割が重要性を増していることを強調した。
播磨会長のメッセージの裏には、旧来の企業サポートのあり方にしがみついて、新時代に対応するためのスキルをなかなか身につけようとしないITCが多い──という危機感があるように聞こえた。これからは、独立系ITCは、時代の変化に対応しなければ、仕事を獲得することが難しくなるに違いない。ITコーディネータ協会にとって喫緊の課題だ。播磨会長は、人材育成やITC同士のネットワークの強化によって、課題の解決に取り組んでいくという。
[次のページ]