簡単ツールの活用方法をアドバイス
個別支援だけでなく、セミナー講師も
ここからは、「ウェブの活用」をキーワードに掲げ、企業を斬新なかたちで支援するITCの活動ぶりをレポートし、時代が求めるITCの姿についてのヒントを探る。

小林邦人
ITC 調布市東つつじヶ丘の老舗ケーキ屋、「ウイスタリア洋菓子店」。今年に入って、ITCの小林邦人氏とともに、ホームページを刷新した。季節ごとに変わるケーキの写真や説明文を迅速に掲載することができるよう、コンテンツを更新しやすい仕組みをつくった。ウェブを通じて、ケーキを広いエリアのお客様にアピールし、ネットショップで注文を受けたケーキを全国各地に配送している。
ウイスタリア洋菓子店は、IT活用に関して、多くの中小企業と同じような課題を抱えていた。IT専門の担当者がいないので、IT活用に必要な知識や時間が限られる。さらに、予算の制限もある。そうした状況にあって、ウイスタリア洋菓子店を支援した小林ITCは、ホームページ制作の無償ツールを利用して、この分野に比較的明るい近藤綾子マネージャーに、写真の撮り方、キャッチコピーや商品の説明文の書き方についてアドバイスした。ITの導入を支援するだけでなく、導入後の活用に関してもバックアップしたわけだ。
ウイスタリア洋菓子店で、小林ITCと一緒に実現したウェブ活用は、予想以上の効果を発揮している。近藤マネージャーは、「ホームページを見て、注文するお客様が確実に増えている」と、顔をほころばせる。ウイスタリア洋菓子店は、ITCの支援を受けて経営改善を果たした一例だ。ITCが複雑なシステムの導入を勧めるのではなく、簡単なツールを使って、活用について実現しやすいアドバイスを行ったことが成果に結びついている。
●ネットショップで売上高が6倍に 
小池洋己
ITC カーリーズバーリーは、ヘアケア用品や化粧品を製造し、理美容院などに販売している。ITCの小池洋己氏の力を借りて、ウェブと美容院を紐づける販売の仕組みをつくっている。
その仕組みとは──。美容院が店頭でカーリーズバーリーの製品を顧客に勧める。顧客が美容師の勧めた製品をカーリーズバーリーのネットショップで購入すると、価格の5%をポイントに換算して、美容院に還元する。美容院の在庫リスクを減らすとともに、ネットショップの利用を促す仕組みだ。
ネットショップの開発は、システムの要件定義から設計、コーディングまでを小池ITCが手がけた。ネットショップは、カーリーズバーリーのニーズに合わせてゼロからつくった仕組みなので、開発にそれなりの投資が必要だった。しかし、「このシステムのおかげで、この1年でネットショップからの売り上げが6倍に膨らんだ」(安藤準取締役)というように、投資は短期間で回収できたそうだ。
ウェブ活用を得意とするITCたちは、人的ネットワークづくりを重視し、ITC同士でつながっていることが多い。一匹狼のような動きをする従来のITCとは大きく異なる点だ。例えば、ウイスタリア洋菓子店を支援した小林ITCは、湘南地区を活動の中心とする小菅康浩ITCとパイプを太くしている。両氏はともに、この夏に神奈川県の茅ヶ崎商工会議所が開催した中小企業向けホームページ制作講座の講師を務めた。企業の個別支援に加え、講座やセミナーの講師としての活動に力を入れている。
ホームページ制作講座では、茅ヶ崎の中小企業約30社を対象に、販路開拓や売上拡大につなげるホームページづくりの基本をレクチャーした。無償のウェブサイト制作ツール「みんなのビジネスオンライン(みんビズ)」を使い、企業の強みを分析してウェブで訴えるというITCならではの視点から、「みんビズ」の活用方法を教えた。
そして、新時代ITCのもう一つの共通点は、ホームページだけでなく、ソーシャルメディアの活用にも積極的であることだ。
小菅ITCは、藤沢市にある母子向けコミュニティカフェ「mama's cafe joy」を運営するmama life support joyの山田綾子代表を支援するにあたって、FacebookやTwitterを積極的に取り入れた。
「mama's cafe joy」は、母親たちが子どもを連れて、他の親子と交流しながらくつろぐことができる場所の提供を目指している。地域産の材料を使った食事メニューを用意したり、イベントを開催するなどの施策を講じて、来店客を増やすことに取り組んでいる。メニューやイベントの最新情報を発信するために、ソーシャルメディアの利用を検討しているところだ。
●SIerの新たな商機 
小菅康浩
ITC 小菅ITCの役割は、ソーシャルメディアの利用をいかにビジネスにつなげるかについてのアドバイスを行うことにある。同氏は、「FacebookやTwitterは、お客様がどのようなニーズを抱えていて、どう行動するかを想定したうえで、投稿することがポイント。需要を掘り起こして購買意欲を高めることを重視している」と語る。
ITCのなかで、ウェブ活用の支援に注力しているグループが現れていることは、中小企業をターゲットにしているシステムインテグレータ(SIer)にとっても、興味深い動きだろう。企業は、ITCのサポートによって、ウェブ活用の可能性を認識し、さらに本格的にウェブ活用に取り組むために、新たなITツールを導入する。そういう可能性が、十分にあると考えられる。ITC活動の延長として、SIerがソリューションを提案するチャンスが生まれてくるわけだ。
例えば、冒頭のウイスタリア洋菓子店。近藤マネージャーは、ホームページ/ソーシャルメディア活用の次のステップとして、現在は紙ベースで管理している顧客情報をデータベース化する。情報の分析によって、顧客のニーズを正確に把握し、ホームページづくりやソーシャルメディアへの投稿などに生かしている。
中小企業は、顧客拡大やサービス改善のため、データ解析に対する需要が高まっている。そうしたなかで、SIerは、ITC活動に連動するかたちで、中小企業にとって導入しやすいデータ解析ソリューションを提案することによって、新たな商機をつかむことができそうだ。
相談窓口でITCの腕を磨く
事例を蓄積して次の仕事に生かす
ITCの支援活動が変わっているなかで、サポートの形態も多様化している。とくに、企業にウェブ活用についてアドバイスをするために、個別支援だけではなく、セミナーや講座、相談窓口のかたちでサポートするやり方が効果を発揮しやすい。短時間で多くの企業を支援することができ、企業にとってサポートを受けるハードルを引き下げることができるからだ。
東京都中小企業振興公社は、都内の中小規模事業者を対象に、無償の「ワンストップ総合相談窓口」を設けている。ITCをはじめ、中小企業診断士や弁護士、税理士など、あらゆる分野の専門家が日替わりで相談に応じるという仕組みだ。
ITCの一人として、起業家のためのビジネスプランや販路開拓の支援を行う岩岡博徳氏は「ワンストップ総合相談窓口」に参加している。岩岡ITCのアドバイスを求めて窓口を訪れるのは、「ネットショップを立ち上げたい」とか、「オンラインの会社案内をつくりたい」という、ウェブ活用を検討している企業が多い。また、従来のソフトウェア受託開発からサービスのビジネスに舵を切りたいと考え、ビジネスプランの立ち上げについて岩岡ITCにアドバイスを求める中小ITベンダーもいるそうだ。
窓口相談の原則は、最後に何らかの結論を出すこと。岩岡ITCは、「短時間の相談で可能な限り、必ず課題の解決案を提示する。ユーザー企業がすぐにビジネスに生かすことができるアドバイスをするように努めている」という。
こうした窓口相談は、岩岡氏のITCとしての腕の見せどころだ。それと同時に、スキルをさらに磨くことができる場でもある。「相談窓口での活動を通じて、さまざまな企業の関係者と出会い、彼らはどういう経営課題を抱えたり、ITに関して何を求めているかを把握することができる。自分のなかであらゆる事例が蓄積され、次の仕事に活用することができる」と、岩岡ITCは研鑽を怠らない。

窓口で相談に応じる岩岡博徳ITC
記者の眼
この特集では、ウェブ活用を強みとするITCにスポットをあてて、彼らの活動ぶりをレポートした。現状は、まだ基幹システムの刷新などについて企業を支援する「従来型ITC」が多い。基幹システムの刷新は、ITCの本来の役割であって、需要は途絶えないと思われる。ただし、今後はシステム刷新の支援に関しても、クラウドやモバイル、ソーシャルメディアの活用が必要不可欠になる。ITCには、時代の変化に応じた支援活動を展開することが求められている。