●【パートナーの声】
一攫千金を狙えるわけではない
「あくまでもワン・オブ・ゼム」 企業向けアプリストアは、コンシューマの世界のように“一攫千金”を狙えるマーケットプレースではない。SAPのモバイルアプリ開発パートナーの1社であるクニエの場合、「SAP Store」でモバイルアプリを販売することについて、提案の一つのきっかけと位置づけている。「掲載したからといって爆発的に売れることは期待していない」(海野晋也・エンタープライズソリューショングループマネージャー)。
在庫ステータス・製品情報を参照する「QUNIE SalesSupport」と、受注・出荷・請求・入金ステータスを追跡/チェックする「QUNIE OrderChaser」という二つのアプリを開発した。ユーザー企業の営業担当者は、オンライン/オフラインでSAP ERPのデータを確認することができる。検索パターンが登録できるので、毎回の作業の手間を減らせる。日本国内のほか、海外に進出する日系企業への販売を推進している。今年の目標は4件の導入で、すでに2件受注した。自動車メーカーからは「SalesSupport」の1500ユーザーを受注したという。
東洋ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)の立木勲・ソリューション営業統括本部第2営業本部営業2部副部長は、「当社のモバイルアプリは、あくまでもワン・オブ・ゼムでしかない。SAPのモバイルアプリやカスタムアプリを組み合わせて提供する」と話す。
B-EN-Gは、機器メンテナンスにおける現場担当者業務を支援する「Mobile for フィールドサービス」を開発した。SAP CRMなどからの作業指示をiPadに取り込めるほか、iPadに入力した作業実績をSAP CRMなどに連携することができる。主な販売対象は大手製造業で、基本的にはSAPやオラクルのシステムを導入していることが前提だ。今年度3件の導入を目指している。

クニエが提供する「QUNIE SalesSupport」
●企業内アプリストアで資産管理を支援 企業内で利用されるアプリの種類が多様化するなかで、アプリやデータセキュリティの管理をはじめ、アプリ配布、デバイス管理などが求められている。
調査会社の米ガートナーは、「一部のベンダーがストアの対象を指定のデバイスとアプリタイプに制限することで、企業は複数のストアを利用し、複数の支払いプロセスを経て、複数のライセンス条件を遵守しなければならないという、複雑なアプリストア環境に直面することになる」と指摘。2014年までに多くの企業が企業内アプリストアを構築することになるとみている。
企業内アプリストアを構築できる製品の一つとして、エンバカデロ・テクノロジーズが販売する「AppWave」がある。
PCアプリ向けのアプリストアで、Windowsアプリをオンデマンドでストリーミング配信するのが特徴だ。具体的には、アプリの10~20%をダウンロードするだけで起動できて、残りのプログラムコンテンツは必要に応じてバックグラウンドでストリーミング配信する。アプリは、ユーザーのPCにキャッシュされてローカル環境でネイティブ実行される。
エンバカデロは、「AppWave」を無料で開始できる評価版を用意しており、無料で利用できる数百タイトルのアプリをあらかじめ登録している。まずは無料で使い勝手を試したうえで、社内で保有するアプリを管理することができるわけだ。藤井等カントリーマネージャーは、「モバイルデバイスの使いやすさとアプリストアの使い勝手を、PCでも実現したいというニーズが高まっている」とみている。現在は、Windowsプラットフォームのみに対応しているが、マルチプラットフォーム対応を進める方針だ。
シマンテックの「Symantec App Center」は、モバイル上のアプリやコンテンツを「ラッピングする(包み込む)」ことで、アプリケーションやコンテンツに含まれる情報に対し、それぞれの重要度に見合ったポリシーを適用する。
「Symantec App Center」をはじめ、「MobileIron」などの製品を取り扱っているソフトバンクBBの北澤英之・C&S本部MD第一統括部モバイルビジネスマーケティング部部長は、「まだ事例は少ないが、個別に企業内でアプリストアを構築するニーズが増えてくるだろう」と期待する。ただし、「まだ売り方が定まっていない」という状況だ。管理コストがむしろ高くなるという声もあるという。
●記者の眼
企業向けの独自シナリオが欠かせない 業務アプリは、ToDo管理やタスク管理などの汎用的なツールでなければ、業務・業種に応じて利用者と用途が限定されるので、大量に売れるわけではない。そして多くの場合、アプリを購入した後にSIなどの作業が伴うので、ベンダーの力を借りることになる。クニエやB-EN-Gは、アプリを「AppStore」で無償提供しており、アプリストアは間口を広げるものと捉えている。アプリそのものではなく、他システムとの連携やコンサルティングサービスで収益を上げる算段だ。
先行する「AppExchange」ではどうか。米セールスフォースから出資を受けているパートナーであるチームスピリットの場合は、「AppExchange」経由のトライアルはほとんどない状況で、自社独自のウェブサイト経由での問い合わせが全体の70~80%を占める。荻島浩司代表取締役は、「『AppExchange』はもっと効果的にプロモーションなどに使えるものになればうれしい」という。
企業向けアプリストアは、コンシューマ向けのそれとは大きく異なる。商機に乏しいというよりも、別のシナリオを用意しなくてはならないからだ。
ベンダーは、新しい潮流に対応した事業の展開に乗り出そうとしている。
「アプリストアは今後あたりまえになるだろう。『SAP Store』に掲載していなければ、むしろマイナスになるかもしれない」と、B-EN-Gの立木副部長は期待を込めて話す。クニエの海野マネージャーも「日本ではまだ規模が小さいが、大きく伸びるはず」と前向きに評価している。