需要高まる業種特化型の解析ツール
スマートデバイスの普及が追い風に
データ解析ツールは、大手ベンダーが展開する大がかりなソリューションだけではない。特定の業種のニーズに絞り込んで、導入しやすさを重視する中堅・中小規模ITベンダーのツールは、導入が進んでいる。ここでは、小売業界と医療業界に向けたツールにスポットを当てて、活用の可能性を探る。
クリスマスシーズンに活気をみせている各地のショッピングセンター。しかし、すべてが順調なわけではない。とくに地方のショッピングセンターは、ここ数年、客足が減ってきている。ショッピングセンターを運営する事業者は、設備やサービスの改善策に頭を悩ませている。
「2007年以降、全国でショッピングセンターの売り上げは横ばいで推移している。そんな状況にあって、お客様の購買パターンを分析し、それに適したかたちで、フロアのレイアウトをつくり直して売り上げの拡大を図る運営者が増えている」と語るのは、全国約500のショッピングセンターに顧客分析システムを納入しているリゾームの金藤純子専務取締役だ。
●購買パターンを見える化 
リゾーム
金藤純子専務取締役 リゾームの顧客分析システムは、ショッピングセンターにテナントとして入居している店舗個々の業績を日別や週別で見える化するほか、ポイントカードのデータを利用して来店客の年齢や属性、どの順番でどのような商品を購入したかなどを分析するもの。分析結果にもとづいて、今後の売上動向や購買行為について仮説を立て、運営者やテナントが迅速に商品の品揃えや売り場づくりの対策を打つようにする。
金藤専務は、「分析結果を店舗別に表示するので、フロア全体で売り上げが減っていて大幅なテコ入れが必要なのか、それとも、一部を改善すれば済むのかといったことが判断しやすくなる」と述べる。
リゾームは、顧客分析システムを直販50%、間接販売50%と半々の割合で販売している。間接販売を手がけるのは、東芝テックなど、ショッピングセンター向けのシステムを構築する大手ベンダーが中心となっている。ビッグデータ事業の本格化に取り組んでいるSIerは、リゾームの顧客分析システムをコンポーネントの一つとして、ショッピングセンター運営者に提案している。
このところのスマートデバイスの普及は、データ解析ツールにとって追い風となっている。スマートデバイスを活用すれば、例えば、ショッピングセンターの運営側が分析結果を見るにとどまらず、情報をリアルタイムで各店舗に送り、販売現場と共有することが可能になる。リゾームは、顧客分析システムや経営分析システムの集計結果をスマートデバイスで閲覧することができるグループウェアも提供しており、これを新規の有望商材として、事業の拡大を目指している。
●病院での薬剤の使用実態を集計 
MDV
福島常浩取締役 小売業だけでなく、医療分野もデータ解析・活用のニーズが旺盛な業界である。医療機関向けのシステム開発を手がけるメディカル・データ・ビジョン(MDV)は、今年8月に、診療データ分析システム「MDV analyzer」を発売した。病院での薬剤の使用を中心とする診療情報をデータベース化して、グラフで表示するツールだ。
「MDV analyzer」のターゲットは、製薬会社だ。MDVの福島常浩取締役は、「製薬会社は、これまで薬剤の流通については把握してきた。しかし、病院でどのような疾患に薬剤がどのように処方され、どんな効果があったかについては、データを集計・分析するツールがなかったので把握することができなかった」と、開発の背景を語る。同社は「MDV analyzer」を直販で提供しており、このツールを製品開発に生かそうとする製薬会社5社が導入している。今後、「製薬会社の上位20社に納入したい」(福島取締役)と、目標を高く設定している。
MDVは、もともと病院向けのDPC(医療費の包括請求)分析システムを提供しており、全国で656病院に納入している。「MDV analyzer」を開発するにあたって、取引先である125病院から匿名化したデータを提供してもらい、米国のベンチャー企業が開発している高速処理ソフトウェアを採用して集計する、という仕組みを実現した。
福島取締役は、「当社は、DPCシステムの提供により、長年にわたって病院との信頼関係を築いてきた。だからこそ、今回、病院にデータを提供してもらい、『MDV analyzer』を実現することができた」と、参入障壁が高いことを説明する。
●データ解析を生かすのはヒト 
NTTコムチェオ
小林洋子社長 あらゆる業種に特化したデータ解析ツールが普及するにつれ、それらを利用して現場でのデータ活用に携わる「ヒト」の役割が重要になってきている。
そうしたなか、NTTコミュニケーションズの子会社で、ICT人材派遣事業のNTTコムチェオは、ヒトを“商材”とする事業展開の拡大に取り組んでいる。現在、新しいビジネス分野として注力するのは、Twitterなどのソーシャルメディアを活用するセールスプロモーションだ。
同社は、インターネット検定「.com Master」の合格者で、電話サポートや訪問設定サポートを手がける在宅スタッフを約1900人抱えている。親会社のNTTコミュニケーションズから、無償サービス「OCN家計簿」のプロモーション施策の案件を受注し、在宅スタッフを活用するかたちで、Twitterユーザー向けのキャンペーンを実施した。
キャンペーンでは、特設サイトをTwitterと連動し、Twitterユーザーを「OCN家計簿」の公式サイトに誘導。在宅スタッフは、ユーザーに節約を促すツィート(つぶやき)を送ったり、ユーザーが投稿するコメントを監視したりする(図2)。つまり、Twitter上でやり取りされる大量の情報をモデレータとして管理したわけだ。小林洋子社長は、「このキャンペーンを成功事例として、在宅スタッフをフル活用し、ソーシャル・セールスプロモーション事業を伸ばしたい」と語る。
NTTコムチェオのこうした取り組みは、「データ解析」のサービスとしては、やや異色のものだ。しかし、ITに「ヒト」を付け加えて、だからこそデータの管理・活用を実現するという意味では、横展開ができそうな興味深い一例であることは間違いない。
記者の眼
この特集では、あえて「ビッグデータ」という言葉を控えめに使った。データを解析し、経営改善に活用することは、必ずしもペタバイト単位の巨大なデータでなくてもできるからだ。システムインテグレータは、今回紹介したツールやサービスを参考にしてデータ解析がビジネスになる可能性に着眼していただきたい。そして、「KKD」の「D」を、「データ解析」の「D」として定着させたいものである。