ITベンダーにとって、2013年がどのような年になるのかは気になるところだ。そこで『週刊BCN』編集部では、SIerやディストリビュータなど70社余りの経営トップや幹部に対して、13年のIT業界についてのアンケートを実施した。アンケート結果と、経営トップ層へのインタビューを踏まえて、IT業界の動向やトレンドを探る。(取材・文/佐相彰彦)
今回のアンケートでは、「国内IT市場全体(金額ベース)の前年比見通しは」「クラウドサービスとスマートデバイスを活用したビジネスの進捗度合いは」「海外ビジネス全体の進捗について」「ビジネス上、重視している大都市圏(首都圏以外)」という四つの質問を用意した。国内IT市場を見据えながら自社ビジネスをどのような方向に進めていくのか、新しいトレンドに対するビジネス展開の意欲、グローバル化が叫ばれているなかでの取り組み、厳しいといわれる地方での実態などを把握するためだ。
どの質問項目に対しても各社の考えが表明されたが、総じていえるのは、IT市場に明るい兆しがみえるということだ。以下、それぞれの回答結果を紹介する。
【市場動向】
国内IT市場はフラット 自社の業績はプラスへ
ITベンダーのトップに対して、「国内IT市場全体(金額ベース)の前年比見通し」についてたずねたところ、「0%以上5%未満」とする回答が85.9%と最も多かった。2013年の市場動向についてはフラットに続くと捉えているようだ。
一方、このような状況下で自社ビジネスについては伸ばすことができると考えているITベンダーが多い。国内ユーザー企業の多くは、欧州の債務危機や日中間の政治摩擦など先行き不透明な市況感のなかで、ITへの投資意欲に対して慎重な姿勢をみせている。自社のビジネスは成長するといっても、市場全体が爆発的に伸びるとはみていないことの現れで、「1ケタ前半が妥当」との回答が多かった。「マイナスに転じる可能性もある」と捉えるITベンダーもみられる。「5%以上10%未満」「10%以上」という回答は、「期待を込めて」という意識が強いようだ。
IT市場を俯瞰すると、ユーザー企業の社内にシステムを構築する「オンプレミス型」のビジネスから、今後はクラウドに代表される「サービス型」のビジネスが主流になる可能性が高い。ITベンダーの多くは、サービス型ビジネスを展開して自ら新しい市場を創造しようとしている。そうした姿勢が、「自社ビジネスについては伸ばす」という回答が多いことに現れている。
実際、ITベンダーに自社のビジネス状況を「天気図」で表現してもらったところ、「晴れ」との回答が全体の31.0%、順調ではあるものの景気や市場環境などの懸念材料が見え隠れするという意味で「晴れ時々曇り」と回答したベンダーは19.7%。半数近くが、基本的に見通しは明るいと捉えている。また、決して楽観視できないという意味で「曇り時々晴れ」の回答が31.9%、前半は見えないが後半に期待できるという意味で「曇りのち晴れ」「曇りのち薄日」が7.0%という結果だった。サービス型の提供というIT業界の転換期を迎えて、自社の強みを生かして成長軌道に乗せようとしている様子がうかがえる。
【新ビジネス】
クラウドとスマートデバイスがカギ 成長軌道に乗せる準備を着々と
コンシューマ市場でスマートフォンやタブレット端末などスマートデバイスの需要が増大している。2013年はその傾向が法人市場でも現れてくると見込まれている。実際に、BYOD(私物デバイスの企業活用)の制度を導入する企業や、パソコンの買い替えを機にタブレット端末を導入する企業もみられる。スマートデバイスと相性がいいのがクラウドサービスのアプリケーション提供で、ITベンダーの多くがクラウドサービスとスマートデバイスを活用して新しいビジネスを創造しようとしている。
「クラウドサービスとスマートデバイスを活用したビジネスの進捗度合い」についてたずねたところ、「計画通り」とする回答が64.8%と最も多く、「計画以上」も8.5%となっている。実に70%以上のベンダーがビジネス基盤を着々と整えている状況だ。
とくに、タブレット端末の需要が伸びるとする見方が大勢を占めている。これまでタブレット端末といえば、アップルのiPadが代表的な製品として取り上げられていたが、12年秋にGoogle Nexus 7などが登場し、Android OSを搭載した端末も充実してきた。これまでは、コンシューマの購入が多かったが、今後は業務での利用も増えることは間違いないと判断して、クラウドサービスとスマートデバイスを活用したビジネスに力を入れるITベンダーは、iPadに搭載されているiOS、Android OSを生かしたサービスの開発を進めている。
タブレット端末を導入する企業が増えることによって、懸念されるのはパソコンの買い替え需要がなくなるということだ。しかし、「外出先ではスマートデバイス、オフィス内ではパソコンといったように、今後は業務で複数の端末を使うようになるのではないか」とのベンダーの声もあることから、パソコンとタブレット端末を使い分けた提案も活発化しそうだ。また、パソコンを指タッチで操作できるWindows 8が登場したことをきっかけとして、業務使用のパソコンの新しい活用方法の提案を模索するITベンダーも現れている。
【海外ビジネス】
積極投資は40%以上 60%がビジネス展開へ
「海外ビジネス全体の進捗について」という質問に対しては、40%以上のITベンダーが積極的に投資する意欲を示している。また、60%程度が「ビジネスを手がけている」もしくは「これからビジネスを手がけていく」という状況で、海外を含めて業績を伸ばそうとするビジネスモデルが主流になりつつあることを物語っている。
海外ビジネスで、多くのITベンダーが拡大に力を入れているのは中国だ。これは、ユーザー企業の海外進出に伴って、ITベンダー側でも拠点を設置することが求められたことが発端となっている。多くのベンダーは日系ユーザー企業を対象としてビジネスを手がけているが、中国の現地企業をユーザーとして獲得する動きも活発化しており、クラウドを中心に低価格で提供できる製品・サービスの提供に力を入れている。
しかし、日中間の政治摩擦などによって、中国でのビジネスに“黄信号”が灯った。ユーザー企業の間では、「中国にはリスクがある」と判断して、新しい地域でのビジネス展開を模索し始める動きが出てきた。その新興地域がタイやベトナムなど東南アジアを中心とするASEANだ。これに応じるようにITベンダーも、ASEANへの拠点展開を模索している。海外に進出していなかったITベンダーのなかには、ASEANを中心に「13年中には進出したい」との考えを示しているところもある。
これまでの中国もそうだったが、とくに東南アジアを中心とするASEANは、IT新興国ということもあって国全体のインフラ整備が不十分なので、ベンダーにとってはビジネスチャンスがつかめる可能性が高い。オフショア開発先としても適した地域といえるので、今後はASEANでいかにビジネスを拡大することができるかが海外での業績を伸ばすカギになりそうだ。
なお、「興味はあるが進出することはできない」と答えたITベンダーの多くは、自社の強みが海外で通用するかどうかを模索中であることをその理由としているが、なかには「グループ会社が手がけているので、海外案件は、そのグループ会社に任せている」などという回答もあった。
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