2013年のIT業界は「晴れところにより曇り」──。ベンダー各社のトップにインタビューして自社のビジネスがどうなるかを表現してもらったところ、こうした回答が多かった。国内情勢をみると、2012年は中国との政治摩擦や政権交代などがあって、経済環境はまだまだ先行きを見通すことができない状況。しかし、スマートフォンやタブレット端末などのスマートデバイスを使った新しい製品・サービスの創造、クラウドサービスの小規模企業への浸透、海外事業の可能性、データセンター(DC)向け事業の継続的な拡大傾向といったように、決して暗い話ばかりではない。13年のIT業界は、先行きが見通しにくいなかで、舞い込んでくる大きなビジネスチャンスを確実につかもうとしている。(佐相彰彦)
2013年、ハードウェアやソフトウェア、情報サービス、ネットワークの主要IT分野には明るい兆しがみえている。
まず、ハードウェアビジネスについては、旧態依然のビジネスというイメージがあるが、この分野ではクライアント端末の販売に期待できる。企業でのスマートデバイスの利用が増える可能性があるからだ。実際に、ベンダー各社のスマートデバイス関連ビジネスは計画通りに進んでいるようで、さらに力を入れていく姿勢がみられる。13年は、タブレット端末が企業に浸透することが予想されており、ワークスタイルの変革を訴えたソリューションの提供がユーザーに受け入れやすくなるだろう。
また、12年10月に「Windows 8」が発売され、パソコンの買い替えも促進されることが期待されている。つまり、13年はクライアント端末をベースとしたハードウェアビジネスが拡大することになる。天気図で表わすと、ハードウェアビジネスは「晴れ」ということだ。
ソフトウェアでは、とくに業務ソフトの販売に変化が訪れようとしている。メーカー各社がクラウドサービスの提供を開始し、大企業や中堅企業が導入するだけでなく、ユーザーのすそ野が広がって小規模企業や個人事業主まで導入が進む可能性が高い。そのため、各社とも新規顧客の開拓に向けて販売網の強化を図ろうとしている状況だ。ただ、懸念材料は、販社がクラウドサービスをいかに力を入れて売っていくかだ。メーカーは、販社が利益を確保するためのチャネル制度の改善や課金の仕組みなどを工夫しなければならない。売れる環境にはあるが、一定の条件整備を求められるということで、「晴れ時々曇り」とみられる。
情報サービス分野では、SIerの多くが「晴れ時々曇り」という見方をしている。「晴れ」とみるのは、メガバンクの基幹システムの刷新やDCを活用したクラウドサービスのさらなる拡大、中国のほかにASEAN地域などの海外市場でIT化が進む可能性があるからだ。SIerのなかには、グローバルビジネスの拡大に向けて拠点の拡大やデリバリーモデルの構築に取り組んでいるところがある。とくに東南アジアの市場は、中・長期的にも需要が見込めるとあって、参入を計画するSIerが増えている。その一方、国内産業分野の景気動向は不透明で、「曇り」と判断するベンダーが多い。
ネットワーク分野は、DCへのネットワークを含めたシステムのインフラ構築がさらに活況を呈して、案件を獲得することができれば「晴れ」、獲得できなければ「曇り」、両方を勘案して「曇り時々晴れ」とみるベンダーが多い。ネットワークベンダーにとって、DCの構築で決め手になるのは、シスコシステムズのユニファイドコンピューティングシステム「UCS」だ。「UCS」はネットワークのノウハウがなければ構築できないので、システム構築に強いベンダーとの差異化を図ることができる。そういう事情があって、ネットワークベンダーは「UCS」を積極的に提案しているようだ。
調査会社のIDC Japanによれば、12年は復興財政支出や金融緩和、エコカー補助金などによって景気が浮揚し、国内IT市場規模は前年比2.3%増の13兆4691億円。11~16年の年平均成長率は0.7%で、16年の市場規模は13兆6463億円と予測する。また、同社の「国内中堅・中小企業ユーザー調査」では、11年度の売上高が増加した中堅・中小企業のIT支出動向に関して、堅調な業績によってIT支出を増額する企業が多くなっており、12年度のIT支出予算を「増加」と回答する率が48.3%と、「減少」の回答率13.0%を大幅に上回ったようだ。業績が堅調な中堅・中小企業では、13年度以降もIT支出の拡大が続くという。
このような調査結果を踏まえると、景気は徐々にではあるが回復傾向に向かっており、“暗闇をさまよう”ような景況感でないことは確か。「楽観視はできない」という見解で、ベンダーの多くが「曇り」の部分を残しつつ、自社の強みを改めて見つめ直して、得意とする領域やビジネスのなかに、スマートデバイスやクラウドサービス、ビッグデータなど、新しい要素を取り入れることによって「晴れ」を導き出そうとしている。