ユーザーニーズの把握がカギ
サポート強化を含めた取り組みへ
ネットワーク構築に強い国内インテグレータがSDN関連で取り組んでいるのは、ユーザー企業のニーズをしっかりと把握することだ。SDNで運用コストの削減や自動化が実現できるからといって、ネットワーク環境の改善でユーザー企業が「何をしたいのか」を明確にしなければ、逆にコストがかさむだけでなく、ユーザー企業のIT管理者にとって使い勝手の悪いネットワーク環境になってしまうからだ。インテグレータは今、SDN関連で挙がっている課題を洗い出し、検証を進めている段階にある。このプロセスを踏んでから、今後のビジネス拡大につなげていこうとしている。
【課題】
失敗すればコストがかさむ
「垂直統合型」の要望も
メーカーが相次いでSDN対応製品を発売している一方で、インテグレータの側は「製品が少ない」「標準規格が定まっていない」などの理由から、SDN関連ビジネスを本格化することができないという事情を抱えている。
現段階では、SDNの代表的な規格として、「OpenFlow」がある。しかし、SDNの普及がこれからということもあって、今後、新しい規格が次々と登場してくることが考えられる。OpenFlowベースの製品で構築し、後に新しい規格が出てきて、規格の互換性がなければ、ユーザー企業は再びネットワークをリプレースしなければならないという問題が発生することになる。
日商エレクトロニクスの坂田義和・マーケティング本部第二プロダクトマーケティング部第一グループエバンジェリストは、「以前からSDNという概念が注目されていたが、ここ数年でテクノロジーが大きく変化している。現状の製品でネットワーク環境を構築した場合、ユーザー企業にとってコスト高になってしまう危険性がある」と指摘する。新田学・マーケティング本部第一プロダクトマーケティング部長は、「ソフトウェアで管理するため、ネットワークの全体最適化を見据えなければならない。今はまだ見合った製品が少ないという状況でもある」という。
ネットマークスの高木経夫・マーケティング本部マーケティング部第二マーケティング室長も、製品の選択肢が現段階では少ない状況に触れて、「どんな製品を組み合わせれば最適なネットワークを構築できるかという“パッケージ”が存在していない。メーカーもトライアルの段階だろう」と分析。
ネットワンシステムズの高垣謙一・ビジネス推進グループビジネス推進本部担当部長は、「ユーザー企業のニーズを調べると、SDNによるオープンな環境を求める一方で、メーカーが推進している『垂直統合型』で提供したほうが最適なネットワーク環境を構築できるケースがある」としており、SDNだけがユーザー企業のニーズに対応できるとは限らないことを示している。

日商エレクトロニクスの坂田義和エバンジェリスト(左)と新田学部長【現状の取り組み】
導入実績の構築はこれから
先進ユーザーと検証を進める
規格や互換性などの問題を抱えていることもあって、現状ではインテグレータがSDN関連で横展開できるような導入実績はまだ現れていない。これから実績をつくるわけだが、そのために取り組んでいるのは先進的なユーザー企業での検証だ。このようなユーザー企業は、他社に先行して最適なネットワーク環境を実現したいという意識が強い。インテグレータ各社とも得意な業界で対象ユーザーを確保して、成功事例を生み出すことに力を注いでいる。
ネットワンシステムズでは、米Big Switch Networksと国内初の販売代理店契約を締結し、SDN関連案件を獲得しようとしている。米Big Switch NetworksのSDN製品は、他社製品との連携が容易なオープン性を売りとしている。ビジネス推進グループビジネス推進本部第2製品企画部クラウドチームの塚本広海氏は、「DCや研究機関からの問い合わせがきている」という。販売しているのは、オープンなAPIでサードパーティが提供するネットワークアプリケーションと連携が可能なコントローラ「Big Network Controller」のほか、Big Network Controllerを制御して拡張性が高い柔軟な仮想ネットワークを構成するアプリケーション「Big Virtual Switch」、Big Network Controller上で動作し、ネットワークの状態を一元的に可視化するネットワークモニタリングツール「Big Tap」の3製品。高垣担当部長は、「既存のネットワークを残しながら、自律型ネットワークのニーズに対応して検証を進めている」という。
日商エレクトロニクスでは、サービスプロバイダにアプローチをかけている。坂田エバンジェリストは、「現段階では、ネットーワーク機器を統合して自動化や安定性を求めるユーザー企業が多い。このようなニーズに対応するため、ハードの価値を最大限に生かしたネットワーク環境を構築している」という。
ネットマークスでは、教育機関やDC事業者などを対象に検証しており、「ユーザー企業の要望を聞いて、さまざまな製品を使いながらトライアルしている」(根岸潤一郎・マーケティング本部マーケティング部長)という状況。「メーカーを問わずに提供していくことが重要」(同)とのことだ。

ネットワンシステムズの高垣謙一担当部長(左)と塚本広海氏【今後の取り組み】
ハードに依存しないビジネスモデルへ
コンサル含めたサービスを提供
インテグレータのSDN関連ビジネスが本格化するのはこれからだが、ネットマークスの高木室長は、「ユーザー企業のサーバー仮想化やストレージ仮想化の導入が進む状況にあって、ネットワーク仮想化も自然な流れといえる。SDNに力を入れることは必須」とみている。同社は、2012年度(2013年3月期)からSDN専門チームを結成して技術検証に取り組んできた。専門チームに所属する吉本昌平・マーケティング本部マーケティング部第二マーケティング室ソリューションコンサルタントは、「グーグルに代表されるように、米国ではユーザー企業が積極的にネットワーク環境を改善しようとしており、自社で運用する人材を揃えていることが多いが、日本ではそうとは限らない。インテグレータとして、システム構築のコンサルを含めて、どのようなサポートを提供できるかがカギを握る」としている。「2013年度はSDN関連への投資を増やす」(根岸部長)との方針だ。
ネットワンシステムズでは、「パートナーシップを組んでいるメーカーと従来の関係を築きながら、今後はさまざまな製品を扱っていくことが重要となる」(高垣担当部長)という。そのため、米Big Switch Networksを販売するようになったわけだが、製品の拡充に加えて「拡販に向けて、アプリケーションに強いインテグレータとのアライアンスも重要になってくる」と、今後はさまざまなベンダーと協業していくことを視野に入れる。
日商エレクトロニクスでは、「SDNベースのネットワーク環境を構築するうえで、短期的にはハードの価値を引き出すことが重要だが、ソフトウェアで一元的に管理することがますます容易になってきた場合、インテグレータとしてビジネスモデルの枠を超えなければならないと認識している」(坂田エバンジェリスト)という。ネットワーク環境の改善を通じて、ユーザー企業が新たな収益モデルを創出できるビジネスを手がけることが重要としており、「エンジニアとマーケティングともに強化するために、採用や人材育成に投資する」(新田部長)としている。

(右から)ネットマークスの髙木経夫室長、根岸潤一郎部長、吉本昌平ソリューションコンサルタント記者の眼
今回の取材を通じてわかったのは、「2013年はSDN普及元年」といわれて、メーカー各社が新戦略や新製品の投入に力を入れているのとは裏腹に、国内インテグレータにとっては、SDN関連ビジネスを端的にいえば現時点では「様子見」であるということだ。メーカーの主導権争いが始まったばかりという事情もあって、製品が少なく、しかもユーザー企業の関心がまだ高まっていないことが要因として挙げられる。
ただ、サーバー仮想化やストレージ仮想化による情報システムの統合が進み、しかも統合管理の重要性が高まっているなか、ネットワークも統合的に管理しなければならない状況であることは間違いない。ネットワークでもハードの統合が進み、将来的にはハードありきのビジネスが縮小する可能性は高い。ネットワーク系に強いインテグレータにとっては、ビジネスモデルの転換が求められており、SDNを視野に入れたビジネスに着手する必要性があるということだ。
SDN関連ビジネスの拡大に向けて、今はインテグレータ各社が準備を進めているという段階。裏を返せば、ネットワーク管理の簡便化や自動化、ネットワーク環境の改善による業務改革を見据えた新しいアプリケーションの導入などを、ユーザー企業が要望した際に素早く対応する体制を今から準備することが成長の近道ということだ。