スマートフォン/タブレットの急速な普及によって、「モバイル」を切り口とするITビジネスが注目を集めている。ひと口にモバイルといっても、関連する商材は幅広い。デバイス管理やセキュリティ、モバイルアプリケーション開発、ネットワークの最適化などなど。ITベンダーは、どんな商材をどういうかたちで展開すれば、事業の拡大につなげることができるのか。この特集では、モバイルの事業化に取り組んでいるベンダーの先行事例を紹介しつつ、モバイルビジネスの商機を探る。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
スマートフォンとタブレットは汎用プラットフォームになった
米IBMによると、世界の40%の人々は、毎朝ベッドから起き上がる前に、スマートフォンなどのモバイル端末を用いてウェブサイトにアクセスする。さらに、81%のビジネスパーソンは、最低一つの私用のモバイル端末を業務に利用しているという。iPhone/iPadの登場をきっかけとして、個人・法人の両市場で注目を集めるようになったスマートフォン/タブレット。ここにきて、汎用コンピューティング・プラットフォームとしての本格的な普及が始まっている。
●箱に付加価値 日本では、2013年1~3月、スマートフォンの出荷台数は前年同期比4.0%増の681万台に、タブレットの出荷台数は同比187.2%増の201万台に伸びた。17年には、スマートフォンは3708万台、タブレットは969万台の出荷台数が見込まれている(図1)。B2Bビジネスを手がけるITベンダーが注目すべき法人市場の状況はどうか。画像管理などプライベートな用途に適したタブレットよりも、1台で通話と情報処理の両方ができるスマートフォンの利用が増える。調査会社のIDC Japanは、法人向けスマートフォンの利用者は12年の186万人が、16年までに773万人に急増すると予測している(図2)。
モバイル端末が普及することによって、その周辺ではさまざまなITビジネスが生まれる。そして、普及を促すためには、端末という箱に付加価値を与えるITベンダーの役割が求められる。スマートフォンの利用料金は従来型の携帯電話に比べてはるかに高額になるが、ではユーザー企業の許諾をいかに獲得するか。スマートフォンの利用によって生産性を高めたり、顧客対応を改善したりして、売り上げの拡大につなげる。提案のキーワードは、価値の創出による導入・運用コストの回収だ。
●印刷の激減はない 有望株は、モバイル端末での利用に適したビジネスアプリケーションの開発だ。IDC Japanは、企業向けモバイルアプリケーションの国内市場は2012年の100億6100万円が17年には478億400万円と、ほぼ5倍の売上規模に拡大するとみている(図3)。ユーザー企業の間でとくに需要が旺盛になっているのは、営業支援やスケジュール管理、ドキュメント管理など、業務の改善をサポートするツールだ。また、稼働プラットフォームとして、スマートフォンではAndroidがiOSを上回り、タブレットではiOSがAndroidを上回るという。
IDC Japanの調査結果を考察すれば、モバイル端末の普及は、アプリケーション開発を手がけるITベンダーにとって朗報になる。しかし、プリンタの販売を手がけるITベンダーにとってはどうか。スマートフォン/タブレットが紙を代替して、印刷需要が急激に減ることを懸念する事業者は少なくないだろう。その懸念に対してIDC Japanは、「印刷ページ数が激減する現象はみられない。モバイルユーザーはビジネス活動が活発で、パソコンだけを使用しているユーザーよりも、ページボリューム・カラー比率ともに高い傾向がある」とみる。スマートフォン/タブレットの利用が直接ページボリュームの減少につながるわけではないというのだ(図4)。
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