個人が所有するスマートフォンなどを業務でも活用する「BYOD(個人端末の業務利用)」が話題になっている。企業のなかで関心が高まりつつあり、ITベンダー各社は関連の製品・サービスを提供することでビジネスを拡大しようとしている。企業にBYODが浸透していく流れは、ベンダーが収益を高めていくうえで追い風になるのだろうか。インテグレータを中心としたBYOD関連ビジネスを手がける各社の現状や課題、今後の可能性などについて探っていく。(取材・文/佐相彰彦)
【BYODとは?】
英語の「Bring Your Own Device」の頭文字をとった用語で、個人のデジタル機器を業務で使うことを意味している。スマートフォンやタブレット端末など、スマートデバイスのユーザーが増加し、注目を集めている。会社側にとっては、社員にデバイスを支給する必要がなく、コスト削減につながる。一方、社員にとっては使い慣れた自分のデバイスを業務で利用できる手軽さがある。そのため、会社と社員の双方にメリットをもたらすといわれている。
だが、いいことずくめではない。個人所有のデバイスによって機密情報が漏えいする危険性があるからだ。また、通話料金の負担やデバイスの管理など、新しいルールも定めなければならない。「何から手をつけていいのかがわからない」というユーザー企業が多くなっており、ITベンダーがBYOD関連ソリューションの提案に踏み出そうとしている。
【ユーザー企業の利用実態】
無視できない「シャドーIT」の増加
ベンダーは「何が変わるか」を提案せよ

IDC Japan
渋谷寛
シニアマーケット
アナリスト 情報漏えいや社内ルールの改定などの手間がかかるリスクやネックがあることを考えれば、BYODなど制度として導入しないほうがいいと考える企業もあるかもしれない。しかし、それは間違いだ。社員が会社に無断で個人用デバイスで業務データを利用したり、社内業務システムにアクセスしたりする「シャドーIT」が増える危険性があるからだ。
調査会社のIDC Japanでは、BYODの利用状況を調査して、「BYOD導入率」「導入課題」「メリットとデメリット」「生産性向上」などについて分析を行った。その結果、BYODの導入率とシャドーITの利用率は、スマートフォンで29.2%に達したほか、タブレット端末で19.3%、モバイル型パソコンで19.6%、スマートフォンを除いた携帯電話で39.1%になったという。しかも、シャドーITの割合は、BYODの導入を検討している企業を含めると、それぞれのデバイスで6~8割を占めている。IDC Japanの渋谷寛シニアマーケットアナリストは、「企業がBYODを導入する際、避けられない問題として浮かび上がってくるのがシャドーITだ。今後、スマートデバイスを業務で活用したいという社員が多くなればなるほど、シャドーITの存在は無視できないものになる」と指摘している。
またIDC Japanでは、ノートパソコンとスマートフォンの所有など、1ユーザーで複数のデバイスを使用する場合を踏まえたBYOD/シャドーITのユーザー数も調査している。その数は、2011年の時点で192万人だったが、16年に1265万人まで拡大すると推測。11~16年の年平均では45.8%と高い水準で推移していくという。渋谷シニアマーケットアナリストは、「シャドーITが急激に増加する恐れがあるので、企業はこの問題に対処していかなければならない」と指摘しており、BYODがその解決策になるとしている。
BYODがシャドーITを抑制するうえで効果を発揮するといっても、「わが社はBYODを導入することにした」と宣言するだけでこと足りるわけではない。まず最初に、社員を納得させるルールづくりが必要だ。セキュリティポリシーの見直しなど、導入前の段階で整備しなければならない事項はたくさんある。渋谷シニアマーケットアナリストは、「企業がBYODを導入する目的は、社員のモチベーションを高めて生産性を上げるための環境づくりの一環という位置づけでなければならない。提供側(ITベンダー)としては、導入するためのコンサルティングを含めて、ユーザー企業のワークスタイルを変革するという意味合いで提案することが望ましいのではないか」とアドバイスする。
さらにIDC Japanは、BYOD導入率/シャドーIT利用率をみると社員数と負の相関があり、企業の社員数が多くなるにつれてBYODの導入率が低くなると指摘する。渋谷シニアマーケットアナリストは、「大企業の場合、本社のほか、全国に数多くの拠点をもっているので、BYODを導入するためのルールを全社員に浸透させるのに時間がかかる」と理由を説明する。もちろん、大企業でもBYODを導入しているケースはあるが、まずは中小企業にアプローチすることが、需要開拓のカギになりそうだ。
【ビジネスの現状】
新サービスが続々と登場
自社導入を生かした提案も

NTT
コミュニケーションズ
高橋克吉 担当部長 BYODを導入するにあたって、企業が直接にメリットを実感するのはコスト削減の効果だ。会社側でデバイスを購入する必要がなく、月々の基本料金を支払わなくても済む。その一方で、会社が個人所有のデバイスを管理するにあたってのネックがある。「プライベートの電話番号を会社に知られたくない」「紛失時に自分の保存したデータも一緒に消去されたら困る」など、社員の言い分があるからだ。こうした課題を解決するサービスを提供するベンダーが登場している。
NTTコミュニケーションズは、外出先から社内システムへのセキュアな接続を実現する「Bizモバイルコネクト」のスマートフォン向けリモートアクセスサービスで、個人所有のデバイスを企業で安心・安全に利用するためのアクセス制御・管理機能を拡充するとともに、電話などのアプリ連携機能を搭載した。これによって、例えば同社が提供しているIP電話アプリ「050 plus for Biz」とあわせて利用する場合に、アドレス帳やメール、ウェブブラウザ上にある電話番号のリンクをタップするだけで、「050 plus for Biz」を自動起動して利用することができる。ふだん利用している番号をプライベート用にして、「050」の番号を業務で利用できる仕組みである。
「Bizモバイルコネクト」を担当する高橋克吉・クラウドサービス部ホスティング&プラットフォームサービス部門担当部長は、「『Bizモバイルコネクト』のユーザー企業は200社を超えた。『050 plus for Biz』との親和性が高くなって、ユーザー企業が増える」と自信をみせる。現在、ダウンロード数が160万程度の「050 plus for Biz」と組み合わせることによって、「『Bizモバイルコネクト』のID数は、2016年に100万を超える」と見込む。
丸紅アクセスソリューションズは、クラウド型MDM(モバイルデバイス管理)サービス「VECTANT SDM(セキュアデバイスマネージメント)」で、BYODに対応したサービスメニュー「Stage2B/Stage3B」を追加。万が一の紛失や盗難のためにリモートロックやワイプに対応しているが、企業データ領域だけのデータだけに限定しており、社員の情報が保存されたデータや領域については制御しない。

丸紅アクセス
ソリューションズ
橋口信平
事業部長代理 橋口信平・モバイルソリューション事業部事業部長代理は、「ユーザー企業の社員のプライバシーを配慮した領域分割管理を提供している。情報漏えいを防止するために、業務上必要な企業データ領域だけを管理することができる」という。
企業にBYODの導入を促すうえで重要な要素になるのは、コスト削減などで実際の効果が把握できる指標を示すことだ。
NTTコミュニケーションズは、「Bizモバイルコネクト」「050 plus for Biz」を自社で導入し、社員に貸与していた7500台のうち3600台をBYODに切り替えた。これによって、基本料や通話料、パケット通信料など1か月平均でかかっていた一人あたりのコストが約5600円から約1300円までダウンした。三隅浩之・経営企画部BYODソリューション推進室長は、「一人あたりのコストとして77%の減少を実現したことによって、1年間で約1億3000万円のコスト削減に成功した」と胸を張る。この実績が企業への提案で説得力を発揮することになる。

NTT
コミュニケーションズ
三隅浩之 室長 エス・アンド・アイは、会社貸与のデバイスをPHSからiPhoneに切り替える際に、スマートフォンを内線電話として利用可能なシステム「uniConnect(ユニコネクト)」を自社で導入。ただ、iPhoneにしたことでコストが高くなってしまった。そこで、BYODの導入に踏みきり、個人所有のデバイスをiPhoneに限ってBYODとして活用してもよいというルールをつくった。さらに、BYODを活用している社員には基本料や通話料として1か月3000円を支給することに決めた。そのほか、データ通信カードについてもBYODを活用した際には1か月2000円を支給。村田良成・執行役員営業開発本部長は、「BYODの社内導入率は8割程度まで進み、コスト削減にもつながっている」という。
今後は、ノートパソコンのBYOD化にも取り組む予定で、「ノートパソコンだけで1年間で総額890万円程度は削減できるようになる」と試算している。
また、自社での経験をユーザー企業への提案に活用しており、ユーザー企業が着実に増えている状況でもある。村田執行役員は、「全体の15%程度を占めるBYOD関連ビジネスの売上比率を、今後3年間で50%程度にまで引き上げることができる」と言い切る。
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