多くのIT企業が、年度末と新年度を直前に控えて慌しい日々を過ごす時期がやってきた。今年度内の売り上げ確保に向けた追い込み提案と、新年度のIT予算取りに奔走しているSIerは多いだろう。SI商談のメイン商材として密接な関わりをもつx86サーバーは、未曾有の天災など予想外の出来事が起きた2011年にあっても売れた。とはいえ、今後については「出荷台数の限界がみえている」という声もある。さて、今後のマーケット環境はどうなのか。どう売ればいいのか。メーカーに戦略と効果的な提案方法を取材した。(取材・文/木村剛士)
販売戦略は横ばいを前提に立案
好調の裏で「天井はみえている」 上期は好調、復興需要も後押し 2011年度のx86サーバーの売れ行きは、東日本大震災とタイの洪水の影響を受けたものの、意外に伸びた。2011年4~9月の半年間(上期)の出荷台数は26万7852台で、前年同期に比べて6.7%増加。過去10年間で3番目に多かった(図1参照)。
伸びた理由はいくつかある。3月に起きた東日本大震災で物流体制が破壊されて出荷できない状況が一時的に発生し、「3月に出荷するはずだったものが、先送りになった」(調査会社のノークリサーチ・伊嶋謙二社長)ことが2011年度上期の販売台数を押し上げた。そして、「被災地のことを考えれば内心忸怩たるものがあるが、復興需要(情報システムの再構築)が結構あった」(x86サーバーメーカー幹部)ことも台数を伸ばす要因となった。
また、システムの二重化などの災害対策を施すために、x86サーバーを購入する企業・団体が増えた。従来からの仮想化技術の導入によるサーバー統合のニーズも根強く、販売に貢献した。「震災直後は、この先どうなるかがまったくわからなかった」(日本ヒューレット・パッカードの橘一徳・ISSビジネス本部本部長)ものの、結果的には好調だったというのが、x86サーバーメーカー幹部の共通見解だ。
納入台数が伸びた業種をみると、各サーバーメーカーが口を揃えるのは、ネット企業とデータセンター(DC)事業者だ。オンラインゲームやECサイトなど、インターネットを活用したサービスを提供する企業(ネット企業)向けの販売が伸びている。従業員数こそ少ないが、ITインフラが重要な事業基盤なので、メーカーにとっては大量購入が期待できる業種だ。そして、クラウドサービスを伸ばすために巨大なIT基盤を構築しているDC事業者も、メーカーが熱い視線を送る相手だ。「品質と納期、コストで要求レベルが非常に高いが、まとまった台数が見込めるので、当社も競合メーカーも必死。戦いは熾烈を極める」(デルの阿部浩也・CSMBアドバンスドシステムグループ本部本部長)という。これらの業種に向けての営業には、ほとんどすべてのメーカーが専任部隊を設けている。
シェアをみると、ここ数年は各メーカーの数値に多少の変動はあるものの、順位は変わっていない(図2参照)。表面上は順位に変動はないが、実際には各社ともシェアにこだわる姿勢を強めている。トップシェアを堅持するNECは、No.1のポジションを死守することに力を注いでおり、2位の日本ヒューレット・パッカード(HP)も「シェアを落とすということは、ユーザーとパートナーに満足してもらっていないということ。30%のシェアでトップを獲る」(橘本部長)と、改めて公言。3位の富士通も「トップシェアを目指す」(富士通の芝本隆政・システムプロダクト販売推進本部PRIMERGYビジネス推進統括部統括部長)と負けていない。そして、このところシェアを落としているデルも、「(今のシェアは)下がりすぎ。シェアだけをビジネスの指標にはしないが、以前よりもこだわる。必ず上昇させる」と、郡信一郎社長自らが宣言している。
急成長は期待できず、HDD不安も ノークリサーチが予測した今年度下期(2011年10月~12年3月)の出荷台数は、前年同期比5.5%増の27万4200台。その結果、通期見込みは6.1%増の54万2052台になるとみている。ただ、このデータは昨年12月19日発表の資料で、調査した伊嶋社長は「タイの洪水によるハードディスクドライブ(HDD)不足の影響が、台数を押し下げる要因になる可能性がある。需要はあるが、今の段階でも供給が追いついていないメーカーがある」と、今年2月上旬に説明した。下期および通期の出荷台数が予測値を下回ることも考えられるという。
その一方で、NECの浅賀博行・プラットフォームマーケティング戦略本部本部長代理は、「NECは、後になってユーザーとパートナーに迷惑をかけるようなことがないように、迅速に正確な情報を提供している」と前置きしたうえで、「機種によってはいくつか用意できないものもあるかもしれないが、2月下旬になれば、洪水前のように問題なく出荷できる体制が整う」とみている。このほか、「問題ない」というメーカーもあれば、「調達できていない」と不満げに語るSIerの声も聞かれ、2012年度に影響が出るかどうかは読みにくい。
では、2012年度のx86サーバー全体の国内出荷台数はどうなるか。x86サーバーメーカー幹部の予測は一致している。「楽観的にみて1~3%の伸び」という見込みで、「今年度とほぼ同じとみて戦略を練っている」という。伊嶋社長も「第4四半期(12年1~3月)の出荷状況次第だが、伸びても数%レベル。国内のx86サーバー市場は、もうすでに天井がみえている。急成長することはない」と言い切った。
SIerは、踊り場を迎えた状況で、x86サーバーを売るためのソリューションを企画・提案しなければならないことになるわけだ。では、SIerを支援するためにメーカーは、何を考えているのか。以下、そのポイントを各社ごとに紹介する。
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