NEC、NTT、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)、富士通、日立製作所の5社が、2013年、共同で研究開発プロジェクト「O3(オースリー)プロジェクト」を立ち上げた。総務省の委託研究「ネットワーク仮想化技術の研究開発」で5社の提案が採択されたもので、国の予算を使い、日本を代表するITベンダーがスクラムを組んだナショナルプロジェクトだ。ネットワークSDNを広域ネットワークに適用しようとする世界初の試みで、2013年に国が新たに定めたIT戦略「最先端IT国家創造宣言」で重点施策に掲げられている「ビッグデータ活用推進」に関する技術開発の核となる事業でもある。プロジェクトが目指すもの、そしてその成果がITベンダーにどんな影響をもたらすのかを探った。(取材・文/本多和幸)
Q&Aで理解するO3プロジェクトのポイント
【Q.】そもそも、O3プロジェクトって何? 【A.】広域ネットワークをSDN化するための技術開発プロジェクト
O3とは、「Open」「Organic」「Optima」という三つの単語の頭文字に由来する(詳細は、「プロジェクト名の由来」の項を参照)。
クラウドコンピューティングの普及により、ネットワークを利用するアプリケーションやサービスが飛躍的に増加し、そのニーズも多様化している。一方で、クラウドサービスの「賞味期限」の短期化も進み、サービスプロバイダには、とにかく早く新しい商材を世に出すことが求められるようになってきている。
ここで技術的に大きな課題となるのが、ネットワークの構築・変更にかかる時間をいかに短縮するかということだ。その解決策として、データセンターを対象にして、ネットワークの構成などをソフトウェアで制御・最適化する「SDN(Software-Defined Network)」というコンセプトを導入し、サービス提供までのリードタイムを短縮しようとする動きが顕在化している。こうした動きは今後さらに進み、世界中に存在するさまざまな事業者のデータセンター同士を結ぶ広域ネットワークにもSDNを適用し、ネットワーク資源をフレキシブルに活用するというニーズが高まるとみられている。
ただし、広域ネットワークは、光ファイバーネットワークや、3G、LTEといった無線ネットワークなど、多様な種類のネットワークインフラをベースにした通信サービスで構成されている。現状では、こうしたいわば異なるテクノロジーを横断的に活用して、ネットワークをスピーディに最適化するような技術は存在せず、サービスプロバイダがクラウドサービスを構築する際は、サービスごとに個別にネットワークを設計・構築している状況だ。
O3プロジェクトは、広域ネットワーク内のテクノロジーの差異を吸収し、SDNを適用して、多様なネットワーク資源を一体的に、自由に活用するための、ネットワーク仮想化技術の確立を目指す。こうした試みは、世界初。研究成果は、エンドユーザーや国内外の通信事業者、サービスプロバイダ、ITベンダー、さらには各種OSSコミュニティに公開し、グローバルな普及や標準化を推進する。期間は、2015年度までの3年間だ。
【Q.】広域ネットワークのSDN化で何が実現できるの? 【A.】ネットワークのリソースが即座に提供できるようになる
広域ネットワークをSDN化すれば、具体的にどういうことが可能になるのか。O3プロジェクトに参画しているNTTの福井将樹 NTT未来ねっと研究所メディアイノベーション研究部部長は、「少し前までは、サーバーを立てるのにも、ラックを建て、電源の工事をして、ネットワークの工事をして、といった建設工程のようなものがあったが、クラウド化が進んだことにより、GUIでCPUの性能やストレージの容量などを選択するだけで仮想サーバーが立ち上がるようなサービスも出てきて、コンピューティングリソースを即座に手に入れることができるようになった。要は、ネットワークでもそうしたサービスが実現するということ」と説明する。O3プロジェクト関係者がイメージしているのは、アマゾンウェブサービス(AWS)のネットワーク版だ。
これにより、新たなクラウドサービスを始めるたびにネットワークを設計して工事をしたり、通信機器の設定をしたりという、これまで数か月を要していた作業が必要なくなる。プロジェクトの取りまとめ担当企業であるNECの岩田淳 情報・ナレッジ研究所所長代理は、「既存のネットワーク資源を横断的かつ手軽に活用することができるようになることで、通信事業者はネットワークの設計・構築・変更を従来の10分の1の時間で実現できるほか、サービスプロバイダはサービスの開設時間を大幅に短縮できる。サービスがヒットしなければ、ハードの減価償却などを考えることなく止められる。エンドユーザーにとっても、求めるサービスがより早くサービスプロバイダから提供されるようになる」と、メリットを強調する。

(左から)NTT未来ねっと研究所 福井将樹 部長、NEC情報・ナレッジ研究所 岩田淳 所長代理 【Q.】ITベンダーへの恩恵は? 【A.】エンタープライズ向けSIなどへの活用が見込める
ネットワークに関する技術開発という特性上、O3プロジェクトの成果がダイレクトに影響するのは通信キャリアのサービスだ。プロジェクトでは、ネットワーク資源を必要に応じて切り出して販売する「AWSのネットワーク版」のようなサービスを、NTTグループが提供するということは当然想定している。モバイル通信の分野では、インターネットイニシアティブの「IIJモバイル」のように、自社で物理的な回線網をもたない仮想移動体通信事業者(MVNO)が通信サービスを自社ブランドで再販するモデルも確立されているが、そうしたビジネスも展開していく考えだ。
さらに、岩田所長代理は、「データセンターの構築や、エンタープライズ向けのシステム構築などにも大きく影響してくる。ネットワーク構築の自動化という部分にも活用できるので、ニーズは非常に大きいと考えている」という。
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