ソフトウェアでさまざまなネットワーク機器を統合管理する手法「SDN(ソフトウェア・デファインド・ネットワーキング)」に対応した製品の発売が徐々に登場してきており、ネットワークのリプレース需要を狙うインテグレータにとって、ビジネスチャンスが訪れようとしている。ただ、対応製品の少なさ、サポートのあり方など課題もあり、ビジネスを拡大するためには、いかにSDNとユーザー企業のニーズを組み合わせて最適なネットワーク環境を構築できるかがカギを握る。今回の特集では、メーカーによるSDN関連の動きやインテグレータによる取り組みの現状などを探る。(取材・文/佐相彰彦)
【SDNって何?】
ソフトウェアによってネットワーク全体を俯瞰し、一括制御して管理を容易にする手法。データセンターをはじめとして、ユーザー企業のシステムがサーバーの仮想化などによって統合されている状況にあって、ネットワーク環境も複雑化している。そのため、ユーザー企業のシステム管理者は全体を把握することが困難になっている。
また、システムの規模拡大につれて機器が追加されることで、VLAN設定やQoSなどネットワークの設定を変更する必要がある場合、管理者は手動で設定を変更しなければならず、ますます負荷が高まっている。そのような状況のなか、ソフトウェアで自由にネットワークを制御するSDNが注目を集めるようになった。
代表的な技術は「OpenFlow」で、その技術を搭載したハードウェア、ネットワーク統合管理ソフトなどを組み合わせることで、自動で設定変更が実現でき、運用コストの削減にもつながる。また、サーバー仮想化やストレージ仮想化が主流になりつつあるなか、ソフトウェアによってネットワークの仮想化を実現することで、仮想的に追加されるシステムにも対応できる。
インテグレータにとっては、ソフトウェアをベースにハードウェアを選定することになり、互換性の高い対応製品が増えれば独自のインテグレーションで強みを発揮できるというメリットがある。
2013年、業界は分岐点に立つ
メーカーの主導権争いが激化
2013年は、SDN対応製品が相次いで発売され、「SDN普及元年」とする見方がある。メーカーの動きが活発になり、ネットワークのリプレース需要を開拓して自社のSDN製品の導入を促して市場での主導権を獲得しようとしている。まずはメーカーの動きを中心に市場の様子をみていく。

アジアの大手メーカーやベンチャー企業、関連団体が集まる「NetEvents 2013 APAC Press Summit」では、ONFのリック・バウアー技術担当マネージングディレクター(写真)がSDNの優位性を説明した ●業界団体の動きが活発に SDNの普及を目指して、このところ業界団体が積極的に活動している。今年2月に開催された、メーカーや関連団体が集まってネットワークの現状や可能性を議論するイベント「NetEvents 2013 APAC Press Summit」で、SDNを推進する非営利団体の「ONF(オープン・ネットワーキング・ファウンデーション)」のリック・バウアー技術担当マネージングディレクターが基調講演で登壇し、SDNのメリットについてアピールした。
バウアー ディレクターは、「クラウドサービスプロバイダは、SDNをベースにした戦略を立てる必要がある。またユーザー企業は、プライベートクラウドや仮想化システムを導入する際、レガシーネットワークと簡単に共有できる単位で新しいネットワークを構築しなければならない」と指摘した。さらに、「SDNの一番の利点は、ネットワークを柔軟に構築できること」とも解説した。
ONFは、2011年に設立されたSDN関連の標準化技術を広める団体で、もともとはグーグルやヤフー、Facebookなどのように大規模なデータセンターを所有し、複雑なネットワーク環境運用の簡易化を求めるユーザー企業が立ち上げた。「ユーザー企業の立場から、現状のネットワーク環境で挙がっている課題の解決策を見出すことが目的」という。しかし、SDNの優位性を認識したメーカーが、ユーザー企業と密に情報交換したいと考えて加盟するようになった。そのような事情で、今ではネットワークメーカーやサービスプロバイダ、ユーザー企業など90社以上が参加している。「SDNに注目が集まってきて、数多くのベンダーが参加することになった。SDNはネットワークの主流になる。だから、参加企業は今後も増えていく」と、バウアー ディレクターは自信をみせる。
一方、メーカーはONFに加盟しながらも業界での主導権を獲得するために、新たな団体を設立することにも動いている。その代表的な団体が「DayLight」と呼ばれるSDNコンソーシアムだ。シスコシステムズやIBM、ヒューレット・パッカード、シトリックス、NECなどが参加しており、ネットワーク仮想化など各社が得意とする技術や機能を持ち寄って、SDNベースの強固なソフトウェアやコントローラの開発を進めている。このコンソーシアムを通じて新しい技術を搭載した製品を発売することになれば、SDN関連市場に大きな影響を与えることになるだろう。
●中小規模向け製品が登場 グローバルでメーカーによるSDN関連の動きが活発化しているのは、現段階で主導権を獲得しているメーカーが存在しないことに起因している。調査会社の米ガートナーでも、SDNベースの製品を導入する可能性が高いDCのインフラ導入でリーダー的なメーカーが存在しないとのレポートを発表している。したがって、2013年の動き次第でメーカーの勢力図が大きく変わる可能性があるということになる。
グローバルの状況と同様に、日本でも市場でのシェア獲得に向けて、メーカーが相次いで新製品を発売し、新戦略の発表を行っている。今年に入ってからは、シスコシステムズがネットワークコントローラとして「Cisco Catalyst 3850 Unified Accessスイッチ」と「Cisco 5760 Wireless LAN Controller」、ソフトウェアの「Cisco Identity Services Engine 1.2」「Cisco Prime Infrastructure 2.0」を発表。これによって、シスコシステムズはネットワーク統合運用を実現する「ユニファイドアクセス」関連の製品・サービスを強化したわけだ。
ジュニパーネットワークスは、ユーザー企業がSDNを実現し、メリットを享受するために必要となるステップとして、「管理の集中化」「ネットワーキングとセキュリティ・サービスのハードウェアからの分離」「コントローラの集中化」「ネットワークおよびセキュリティ・ハードウェアの最適化」の四つを掲げた。この戦略に伴う製品として、モバイル通信事業者やサービス・プロバイダ向け仮想アプライアンス「Mobile Control Gateway(MCG)」や、アプリケーション「Services Activation Director」を発表している。
日本HPでは、中小規模システムをSDNでカバーするために、ハードウェアの「HP2920-24/48G スイッチ」、ネットワーク統合管理ソフトウェアで「HP Intelligent Management Center v5.2」を発表した。
国内外ともにメーカーの動きが活発ななか、インテグレータは、どのような取り組みを進めているのか。以下、インテグレータの事業展開やSDNの課題、今後の取り組みなどを紹介する。
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