<プロジェクト名の由来>三つの“O”でO3
●O3(オースリー)とは
クラウドの上層にある「O3(オゾン)」をイメージ
●Open(オープン)
成果をあらゆるコミュニティに公開(ユーザー、開発者、産業、学術機関、さらには他のOSSコミュニティも含む)
●Organic(中立)
公正中立なプロジェクト(特定の企業や団体のためものではない)
●Optima(ネットワークの最適化)
サービスやネットワークの構築コストや品質、性能を最適化し、 ほしいときにすぐに使える
O3プロジェクトの名称は、三つの“O”に由来している。その一つは、「Open」。もともとSDNは、ネットワークのアーキテクチャをオープン化するという方法論。その延長上にある、O3プロジェクトは、その成果をプラットフォームとして、ネットワークサービスのオープンなエコシステムを構築しようとするものだ。エンドユーザーに対してオープンであることはもちろん、開発者やIT産業、そして国内外のさまざまなOSSコミュニティにも成果を広めていく。
一方で、そうしたプロジェクトの性質上、特定の企業のための利益を追求しない「Organic(中立)」な姿勢が求められる。これが二つめの“O”だ。
そして最後の“O”は、optimum(最適)の複数形である「Optima」。サービスやネットワークの構築コスト、品質、性能を最適化し、オンデマンドでフレキシブルに使えるネットワークサービスを提供したいという思いを込めている。
また、O3は、オゾンの化学式でもある。クラウド(雲)の上層にあるオゾン層をイメージしているとのことで、クラウドの「向こう側」にあるネットワーク技術の重要性を示唆している。
O3プロジェクト 三つの研究テーマ――ハード、OS、アプリケーションに相当
O3プロジェクトでは、研究開発課題として、「ネットワーク管理制御プラットフォーム技術」「ネットワーク設計・構築・運用管理ソフトウェア技術」「仮想化対応ネットワーク装置技術」の三つを掲げている。「コンピュータにたとえれば、仮想化対応ネットワーク装置技術はハードウェア、ネットワーク管理制御プラットフォーム技術はOS、ネットワーク設計・構築・運用管理ソフトウェア技術はアプリケーションのようなもの」(NEC・岩田所長代理)だという。
それぞれの課題を個別にみていくと、まず、「ネットワーク管理制御プラットフォーム技術」の開発では、SDNの代表的な標準技術である「OpenFlow」や、VPNやP2Pに代表される重層的な仮想ネットワーク「オーバレイ」、その他、光、無線、パケット通信など、通信キャリアが提供するさまざまな種類のネットワークを管理するための情報を共通化して一体的に扱えるようにする技術を確立する。仕組みとしては、ネットワークとプラットフォームをつなぐインターフェース部分で、異なる種類のネットワークを抽象化することで関連情報を共通的に扱えるようにし、それらの情報をすべてプラットフォーム内の巨大なデータベースに入力する。プラットフォーム内には、このデータベースを制御するプログラムも置き、その組み合わせによって、インターフェースに接続されたすべての種類のネットワークを一体で制御できるようにする。
一方、「ネットワーク設計・構築・運用管理ソフトウェア技術」は、文字通り、このプラットフォーム上で動作する、ネットワーク設計、構築、運用管理のためのソフトウェアを指す。プラットフォームAPIも開発しており、Javaやpythonといった言語で動かすことができるような仕組みをつくっているという。
また、「仮想化対応ネットワーク装置技術」の開発では、上記の技術で制御できるネットワーク装置の開発に取り組む。具体的には、既存の光通信システム、無線通信システム、パケットトランスポートシステムのネットワーク装置を制御するインターフェースやドライバ機能、さらにはネットワーク構成や機能を自由に変更できるソフトウェア通信機器を開発する。これにより、ネットワーク資源を低コストで効率的に活用し、サービス構築コスト最適化を実現する。
どこが違う? 従来のSDN研究とO3プロジェクト
O3プロジェクトは、SDNをベースにしている。ただし、従来のSDN研究が、OpenFlowやオーバレイなど、データセンターのネットワークで使われる技術領域を中心とするものだったのに対し、O3プロジェクトは、光ファイバーネットワークや無線ネットワークなど、データセンター外のネットワークも対象として、広域のネットワークを統合的に仮想化し、ソフトウェアで構成を定義、制御することを目指している。
また、従来の研究は、ネットワーク管理制御プラットフォーム技術までしか対象としていないが、O3プロジェクトでは、このプラットフォーム上に乗せる、ネットワークの設計・構築・運用管理ソフトウェア技術の開発にも取り組む。
こうしてみると、O3プロジェクトは、複数の軸でより広い領域をカバーする研究開発プロジェクトといえる。
確立するコア技術は五つ――個別の研究開発は参加5社で分担
実際の研究開発では、前ページで説明した三つの課題を踏まえて、(1)ネットワークプラットフォームの技術、(2)ネットワークを制御する技術、(3)パケット通信固定キャリア網のSDN化技術、(4)オーバレイ網のSDN化技術、(5)無線通信網のSDN化技術──の五つのコア技術の確立を目指し、これをプロジェクト参加5社で分担する。
幹事会社であるNECが(1)(2)(5)と、最も広い範囲を担当。とくに、ネットワークプラットフォームというO3プロジェクトの根幹となる部分をカバーしており、テレコムキャリア市場に対して、SDN化をグローバルで推進しようと全社一丸で動いていることの現れといえそうだ。NTTは(4)、富士通と日立は(3)を担当する。なお、富士通と日立が担当するパケット通信固定キャリア網のSDN化は、光コアネットワークレイヤとパケットネットワークレイヤをマルチレイヤで一元的に統合管理しようとするもので、富士通が光通信システムのSDN化、日立がパケットトランスポートシステムのSDN化とさらに細かく分担している。
また、NTT Comは、これらの全体を包含したSDNシステム設計、構築、運用の評価ガイドラインを作成することをミッションとしている。
三つの研究課題と各コア技術の関係は、図を参照していただきたい。
総務省も本腰 初年度は15か月予算で36.4億円を確保
コミュニティを拡大して世界のデファクトに

総務省
荻原直彦
情報通信国際戦略局
研究推進室長 O3プロジェクトは、総務省の委託研究「ネットワーク仮想化技術の研究開発」で5社の提案が採択されたものであり、同省のIT関連施策の目玉としても注目されている。2013年度の政府予算は、2012年度の補正予算と合わせて15か月予算として扱われることが多いが、この事業には、36.4億円という大規模な予算を確保した。同省の荻原直彦 情報通信国際戦略局研究推進室長は、「初年度予算でだいぶブーストしたかたちになった。2014年度以降の2年間は、ほぼ10億円超の予算で推移するだろう」と説明する。ただし、同事業は補助事業ではなく委託事業ではあるものの、「研究開発費のすべてを政府の予算で賄うのは難しい」(NEC・岩田所長代理)ため、参加5社は政府予算とほぼ同額の持ち出しを予定しており、3年間トータルで100億円規模の研究開発プロジェクトになると推測される。
このように、官民連携で本格的に走り出したO3プロジェクトについて荻原室長は、「研究開発の成果をオープン化して、国内市場はもちろんのこと、グローバルでイニシアティブを取ることができる技術に仕上げようとしているのがポイント。各ベンダーが単独でこうした事業を手がけるのは、コスト面のリスクもあって、難しい。国内の関連主要企業を集めてある程度の予算を用意し、効率のよい開発ができるオールジャパン体制を敷くことができたのは、国のプロジェクトならでは」と、成果に大きな期待を寄せる。
さらに、「ネットワークの設計、構築、変更を従来の10分の1に短縮するなど、こちらが提示している目標は、プロジェクト期間内に十分可能だと考えているし、むしろ成果は前倒しでどんどん発表していきたい。そうすることで、プロジェクトのコミュニティを国内外に広げていくこともできるだろう」とも話す。このプロジェクトを通じて、ネットワーク分野で世界のデファクトをつくりあげる。
記者の眼

NTT未来ねっと研究所
島野勝弘
主幹研究員 国の研究開発事業を活用し、国内の大手通信事業者やネットワーク機器ベンダーが協力して、広域ネットワークをSDN化する世界初の研究開発プロジェクトを立ち上げた。この事実だけをみれば、非常に夢のある話だ。
一方、海外の動きはどうか。ドイツテレコムやベライゾン、AT&Tといったグローバルの大手通信キャリアにも、SDNや、通信事業者発のネットワーク仮想化アーキテクチャである「NFV(Network Functions Virtualization)」を活用して自らのネットワークインフラを革新していこうという気運が高まっている。O3プロジェクトは現在のところ世界の最先端を走っているが、コミュニティを世界に広げ、成果を通信キャリアに実装していち早く商用化しなければ、ネットワーク技術のデファクトを握るという意味では次第に旗色が悪くなってくる可能性が高い。求められるのはスピードだ。
NTT未来ねっと研究所の島野勝弘 メディアイノベーション研究部将来ネットワーキング技術研究グループグループリーダ主幹研究員も、「例えばLinuxは、カーネルだけあってもどうしようもないわけで、O3プロジェクトも、単独で完結するのは無理。多くの人を巻き込みながらビジネスをつくっていかなければならない。さまざまなプレーヤーがコミュニティに入ってくれば、実ビジネスに乗るまでの期間は短くなるし、それがうまくいかなければ時間がかかる」と、課題を口にする。プロジェクト参加5社は、国内外のOSSコミュニティとの連携を積極的に模索し、グローバルで誰でも参加しやすい情報共有の場を設けたいとしている。
かつて家庭用ビデオ規格でベータマックスと争ったVHSのように、正真正銘の世界標準となる技術をネットワーク分野でも確立することができるのか。ナショナルプロジェクトの真価が問われる。クラウドに正面から向き合わなければならないITベンダーにとっても、注目すべきテーマといえる。(霞)