復活を期す組み込みソフト――M2Mとビッグデータで勝負
社会インフラに力を注ぐのは、メーカーだけではない。わかりやすい例の一つとして「組み込みソフト」業界が挙げられる。コアは、M2Mプラットフォーム「ReviveTally(リバイタリ)」、日本システムウエア(NSW)は同じくM2M基盤として「Toami(トアミ)」を重点商材として打ち出す。M2Mはビッグデータと並ぶ社会インフラ系IT商材として位置づけられており、両社はこれまで蓄積してきた組み込みソフト開発のノウハウを生かすかたちでM2M事業へ本格的に乗り出している。
●自社DCをM2Mの一大拠点に 
コア
簗田稔社長 組み込みソフト業界は、かつて「携帯電話」「情報家電」「車載機器(カーナビ)」の三種の神器が存在していたが、今は事実上、車載など自動車関連しか主力とはいえない厳しい状況にある。こうしたなかで彼らが活路を見出したのがM2Mだ。ビッグデータ分析のデータの供給元になる重要な要素で、あらゆる機器から情報を集め、ユーザーの経営に役立つかたちに仕上げることを目的としている。
例えば、流通・小売りサービスでは、売れ筋商材の選定やマーケティングの立案に、POSレジの売り上げデータの分析を役立てていた。これに人間行動を測定するセンサ技術や、人間行動のモデリング・解析技術を組み合わせたM2Mを導入することで、男女それぞれのどのくらいの年齢の客が、どの棚の商品をどれくらい見比べて、手に取った商品のうち、どれを棚に戻して(比較して迷ったが、結局、買わなかった)、最終的にどれを買ったのかをトレースできる。ビッグデータ分析の統計的手法を用いれば、これまで店員が経験上、なんとなくしかわからなかった顧客動向を、誰にもわかるかたちで可視化できる。
M2Mは各種のセンサ機器を制御する技術が不可欠だ。「ハードウェアの知識がないと組み上げられない」(コアの簗田稔社長)ので、組み込みソフトの技術を存分に生かすことができる。コアは、1万5000円から始められる「M2Mスタートアッププラン」を13年11月にスタート。M2Mはまだ新しい分野なので、ユーザーも何をどうすればM2Mを有効に活用できるのかわからない部分がある。「M2Mスタートアッププラン」は、既製のセンサとクラウド方式によるM2Mプラットフォームを安価に貸し出すことで、ユーザーに手軽にM2Mに挑戦してもらうことができるサービスだ。
コアは、「M2Mスタートアッププラン」によってM2M活用の敷居を低くする一方で、13年10月に自前で最新鋭のデータセンター(DC)を首都圏に竣工。独自にM2Mとビッグデータの研究を本格化させている。画像や温度、振動、加速度、花粉、糖度、位置、光、ひずみ、音声など、あらゆるセンサから収集した情報を自社DCに構築したM2Mプラットフォーム「ReviveTally」に集約。これにビッグデータ分析を加えて、ユーザーに役立つ情報を生成する「M2Mとビッグデータの一大拠点」(DC運用を担当するコアネットインタナショナルの吉原清彦社長)として機能させていく。
●社会インフラ輸出に攻勢 
NSW
多田尚二社長 日本システムウエア(NSW)のM2M基盤「Toami」は、M2Mシステムの開発スピードが従来比で約10倍に高速化できることに加えて、運用コストの削減も期待できる。ユーザーのM2M導入のハードルを下げることで、ビジネス拡大につなげる考えだ。NSWでは「生産ラインや橋梁の監視、店舗の電力消費、冷蔵・冷凍倉庫の温度の管理といった分野に、積極的にToamiを活用したシステムを提案していく」(NSWの多田尚二社長)と、M2Mビジネスの拡大に強い意欲を示す。
京セラコミュニケーションシステム(KCCS)は、携帯電話の基地局建設、保守・運用など、長年にわたって通信エンジニアリング技術をもっており、マレーシアでの合弁会社を通じて同国の電波の最適化事業に取り組む。最適化とは、一般にビルの影になって電波が届きにくいところを見つけ出して、電波の向きを変えたり中継局をつくるなどして「電波の死角」をなくす作業を指す。この技術を応用することで、例えば数万人が集まるスポーツ観戦で、人の移動に合わせながら指向性のある電波の向きを変え、携帯電話が常につながりやすいようにすることも可能になる。

KCCS
佐々木節夫社長 KCCSでは、この電波の最適化事業をマレーシアの合弁会社を使って海外に展開しており、「社会インフラの輸出形態の一つのあり方」(KCCSの佐々木節夫社長)と位置づけている。また、エンジニアリング事業を手がけてきたノウハウを生かして、太陽光発電や蓄電、エネルギー管理システム(EMS)事業の拡大にも乗り出しており、一般のSIerが手を出せない領域で勝負をかける。
●中国でもニーズが顕在化 
ITHD
前西規夫社長 日本とは何かと政治衝突が絶えない中国でも、社会インフラ絡みでは需要が顕在化している。NTTデータは、中国の交通状況に対応した交通モニタリングを行うための動画解析アルゴリズムの構築で、北京の中国科学院ソフトウェア研究所との共同研究を2014年1月に開始した。NTTデータ独自の応用技術を統合したサービスモデル「UCaST」をベースにして、中国の交通事情に対応する交通動画解析技術を確立。今年4月に研究の結果を発表し、その後も中国での交通分野における技術開発を連携して進めることで、中国における交通管理ソリューションのビジネス展開を両社で推進していこうとしている。
NECは中国・重慶市と戦略パートナーシップ契約を結んで、昨年10月、同市でスマートシティ・クラウドサービス事業を推進する新会社を立ち上げている。NECのクラウドサービス提供基盤を配備したDCを活用し、社会インフラを支える行政や交通、防災、エネルギー、医療、農業に関連するサービスを順次展開していく予定だ。新会社は、5年後には200人規模へ拡大させる計画だ。

NRI
嶋本正社長 SIerやITベンダーにとっての社会インフラ系ビジネスは、国内外でビジネスを伸ばす有力分野である。M2Mやビッグデータ、環境・エネルギーと例を挙げてきたが、国内で今、最も注目を集めているのが、2016年1月に本格的にスタートする社会保障・税番号制度(番号制度)である。情報サービス産業協会(JISA)は、番号制度プロジェクトの規模が大きく、かつ一斉にシステム改修の需要が発生することから「技術者の極端な不足が生じる」と、国に対して緊急提言を行ったほどだ。まさに「うれしい悲鳴」である。
JISAは国や自治体の「情報システム改修のピークへの対応」と、企業・団体の「税・社会保障関係事務の変更」の二つを問題点として挙げ、制度設計の早期確定と需要の分散を訴える。番号制度に関しては、大手SIerがこぞって受注を競い合っており、そのうちの一社であるITホールディングス(ITHD)の前西規夫社長は、「社会インフラ分野におけるIT投資の重要な要素」とし、自治体に強いグループ事業会社のインテックを中核に受注拡大を目指す。自治体領域にそれほど強くない野村総合研究所(NRI)も「金融機関や民間企業の税・社会保障関係の事務システムの改修で需要が見込める」(NRIの嶋本正社長)と、受注に向けて強い意欲を示している。
なぜ有望なのか――対Amazonのわかりやすい事例
M2M・ビッグデータは、なぜ有望なのか。わかりやすい例が、ネット通販のAmazonと、既存の流通・小売業との対比である。Amazonはユーザー属性から商品選びの行動や購買履歴が手にとるようにわかるのに対し、現実の店舗はPOSレジや会員カードで部分的に把握できるとしても、新宿なら新宿、秋葉原なら秋葉原の商業区域全体の顧客動向はほとんど掴めていない。
Amazonはそれそのものが巨大な商業区域に匹敵するほどの規模であり、なおかつ「綿密なビッグデータ分析によって、新しい商品をレコメンド(推奨)し、次の購買につなげている」(SIer幹部)。これでは、多くの小売業がAmazonをはじめとするネット勢力に屈するのは時間の問題だろう。M2M・ビッグデータは商業区域全体にセンサデバイスを張り巡らせ、Amazonと同等、あるいはそれ以上の情報に基づく分析を行うことで、勝ち残りをかけてネットに対抗していく強力な武器になる。
M2M・ビッグデータは社会インフラの重要分野の一つであり、これと並ぶ環境・エネルギー、番号制度も、社会や経済を持続的に発展させていくために欠かせないという点で共通している。社会インフラに食い込むことは、まとまった規模の受注が期待できることを意味しており、ベンダー同士の競争も一段と激しさを増すのは間違いない。