NTTコミュニケーションズが、クラウド事業に一段と力を入れている。経営資源をIaaSに集中投下し、アジアパシフィック(APAC)地域でNo.1の地位を獲得するのが、当面の目標。その達成に向けて、サービスメニューの拡充とアプリケーションソフトの開発に長けたIT企業との協業体制の整備を急ぐ。
クラウド事業を4年で2倍強に
大企業向け、中小向けを用意
NTTコミュニケーションズ(NTT Com)の有馬彰社長は、4月18日に開催した記者向け説明会「Global Cloud Vision 2013」で、データセンター(DC)を含めたクラウド関連事業の売り上げを、2011年度の840億円から2015年度に2000億円超にする挑戦的な目標をぶち上げた。
NTT Comがクラウド事業に本格的に取り組み始めたのは2011年。それからおよそ2年が経った現在、NTT Comは新しいフェーズに挑戦し始めたようにみえる。クラウド事業を担当する理事の田中基夫・クラウドサービス部長は、「グローバルで通用するDCとサービスを整備してきた」と自信を示す。DCは、この2年間でサーバーの設置面積を25%ほど増やして、約17万㎡に増強。香港やシンガポール、マレーシアなど、複数の国に設置した。
ビジネスは順調で、例えば、2年前に提供を始めたIaaSは「世界で均一なサービスを提供することで、グローバル展開する企業に受け入れられている」(田中部長)。NTT Comは、クラウドサービスのなかでもIaaSに力を入れる考えで、「APACでNo.1のIaaSベンダーになる」という目標を設定し、15年度にクラウド事業の売り上げ目標の半分をIaaSで稼ぎ出す計画を立てた。
NTT ComのIaaSは、グローバル企業向けの「BizホスティングEnterprise Cloud」と、月額945円(1仮想サーバー)からという低価格な「BizホスティングCloudn」の2種類がある。前者は、SDN(Software Defined Network)を活用して、ICT資源を柔軟に提供するもの。オンプレミス型の基幹システムを、クラウド環境に容易に移行できるようにするなど、「高性能のサーバーやストレージを使った高い信頼性と柔軟性」(田中部長)が特徴だ。
セキュリティ機能も充実させている。情報漏えいやシステム障害の懸念を払拭するためで、「当社のIaaSを採用したユーザーの4分の1がそこ(セキュリティ)を評価してくれた」(田中部長)という。9か国11拠点(13年7月時点)に設置するDC間のバックアップ機能も用意している。
IT企業との連携を推進
AWSとの戦いに備える
しかし、すでに世界で多くのユーザーを獲得している外資系IaaSベンダーと勝負するためには、機能以外の差異化ポイントが必要になる。そこで、NTT Comが最優先事項にしたのが、IT企業との協業だ。
「DCと海底ケーブル、IaaS環境をすべてもつインフラカンパニー」(田中部長)のNTT Comは、IT企業に自社インフラを使ってサービスを展開してもらうことがビジネスの根幹。ユーザーの既存システムを、NTT Comのクラウド環境に移行させるためには、業務ノウハウをもつIT企業と組む必要がある。目下の協業相手は、コンサルティング会社やユーザーの情報システム子会社が多いという。日本の有力SIerやITサービス会社は、IaaSも手がけているので競合関係になり、協業相手として相性が悪いのだろう。NTT Comの戦略は、「BizホスティングEnterprise Cloud」をIT企業にOEM提供し、パートナーの米国とアジアでのビジネス展開を支援することだ。
「米アマゾンのパブリッククラウドサービスが強敵になる日は近い」。田中部長はそう予想し、「アマゾン ウェブ サービス(AWS)」に対抗できるように「BizホスティングCloudn」の機能を強化していく計画だ。今の段階では「AWSほどの成熟度には至っていない」とし、今秋にも「BizホスティングCloudn」に仮想プライベートクラウド環境を提供するサービスVPCをメニューに加える。中小のIT企業にも使いやすいものにするためで、課題は「どう攻めるか」に移ってきた。しかし、「『Go to Market戦略』ができていない」(同)と捉えて、策を練り始めている。
田中部長は「グローバルなクラウド基盤を整備できたし、機能も競合に追いついた。次は、ユーザーにもっと役立つサービスにすること」と思案する。例えば、オープンクラウドの最新技術をどんどん取り入れて、IT企業に事業モデルの転換を促すようなクラウド基盤に仕立てるといったことも考えている。その開発がうまくいってサービスが進化すれば、NTT ComのIaaSを選択するユーザーやIT企業が増えるだろう。
【今号のキーフレーズ】
IaaSを中心に、クラウド事業を世界で伸ばす。まずはアジア。
外資系にはIT企業との協業を武器にして立ち向かう