便利だからといって、ついついAmazonのネット通販で買い物をしすぎてしまうことを「Amazon中毒」と揶揄することがあるが、企業向けの情報サービス領域でも同様の現象が起きている。パブリッククラウドサービスのAmazon Web Services（AWS）の機能拡張が進み、ユーザー企業の基幹系システムでの使用にも耐え得るレベルまで高まっているからだ。2012年下半期（12年6～12月）の「AWSパートナーアワード」では、ERP（統合基幹業務システム）ベンダーのワークスアプリケーションズや、大手SIerのTIS、NTTデータグローバルソリューションズなど有力ベンダーが表彰された。表彰の中身をみると、ERPやビッグデータ解析、SAP本番環境と、重要システムの事例が目白押しだ。

　AWSは、ITリソースを使った分だけ料金を支払う方式で、ハードやソフトを購入して保有する必要がないのが最大の特徴だ。高い信頼性が求められるコンピューティング基盤やストレージ、超高速データベース（DB）を活用したビッグデータ解析など、30種類を超えるサービス、およそ150のキーテクノロジーを駆使したサービスへと発展している。2011年に国内にもAWSのデータセンター（DC）を開設して以降、「世界で最も早いビジネスの立ち上がり」（AWS事業を担当するアマゾンデータサービスジャパンの長崎忠雄社長）の勢いを示しているという。

　だが冷静に考えると、本来、こうしたサービスはSIerが提供すべき領域ではないのか──。多くの有力SIerが何十億円、何百億円もかけてDC設備をつくり、サービスを提供しているにもかかわらず、一方でAWSを積極的に活用する姿は、どこか矛盾を抱えているように思えてならない。長崎社長は「AWSは従来のDCサービスの延長線上ではない」と言い切る。単なるホスティングやレンタルサーバーの延長線上ならば、世界でここまで評価されることはなかったというのだ。そのコメントに続けて、「SIerやISVとは相互補完の関係にあるし、どのサービスを活用するのかは最終的にユーザーが決めていくことになる」と、ビジネスパートナーとエンドユーザーの両方にAWS活用を訴える。

　国内のAWSパートナーは、SIerやISV（ソフト開発ベンダー）などを含め、公表分だけで100社規模に達している。中国など一部を除き、ほぼ世界の主要市場を網羅するAWSは、グローバルITサポートのインフラとしても有用だろう。SIerが将来に向けて戦略的に伸ばさなければならないクラウドを軸とするサービスビジネスと一部、重複・競合する印象は拭えないが、それでもAWSの先進性は認めざるを得ない。決して「Amazon中毒」にならぬよう、AWSとどう折り合いをつけて距離感を保ち、SIer自身の戦略ビジネスとのバランスをとっていくかが問われている。（安藤章司）