富士通マーケティング(FJM、生貝健二社長)は、SaaSで新戦略を打ち出す。全国の中小企業をターゲットに、自社と富士通グループ、ISVから複数のSaaSを集め、ユーザー企業が使いたいアプリケーションをウェブから容易に購入・利用できるSaaS提供基盤を2013年内に構築する。FJMの営業担当者とFJMの傘下にいる約400社のパートナー企業が揃ったSaaSを販売する仕組みも年内につくる。目指す姿は「クラウド(サービス)ブローカー」だ。今回のSaaS調達の第一弾は、ブランドダイアログ(稲葉雄一社長兼CEO)の「Knowledge Suite」だ。FJMはSaaS商材の中核として「Knowledge Suite」を位置づけた。(木村剛士)
狙うは全国の中小企業

FJM
浅香直也
執行役員 FJMは、富士通グループのなかで中堅・中小企業(SMB)のユーザー企業向けITビジネスを担当する。ターゲットエリアは全国で、自社の営業担当者による直販と、約400社の富士通パートナーを通じた間接販売を手がける。ビジネスは、ハード・ソフトの販売からSI(システム構築)、クラウドを中心としたITサービス、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスまで幅広い。2012年度(13年3月期)の売上高は1733億円。富士通のIT関連子会社のなかでトップクラスだ。
FJMは、「ユーザーの要望に沿って一からシステムを開発するSI事業は、今後もっと縮小する」(商品戦略本部副本部長 兼 商品企画統括室長の浅香直也執行役員)とみて、ここ数年、クラウドに力を入れている。その一環として、「GLOVIA smart きららSaaS」や「AZCLOUD」など、IaaS、PaaS、SaaSそれぞれでサービスを揃えてきた結果、FJMのクラウドビジネス(IaaS/PaaS/SaaS/データセンターサービス)は、直近3年度は前年度比で80%増で伸び、成果を上げている。クラウドには今後も投資する予定で、とくに「差異化できる範囲が広い」(浅香執行役員)と判断したSaaSに力を入れる。
FJMの新戦略は、富士通グループ会社やFJMのパートナー、ISVからSaaSを集め、新たに構築するSaaS提供基盤に並べる。ユーザーがその基盤から使うアプリケーションを選んで購入・利用するまでを簡単な操作で行うことができるようにする。IT業界では「マーケットプレイス」といわれる仕組みを、FJMも構築しようとしているわけだ。「際だった特徴をもつSaaSを複数用意して、ユーザーの要望に合わせて最適なSaaSを仲介して提案するクラウドサービスブローカーが目指す姿」だと浅香執行役員は言う。ターゲットは、SMBのなかでも「情報系SaaSのニーズが今後本格化する」とみた年商30億円以下の中小企業に設定した。
「他社にも同様の仕組みはあるが、私たちが差異化ポイントに置くのが『つながり』。個別のSaaSをバラバラに提供するのではなく、このインフラで提供するSaaSがアプリレベルやデータレベルなど、何らかのかたちでつながっていて、ユーザーが使いやすいように工夫する」(浅香執行役員)。
SIの縮小をクラウドで補う
このSaaS基盤で提供するISVの「中核SaaS」として位置づけたのが、ブランドダイアログの「Knowledge Suite」だ。グループウェアやワークフロー、SFA(営業支援)、CRM(顧客情報管理)など、複数のビジネスアプリケーションを揃えるクラウドで、4年ほどの期間で3000社弱に納入した実績がある。ユーザーは中小企業が中心で、従業員100人以下の企業が全体の約60%を占める。
FJMは、「Knowledge Suite」のユーザーがここ数年急速に増えている実績と、各アプリケーションの連携がしやすいテクノロジーを高く評価して、今回のメイン商材に位置づけた。FJMはすでに自社の営業担当者や傘下のパートナー企業に商品の説明などを開始している。目標は、3年間で3000社の中小企業の獲得だ。ウェブを通じた効果的なプロモーションで、見込み顧客を発掘して営業担当者に紹介するほか、タブレット端末を活用したデモンストレーションを多用して、商品をわかりやすく案内する。地方のパートナーがユーザーに訪問提案している場合は、ブランドダイアログやFJMの営業担当者がウェブ会議システムとタブレット端末を活用し、ウェブを通じて遠隔地から商品を説明するという営業方法で達成を目指す。

ブランドダイアログ
稲葉雄一
社長兼CEO ブランドダイアログの稲葉社長兼CEOは、「私たちは全国の中小企業に対してくまなく提案できる間接販売網づくりに力を入れている。過去でいえば、通信キャリアではKDDIと組んで、販売網を強化した。今回はそれ以上に強固な体制が必要で、全国のSMBに強いSIerとの協業を模索していたなかでFJMに協業を打診し、アライアンスに至った。FJMとがっちり手を組むつもりなので、FJMと同じような業態やターゲットのSIerに協業を依頼されても組むつもりはない」と語っている。
浅香執行役員は「FJMのクラウドビジネスは伸びているといってもまだまだ。急成長させなければ、既存SI事業の落ち込みをカバーできず、生き残りが難しい」と、現状に満足していない。FJMのクラウドビジネスは2012年度で40億円程度で、全売上高の2.3%にすぎない。浅香執行役員は、この比率を「少なくとも15年度には10~15%に引き上げなければならない」と力強く語る。
FJMは、規模は大きいとはいえ、ハードの販売や一般的なSIなど縮小を余儀なくされるビジネスの比率が高い。今回の新戦略には、そうした既存ビジネスから早く脱却しなければならないという危機意識が滲み出ている。