関連のIT企業がみたフューチャースクール 明らかになった課題と文教市場の今後
「フューチャースクール推進事業」で、小学校の実証研究は、東日本5校をNTTコミュニケーションズ(NTT Com)が、西日本5校を富士通総研が請け負った。IT企業側からみたこの事業の意義と市場の課題、そして、今回得られた知見をどう自社のビジネスに生かそうとしているのか、両社の担当者に聞いた。
東日本
NTTコミュニケーションズ
●クラウドが市場規模を広げる 
公共営業グループ
営業課長代理
坪田篤子 氏 「フューチャースクール推進事業」で重要なテーマだったのが、ICTを活用して教え合い、学び合うことで学力を向上させる「協働教育」をいかに機能させるかということ。クラウドアプリケーションの導入などで、その答えがみえてきた。
一方で、コストの問題が今後の阻害要因になるのも確かだ。そしてその大部分は端末のコストが占めている。教育環境のIT化は、端末ではなくコンテンツにお金をかけるべきもの。これを乗り越えるために、BYOD(私用端末の業務利用)は有効だと考えている。就学援助、助成金、補助金など、さまざまな費用援助のかたちも検討されるべきだろう。
ITインフラの整備という観点では、やはり教育・学習クラウドプラットフォームが普及することが、施策の目標達成のキーになる。文教市場は、クラウド化が進めば進むほど、電子文具の市場も広がり、市場規模が大きくなっていく。10年後には、5兆円くらいの規模になるのではないかという期待もある。
当社としては、実績のあるクラウド基盤で文教分野のビジネスを伸ばそうと考えているが、そのためには魅力的なGUIが必要。また、コンテンツをつくる企業との連携も重要になってくると考えている。(談)
西日本
富士通総研
●企業システムとは違う種類の安定性が必要 
第一コンサルティング本部
公共事業部
マネジングコンサルタント
蛯子准吏 氏 当初は、全員がいっせいにアクセスするような環境で、無線LANでの通信が安定稼働するのかという不安もあったが、チューニング次第で対応可能なことがわかり、そのノウハウも蓄積できた。今では自治体が独自に進める教育環境IT化事業でも、「フューチャースクール」の成果が活用され、無線LANがスタンダードになっている。
ただし、学校でのICT環境整備という点では、依然としてコストは大きな課題だ。今回のプロジェクトでは、児童一人あたり3年間で40万円のコストがかかった。これは全国的に普及するのには厳しい価格で、劇的に引き下げる必要がある。運用コストも下がっていない。OSSを活用するなど、自律的に運用できるシステムをベンダー側が提案することも必要になる。
システムや通信の安定性も、一般の企業システムとは違う基準で考えなければならない。初等・中等教育では、システムに不具合が起こったからといって休講にするようなことはできない。特定のOSに依存した運用の柔軟性に欠けるシステムはニーズに合わない。
学習記録データの利活用も重要なテーマだが、まだ現場ではほとんど実現できていない大きな課題。富士通グループは、学習データの有効活用のデザインにも注力していく。(談)
4年間で6712億円 教育環境IT化予算の現状
2020年度までに公教育の現場で一人1台の情報端末配備を進めるとして、その予算はどうなっているのだろうか。実は、「一人1台」の前段階として、昨年閣議決定された「第2期教育振興基本計画」で、2017年度までに、まずは3.6人に1台のPC、各普通教室に1台の電子黒板などを配備するという目標が掲げられている。その達成に向けて、2014年度から2017年度までの4年間合計で6712億円、単年度で1678億円の地方財政措置が講じられている。
しかし、これは補助金のように紐付きの財源ではないので、自治体の判断で別の用途に使うこともできる。これまでもほぼ同水準の予算が教育環境IT化のための予算として計上されてきたが、文教市場大手の内田洋行によれば、「実際に予算執行されているのは1000億~2000億円程度」だという。文科省の降籏友宏・生涯学習政策局情報教育課課長補佐は、「首長に理解があれば別だが、一般に教育委員会や教育担当部局は、財政担当部局と交渉して予算を確保するのが得意とはいえない」と話す。
「一人1台」の教育環境が普及すれば、ITベンダーにとっては1兆~2兆円の市場になるともいわれる。そのためには、現在用意されている予算を各自治体にしっかり使ってもらわなければならない。ベンダーも教育委員会や担当部局の理論武装をサポートしていくべきだろう。
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